シリアを巡る複雑な情勢

tyuutou.jpg遠い遠い中東のことでもあり、日本ではシリア情勢について、「弾圧する政府側と犠牲者たる反政府側」との構図で紹介され、シリア非難の国連決議に拒否権を行使した中国とロシアを批判的に伝える報道がある程度です。
また日本語ヤフーニュースが紹介した7日付ロイター電は、「シリアの内戦が「アラブと西欧諸国」対「ロシアとイラン」の代理戦争に発展しかねない」との記事を掲げ、ロシアとシリア、またイランとシリアの緊密な関係について紹介し、西側諸国との対立の危険性を無理矢理記事にしている状況です。
勿論以上のような見方も一つの視点ですが、中東全体の状況を「アラブの春」の実態も踏まえ、日本の国益を冷徹に見つめる視点も必要かと思います。
まんぐーす的に言えば、シリア反政府サイドの弱者の方には申し訳ないですが、今シリアのアサド政権が倒れ、中東全体でスンニ派VSシーア派の対立が前面に出る様なことになれば、「アラブの春」が転じて「アラブの砂嵐」になり、エジプトやイスラエルを巻き込んだ第5次中東戦争に至る恐れがあることを認識しておく必要があると危惧しています
例えばイスラエルの研究者は12月に
●中東諸国には多様で異質な民族、宗教、宗派が混在しており、「アラブの春」はそうした既存の亀裂をかえって深めている。ただその現れ方は国によって違う。
●例えば、チュニジアやエジプトではイスラム主義と世俗主義の対立の激化、またリビアやイエメンでは部族主義に基づく対立、という具合である。
●しかし中でも、「アラブの春」を方向付ける最も重要な亀裂として浮上してきたのが、シーア派対スンニ派の対立である。
asadSylia.jpg●背景には、民衆の抗議運動の漠然とした要求、団結力ある市民社会の欠落、民衆の要求に応えない政権等により、抗議運動がますます宗派的アイデンティティーに頼って団結や共通目標を作り出しているからだ点がある。
●そんな中、シーア派対スンニ派の対立が顕著に現れているのが、シリア、バーレン、サウジアラビアだ。
サウジは、シリアの騒擾を、イランの勢力を排除し、スンニ派を強化する機会と捉えている。
イラクも、米軍の撤退によるイランの影響力の増大を危惧している。特に、もしイランがシリアを失えば、イランは益々イラクに足場を求めようとする可能性がある、
最大の懸念は、イラン+イラン支援のシーア派過激連合と、サウジ+トルコのスンニー派連合との対立だ。問題の焦点はシリアであり、アサド政権が倒れれば、シーア派とスンニ派の対立が全中東で燃え上がる可能性がある
昨年末この分析に岡崎久彦氏は・・
okazakiH.jpg●「アラブの春」を称えるだけの米国の理想主義的な論説と違い、(国の存亡に関わる)イスラエルの地域専門家の分析であり、冷静な情勢分析として傾聴に値するものがある
●ただシリアはそう簡単には崩れない。アサド政権は、アラウィ派の固い団結力の下に、軍、警察、情報機関が結束する強固な支配体制であり、「アラブの春」も生き抜くと思う。
しかし、万が一アサド政権が崩壊した場合の影響は、測り知れないものがある。特に、最大の反対勢力で苛酷な弾圧を受けて来たモスレム同胞団が中心となって政権を取った場合、それが対イスラエル、対米関係にいかなる影響を及ぼすかは、深刻な問題です。
●影響がエジプトの政局にまで及べば、エジプト=イスラエル平和協定の継続も危うく、第五次中東戦争の可能性も出て来ます。イランの介入、イスラエルのイラン核施設攻撃もありえ、中東全体が大動乱となる恐れもあります。
10月末周辺諸国について茂田宏氏は
●シリヤをめぐる国際情勢について言うと、アサド政権は孤立しつつある。生き残りうるか、疑問がある。
トルコは自由シリヤ軍の活動を黙認するなど、アサッドに厳しい態度をとっている。
サウジアラビヤもアサッドに厳しい態度をとっている。アラブ連盟もそうである。アサッドのこういう弾圧を容認する気持ちはスンニ派諸国にはない
sigetaH.jpg唯一、イランがアサッド政権を支持しているが、それがまたアラブ諸国の政府や民衆の反発を招いている。
●「アラブの春」以降、アラブ諸国がどういう方向に向かうのか、まだよくわからない
●しかしイランのような神権政治モデルも、サウジアラビヤのようなワッハービ体制モデルも、アラブ地域ではそれほど魅力のあるものとは受け取られていない
●どちらかといえばトルコのモデルが好ましいものと受け取られている。オスマン・トルコはアラブ諸国に対し長い間宗主国であった。
トルコがうまく立ち回れば、オスマン・トルコ時代のようにはならないが、地域でかなり大きな影響力を持つにいたるように思われる。
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2ヶ月ぐらい前まで遡って引用していますので、現在の状況に当てはまるか自信がありませんが、中東は実に複雑です。
国境が英仏の植民地政策の影響で引かれた部分も多く、宗派や部族が単純に国と一致せず、支配階層が多数派ではない国が大半です。パンドラの箱を開けてしまうと、何が飛び出すか・・・。
asadowife.jpgサダム・フセインとバース党を追い出せば何とかなる、と考えた米国のナイーブさも依然健在かもしれませんし・・
シリアのバシャール・アサド大統領は、兄が事故死し、英国で眼科医をしていたところを無理矢理カリスマ父の跡を継がされた大統領で、美人奥様をお持ちです。ある意味悲劇の人です。
現アサド政権が少しやり方を改めてくれればよいと思うのですが・・・。
「前モサド長官イラン攻撃は馬鹿」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-12
「イスラエルがF-35で苦悩」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-08-01
「ユダヤ人は離散してない?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-17

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