先日、Foreign Affairs 9-10月号に掲載の米ピーターソン国際経済研究所Arvind Subramanian氏の論文から、「控えめに見積もっても、2030年に中国が経済的に世界の覇権国となり、その経済力によって米国に自らの意思を押し付けることができるようになるのは避け難い」との主張をご紹介しました。
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「予想より早期に中国が派遣国?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-03
しかし同じForeign Affairs9-10月号は、上記の論文と対立する意見を主張する豪シドニー大学のSalavatore Babones教授の論文も同時に掲載し、学術雑誌としてのバランスを図っています。
岡崎久彦氏のブログによるとシドニー大の教授は、中国が米国を凌ぐ大国となるように言われるが、中国の今後の成長には数々の障碍があり、成長したとしても、世界中に同盟国や友好国の広汎なネットワークを持つ米国には対抗出来るはずもなく、結局、規模は大きいが通常の大国になるだろう、と予測しています。
Babones教授は論文で・・・
●すなわち、ノーベル経済学賞受賞者Robert Fogelが、2040年には中国のGDPは世界のGDPの40%、(米国は14%、EUは5%)に達すると予測する等、中国が米国を追い越すという予測は多い。しかしこうした議論では、中国の成長を阻害する中期的要因はあまりなく、中国の都市労働者は増え続け、教育水準は上がり続け、外国資本も導入されるとの前提がされている、
●しかし、数年間の傾向を10年単位の分析にあてはめるのは無理がある。韓国の場合も、1960年から90年にかけて1人当たりGNPは米国の13分の1から3分の1になったが、2分の1になるにはその後20年かかっている。戦前すでに先進国だった日本の場合は、その復興なので、例として適切かどうかわからない、
●また、中国は1820年には超経済大国だったのであり、それに戻るだけだという議論もあるが、欧州経済は1800年までに既に進展しており、アヘン戦争前の1820年の中国の1人当たりGNPは欧州の半分以下、その後25%に落ち、1970年にはたった7%になっていた。だから、中国の成長といっても、1870年のレベルに戻っただけだ、
●それに、中国には、少子高齢化、環境、貧富の格差拡大等の問題があり、今後保健への投資も必要になり、今まで通りの成長の型を維持できるかどうか疑問だ。また、政府が富裕層の影響下に入る「ラ米化」という、ブラジル、メキシコ、ロシアと同様の問題も起きている、
●他方、中国の人口が頭打ちで老齢化しているのに対し、米国の人口は移民によって増え続けている。また、米国は広汎な同盟国、友好国に囲まれているが、中国は日本、インド、ロシアなど四面が競争相手だ、
●結局、中国は過去200年の悲劇から立ち直り、大きいが普通の国になりつつあるのであって、それは良いことだ、と言っています。
岡崎久彦氏のコメント
●人間社会には予測不能の事態が起きるので、到底断定できるものではありませんが、どちらかと言えば、先日のSubramanian氏の予想よりこのBabones教授の見通しの方が当たる可能性が大きいと思われます。
●中国には今も成長余力(端的に言えば、労賃の低さ)がある模様ですが、昨今のインフレ、公害、国内騒擾などのニュースを聞くと、ここ20年間で初めて、中国の高度成長もそろそろ曲がり角に来ているかもしれない、という感がなくもありません。
●今後10年の間に、何らかの形で中国経済に急ブレーキがかかり、世界に経済ショックを与える可能性は、無いよりも有る方が大きく、しかもその可能性は、過去10年に比べて遥かに大きくなっているように思われます。もっとも、日本の例からいって、その後もある程度の成長が続く可能性はあるでしょう。
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今回ご紹介しているBabones教授の説の方が、読んでいてスッキリ治まる気がします。かなり感情的な感想ですが・・・。
前回のSubramanian氏も今回ご紹介のBabones教授も、ともにインド系?の様なお顔立ちです。インドに限らず、南アジアの方々の活躍が世界経済の分野でも
「バイデン訪中と米中妥協」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-09-12
「なぜ中国は最近高圧的か」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-08-12
「中国インフレの混乱と処方箋」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-27
「中国バブル崩壊は秒読み」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-06