4月6日にNPR(核態勢見直し)が発表され、4月22-23日にエストニアで開催されたNATO非公式外相会談では、NATOの核態勢をどうするか議題となりました。
そこでの結論はクリントン米長官の発言、「いかなる決定も秋の首脳会談まで延期されるべきである」になったのですが、そこでの議論は・・・・
●クリントン長官の姿勢は、戦術核の削減にオバマ政権は反対ではないが、少なくとも米の10倍の戦術核をもつロシアがその削減に同意しない限りNATO地域からの米の戦術核の撤去はない。「核兵器が存在する限り、NATOは核同盟であり続けることを認めるべきである。核同盟として、核の危険と責任を広く共有することは基本的なことである」
●一方、ドイツ、オランダ、ルクセンブルグ、ノールェは戦術核撤去を議題にするように求めた。ドイツの自由民主党の外相ヴェスターヴェルが熱心である。
●しかしトルコや旧ソ連圏諸国は撤去に消極的である。ポーランド外相は、急ぐべきではないし、一方的な行動にでるべきではないと述べている。
●ラスムセン事務局長も「米の核兵器の存在は信頼性のある抑止の不可欠な部分である」と述べた。政治的な亀裂の深さ故、この問題は同盟の分裂につながりかねないとの懸念を持っている。
以上のような背景を念頭に置きつつ、Air Force Magazine 7月号の記事「Nukes for NATO」をご紹介したいと思います。
●70年代の欧州の核戦争計画では、非常時には60機のF-111戦闘爆撃機が迅速に核任務を帯びて出撃することになっていた。それ以前は50年代から振り返ると、空母搭載の海軍機AJ-1、空軍のF-84、80年代にはいるとF-100(写真左は模擬弾投下訓練)やF-104Gがその任務を順に担っていた。
●80年代は欧州で、1個航空団で6機のF-16がB61核爆弾を搭載してアラート待機につき、15分で発進できる態勢を取っていた。
●しかし冷戦後はそのレベルの待機は終了し、現在は数週間の準備期間が必要な待機態勢になっている。CRSの研究者によれば、欧州には現在戦闘機に搭載可能な核弾頭が数百有るのみである(4月26日付NYtimes紙は、米はドイツ、ベルギー、オランダ、イタリー、トルコに150から250の核兵器を有すると報じている)
●現在はF-16とF-15Eがこの拡大抑止を担っているが、機体の老朽化が進んでいる。海軍ではFA-18と海兵隊のAV-8Bが核搭載可能になっている。
●F-35開発初期段階では、核搭載能力が必要か否かについて議論が有ったが、国防省関係者はその必要性を強く主張した。
●同盟国では、英国はハリアーが核搭載可能(潜水艦のトライデントミサイルも)である。核非保有ではあるが、独、伊、蘭及びベルギー航空機は米のB61核爆弾を搭載可能である。これらNATO同盟国が購入可能な核搭載可能戦闘機が必要であり、F-35にF-16の後継の役割が託された。
●それ故、F-22に核搭載能力を付与しようとの議論は起こらず、空対空に最適化したものとなった。
●ただし、戦闘機を核搭載仕様にするには資金が必要だ。F-35に許可を付与するには、約300億円の追加費用が必要になる。主に内部の配線やアビオニクスへの措置が含まれる。
●F-35経費は厳しい精査に直面しているが、本件に関してはペンタゴンの関与は確かである。空軍の責任者もF-35の「2重任務化」に自信を持っている。
●もう一つの課題はB61核爆弾の維持である。60-80年代に生産され、改良を加えながら多数のバージョンがあるB61の延命措置が不可欠である。
●しかし現在、核施設が海軍用の核爆弾W76の延命措置で手一杯であり、また施設の維持には継続的に投資が必要である。しかしF-35の遅れには関係なく、B-2が使用するためにもB61の延命措置が必須であると関係者は訴えている。
●しかし、政治レベルでは本件は揺れ動いており、海軍W76への措置は議会で支持を集めているが、空軍B61については削除の声も挙がっている。
●F-16やF-15Eの老朽化は進んでおり、F-35以外にその任務を引き継ぐ機体はない。敵の防空網が強固になり、スタンドオフ兵器を搭載しない巨大なB-2が核攻撃の役割を特に昼間果たせなくなったら、F-35に任務を譲るしかないのだから。(以上が「Nukes for NATO」の概要)
戦術核の問題は欧州にとって「デカップリング」議論を呼び起こす大きな問題です。秋のNATO首脳会談は、アフガン活動の進捗を見極める意味合いで非常に重要ですが、本件も大きな議題となりそうです。
また・・・核の傘の有効性のために、戦術核が重要との見解には、非核原則の今後のあり方との関連で、日本として注意して見ておく必要があるでしょう。
(400記事記念の特別保存版記事)
「ゲーツ改革のまとめと整理」http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-17
「400記事記念 反響大の記事特集」http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-18
コメント