7日、国防省にフロノイ次官(政策担当)ほか多数の人材を送り込んでいる急上昇シンクタンクCNASが、緊縮財政下の資源配分について提言するレポート「Hard Choices: Responsible Defense in an Age of Austerity」の発表会見を行いました。
そういえば先週、若きCNAS理事長のNagl氏が国防省の政策諮問委員会の新メンバーに選出されたとのニュースも出回っていたところ、このレポートにも注目が集まっています。
レポートの執筆陣は、退役陸軍中将をリーダーにした若手のCNAS研究者によるチームです。陸軍や海兵隊地上部隊の内情を知るリーダーだからこそ言える「予算配分比率の打破」。日本にもこのような勇気ある内部告発者が必要です。
7日付「DODBuzz」報道の同レポートの方向性は・・・
●米国は多少のリスクを負う覚悟で、まず西太平洋地域、次に中東地域での戦いを念頭に、緊縮財政下の資源配分を考えるべき。これら2つの地域の特性を考えれば、海軍及び空軍アセットへの投資が地上部隊より必要になるのは自然な帰結。
●このためには、長年維持されてきた予算配分の「黄金比率」を打破することが必要。これは決して容易いことではないが、ぜひとも必要。
●「黄金比率」打破は容易ではない。なぜなら、10年に渡る戦いを甚大な犠牲を払って続けてきた地上部隊をむげに切り捨てることはモラルに反するし、以前の軍縮時のように、陸軍海兵隊は整然と削減を受け入れ始めないだろう。
●一方、米国民の間で明確な脅威認識や切迫感が共有されていない中にあって、海軍や空軍への投資は非常に集中的で、各装備の価格が極めて高いことが障害となる。同時に一般国民の間では、概して陸軍や海兵隊が最も重要だと信じられている。
●このように4軍間のシェア争いだけでなく、国民感情的にも「黄金比率」打破は極めて難しいが、我々はこれを打破せねばならないと結論付けている。
●例えば海兵隊は、戦闘車両、火砲、戦闘爆撃機の装備に加え、全英国軍より多い兵員を保有している。また脅威の変化の中でも、重厚な車両や足の短い攻撃機と、着上陸装備と有人機を主体とした、他軍種と重複する装備で構成されている。(写真左はCNAS理事長Nagl氏)
●これらの重複は時にリスクに備える意味もあるが、今やそのような予算的余裕はない。統合運用により、陸軍のヘリや空軍のC-130を使用すれば十分な部門もある。
●西太平洋での作戦を考えるなら、海兵隊の展開能力や柔軟性が必要では、との主張もあろう。しかし国防省の訴えにもかかわらず、国民は10年に渡るイラクとアフガンの戦いが財政赤字の主要原因と認識しており、軍事的に「恐るべき民意誘導の削減」であっても、政治的には避けられない方向であろう。
●避けられないのであれば、海空重視の大きな方向へ向けての「黄金比率」打破があるべき方向であろう。
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来年2月の2013年度予算案提出時に明らかになる予定の、米国防省による資源配分の方向性ですが、先日のリン元副長官最後の講演でも紹介したような長距離攻撃重視、今日のCNASレポートにもあるような「海空重視」の方向に向かうのでしょう。
我が国だって例外ではないと思います。抑止力としての効果や日本の地理的環境を考えれば、海空重視は自然な流れです。
震災対処にがんばりを見せた陸自をむげに切り捨てることは「モラルに反する」との感情論や、目先の災害派遣しか見ていない国民やそれを利用する陸自の組織防衛作戦を前に「黄金比率」打破は困難と伴いますが、やらねばならないと思います。
資源配分関連
「陸軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07-1
「リン副長官最後の日に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-04-1
「石破茂・元防衛大臣の怒り」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-24
「海兵隊は生き残れるか」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-16-1
「海兵隊へ再び最後通牒」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-08-16
「海軍海兵隊とも全面対決へ」 http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-04-1
「(追加)海軍海兵隊とも全面対決へ」 http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-07
陸自削減関連
「北岡伸一氏を支援する・・」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-04
「読売も社説:陸自削減を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-21
「国防より組織防衛」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-16