3日、カナダの会計検査院長がカナダ国防省のF-35計画への「前のめり姿勢と経費過小評価」を厳しく批判し、「カナダ国防の歴史上、最も高価な装備品調達であるにもかかわらず、国防省は開発状況への注意を怠り、議会への報告も誤解を招くモノだ」と断罪しています。
正確に表現すると、F-35批判ではなく、カナダ国防省批判です。3日付「Defense News」より
Michael Ferguson検査院長は
●カナダ国防省は余りにもF-35購入にのめり込み過ぎ、開発状況への監視を怠り、決定に必要な承認や文書作成を経ること無しに購入を決定した
●国防省は、議会に対しコストに関する全ての情報を提供せず、開発段階で生じているリスクについても意志決定者に知らせていなかった
●国防省は2010年発表の4年前にF-35購入を国防省で決定していたにもかかわらず知らせず、最も楽観的なシナリオのみが(発表直前に)カナダ政府に提示され、承認を得ている。
●2010年7月、カナダはCF-18 Hornetの後継機に、F-35を65機購入すると発表し、経費を計$16 billion(購入$9 bil+維持費$7 bil)としていた。しかし検査院長が試算したところでは、少なくとも計$25 billionが必要なコストである。
●国防省は規則に反し、政府の調達機関を意志決定の過程から排除した。意志決定の最終段階で政府機関を含めたが、十分な分析や文書を準備せず、F-35のみを唯一の対象として決定を承認させている
野党議員は・・・
●政府はF-35の価格高騰を知りながら、事実を議会や国民に隠した。これはカナダ国民に目隠しをする許されざる行為であり、激怒を呼ぶ。
このような状況を受け、カナダ政府はF-35計画への監視を強化し、機体購入費の上限を$9 billionで凍結する事を表明しました。またF-35調達業務を国防省から政府の他機関に移管することとしました。
Rona Ambrose公共事業大臣は「カナダは、計画の監視強化や透明性の向上無しに、CF18の後継機となる新機購入をしない。」と公式声明を発表した。
///////////////////////////////////
新規装備開発や購入にはリスクが伴い、国防上の非公開にすべき情報も生じるため、国民や政府への完全な情報公開が不適当な場合もあろうと思います。
しかしF-35は余りにもリスクが多く、高価で、かつ米国同盟国の脅威変化への対応を遅らせる点で問題のありすぎる装備品です。
他の装備品が上記のカナダ状態に置かれることを希望はしませんが、F-35に関しては、我が国の第3者的機関も動くべきと考えます。上記の検査院長や議員の指摘は、日本にも恐らくそのまま当てはまる部分が多いと推測されるからです。
生物学上、環境に応じて変化をしない個体は絶滅しますが、軍事組織は自ら変化できない最たる組織です。しかし独占業界であるため絶滅はせず、国と共に滅びるまで生き延びます。これが自然界と異なる点です
自然界で滅びる個体は周りにほとんど影響なく消えるように消滅しますが、軍事組織は浪費や人的犠牲者を伴って生き延び、国防に関する国民の誤解を生み、軍の存在意義である国をも滅ぼしかねない影響を与えます。
これを防止し、戦闘機操縦者に毒された世界の空軍を救うのは、安全保障に精通した文民による、真のシビリアンコントロールだと思うのですが。
「空軍士官候補生へ最終講義」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07
「カナダもF-35に及び腰」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-03-14
「米会計検査院のF-35批判」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-03-21
「ノルウェーはF-35を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-03-24
「敵に財政負担を強いる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-03-03
「F-35の生産開始は早すぎた」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-08