私が国防長官を辞したら、「空軍の本来の姿に戻れる」と考えている者が一部にいる。しかし、決してそうはならない。
4日、ゲーツ国防長官は空軍士官学校で「最後の講義となる」と明言し、これまでの主張を総括する形で将来の空軍リーダー候補生達に語りかけました。
先月25日には陸軍士官学校で同様の講義を行っており、近々海軍士官学校でも行われるのでしょう。米国防省HP記事及びスピーチ原稿より
本ブログの読者の皆様には聞き慣れたフレーズが並びますが、久しぶりにゲーツ節を「ご堪能」頂きましょう。
現状をどう見るか
●4軍全てに、20世紀の世界観が根強く残っており、変化を妨げている。変化はどのような大きな組織にとっても容易いモノではないが、最近10年間の戦いが伝統的な戦力にフィットしていないことは明らかである。
●米軍は戦闘で40年間航空機を失っておらず、朝鮮戦争以来、敵の攻撃を受けていない。しかし、21世紀の制空権はこれまで米軍が当然と考えてきたモノとは全く異なるであろう。
●米空軍は、空対空戦闘と戦略爆撃に捕らわれすぎており、他の重要な任務や能力を無視しがちである。
●ある意味で空軍は、その成功の犠牲者とも言える。
新たな能力への抵抗
●例えば私がCIA長官だった1990年代前半、私はイスラエルが無人機を偵察等に有効に使用していることを見聞きしていた。そこで私は、空軍と共同出資で柔軟性があり可能性も持った無人機の導入を働きかけたが、1992年に米空軍はこれを拒んだ。
●しかし私は3年前、無人機をISR等アセットとして導入するため、今回は牙をむいて4軍と立ち向かった。
●私は無人機によるリモコン戦争が将来の戦いを決するなどとは考えていない。時代にあった最適なバランスを、柔軟に追求すべきだと述べているのだ。
空軍の新たな緊要分野
●2010年、CASは前年から2割増加した。また無人機ISR飛行は07年の3倍、08年の2倍となった。物資の空中投下は09年の2倍となり、これらへの現場指揮官の要求は日々増加し続けている。
●人命救助(PR:personnel recovery)のため、昨年は9700ソーティーの飛行が行われ、生存に直結する負傷後1時間以内での病院への搬送が地上部隊を支えている。
●私が国防長官を辞したら、「空軍の本来の姿に戻れる」と考えている者が一部にいる。しかし、決してそうはならない。現場のニーズや世界情勢を考えれば、それは自明であろう。ISR、CAS、PR、空中投下や空軍兵士が地上で行っている多様な任務は、今の戦いを越えて求められるモノだろう。
●また、サイバーや宇宙と言った分野の重要性を、将来の軍のリーダーはしっかり理解しなければならない。
拒否戦略への対応(A2AD対応)
●中国のように、対艦を含む多様な弾道ミサイルによる長距離精密攻撃力、強固な防空組織、静粛な潜水艦をそなえた国や、これに続くイランや北朝鮮などの国が冷戦以来の米国の移動や戦力投射能力の優位性を脅かそうとしている。
●空軍は米国の優位性維持をリードする役割を担っている。海軍とともに検討されているAir-Sea Battle Conceptは、21世紀前半の抑止力たる潜在力を持っており、統合力の発揮が期待されている。例えば、海軍が空軍基地の防空に当たり、空軍爆撃機が潜水艦の作戦を支援するなどである。
●厳しい財政下でも、2012年度予算案に大統領は、長距離攻撃能力(a joint portfolio of long-range strike systems,including a new, optionally manned, nuclear-capable, penetrating Air Force bomber)に投資している。
●またF-22にはF-35の技術を利用して妨害に強いレーダー技術で近代化を計画し、F-15のレーダーも改善を計画している。航空戦力の屋台骨となる2400機のF-35には25兆円をも投資するのだ。
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2月25日の陸軍士官学校での講演を読んでるうちに、空軍士官学校でも講演がありました。花粉症との戦いの中、この精力的なペースにはついていけません。
陸軍士官学校に関する米国防省HP記事には、「今年後半に退任することから、今回が最後の講演」との記述がありました。2012年度予算が落ち着くまでは頑張ってもらえるようです。
陸軍士官学校での講演には、新たな視点も述べられていますので、後ほどご紹介しましょう。いつになるやら・・・
(士官候補生への講演)
「海軍士官候補生には・・・」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-09
「士官候補生に語るシリーズ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-10
「空軍士官候補生に厳しく語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-06
(学生の卒業式や少年への講演)
「CIAでの失敗を高校で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-25
「大学で「公への奉仕を」」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-12-22
「ボーイスカウトの精神を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-29
「ROTC学生へ 4軍が抵抗」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07
「空軍は単に飛んでいたいのか」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-02
「特殊部隊にもっと女性が」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-02-1
「Air-Sea Battleの状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-23-1
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
「Air-Sea Battleの起源」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-24-1
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