米軍リバランスと日米協力

logo.jpg12日、防衛研究所webサイトがブリーフィングメモ「米国のアジア太平洋リバランスと日米の動的防衛協力」を掲載しました。
いつもの通り「なお本稿の見解は防衛研究所を代表するものではありません」とのことですが、非常に重要なテーマですので、長くなりますが吟味いたします
政策研究部の佐竹知彦氏は同メモで・
●(米国のリバランスの一環とされる)豪州や東南アジアにおける海兵隊やLCS のローテーションによる展開が、対中軍事戦略上どこまで重要な意味を持つのかは不明である。
●むしろ、米国の同盟国等にとってより重要な点は、特に国際社会で「米国衰退論」が喧伝されるなか、米軍のプレゼンスが一定のコストを伴って強化されたという点にある
Cyber.jpg●いまひとつ重要な点は、以上のような米国のアジア太平洋重視路線が、必ずしも米国の前方展開プレゼンスの大幅な拡大につながるわけではないということである。むしろ、今後の国防費の削減状況によっては、米軍がアジア太平洋地域における前方展開プレゼンスを削減する可能性もある
●要するに、中国の台頭と国防費の削減という新たな現実を前にして、米国は軍事力の「規模」のみならず、その「先進性」や「運用」面に着目した、新たなプレゼンスの形態を模索しているのである
●同時に、米国は新たな軍事戦略の中で、同盟国等の役割の拡大を従来以上に重視している。米国による一方的な安全の提供というよりも、多国間での訓練や演習機会の拡大を通じて、同盟国等が主体的に対処する能力の構築を支援することにある
●すなわち、米国は一方で「リバランス」によって地域への関与を強化しつつ、他方で同盟国・友好国への能力構築支援等を通じ、地域の安定を維持する上での一層の責任分担を求めているのである
Ford-Class-Carrier.jpg米国のリバランスをレイン教授らの「オフショア・バランシング」(前方展開した米軍を域外に撤退させ、域内における勢力均衡の維持を地域諸国に委ねる戦略)の端緒として捉える議論は少なくない
●他方で、前述のとおり米国は同盟国等に期待しつつも、米国のリーダーシップの維持を明確に示している。米国のリバランス戦略の狙いは、同盟国等への「責任転嫁」ではなく、あくまでもその「責任分担」を求め、地域優位をより効率的な形で維持する点にある
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ここまでの内容へのコメント
●LCS配備やローテーション配備を過剰に評価しない姿勢に好感。また、米国のアジア太平洋重視路線が、必ずしもプレゼンス拡大に繋がらず、削減の可能性がある点を指摘する姿勢にも好印象
army2.jpg●更に米国が訓練や演習を通じ、同盟国等の役割の拡大を従来以上に重視しているとの指摘も的確
●ただ、リバランスを「責任転嫁」ではなく「責任分担」だと断言ところは、オバマ大統領の国防予算への冷たい姿勢からして現段階ではちょっと勇み足
全般にここまでは好印象です。しかし後半は研究者のプライドを捨て、役人の顔が現れます
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後半で日米の「動的防衛協力」を懸命にヨイショし
USJapan2.jpg日米の動的防衛協力は、「適時かつ効果的な共同訓練」、「共同の警戒監視・偵察活動」、「施設の共同使用」という三つの柱からなる
第一の「適時かつ効果的な共同訓練」の例として・・・日米豪の共同訓練や・・・日米韓の共同訓練が。米国が三カ国訓練と連動する形で二国間の訓練を行うことは、シグナリングに相乗効果をもたらし・・・、柔軟なプレゼンスとも合致
第二の柱である「共同の警戒監視・偵察活動」に関しては・・・本年8月の日米防衛相会談で、日米が滞空型無人機で協力することが明らかに・・・「日米協力イニシアティブ」で発表された宇宙状況監視(SSA)協力では、人工衛星等を警戒管制レーダー(FPS-5)で探知追尾する等の技術的検証を行う予定。
●また、すでに日米間ではサイバー・セキュリティに関する戦略対話も実施。
JGSDF3.jpg第三の柱は、「施設の共同使用」に関する協力。グアム及び北マリアナ連邦で、日米が訓練場を共同使用する方針が・・・、将来自衛隊と米軍がグアムやテニアンで基地を共同使用して、共同訓練機会の増大が・・・。将来的に自衛隊と米軍がグアムを「拠点化」で、同盟を「拡大」する可能性も・・。
●人道支援・災害救難や国際平和維持活動といった分野において、自衛隊が米軍やその他の同盟国・友好国の軍隊と、これまで以上にダイナミックな協力を・・・。
●日米が真に「動的」な防衛協力を構築していく上では、課題も多い。米側には海兵隊のグアムへの移転や訓練施設の設置の課題が・・・日本側にも、普天間飛行場の移設やオスプレイの沖縄配備等、同盟全体を揺るがしかねない問題が・・。
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ASBConcept.jpg後半部分は、防衛省の役人的作文です。前半であれだけ全般を俯瞰した冷徹な視点を披露しておきながら、後半部分でミクロで矮小で日本防衛の枝葉末節に過ぎない日米防衛協議をなぜ「ヨイショ」解説をしなければならないのでしょうか???
前半部分で持論の展開を許された代償として、後半部分は書かされたとしか考えられません。
研究者なら指摘すべきです。米軍がアジア太平洋地域で追求する「Resiliency:強靱さ、打たれ強さ」施策と、本分野で無策な日本のコントラストを。米軍作戦の補助的役割を五月雨式に指示され言われるがママ、自身は中国に対し丸裸状態で米国に盲従する日本の異常さを
別の表現をすれば、中国の脅威を感じた米国が長射程・ステルス・無人機を重視し、第一列島線より東側、つまり中国大陸からより遠い位置からの作戦を目指した装備体系を準備しているのに、何の工夫もない動的防衛力構想を打ち上げ、玉砕覚悟の「南方突撃」を計画する我が国の政策に疑問を感じないのでしょうか
中国の急速な軍事的脅威拡大を前に、ソ連のSS-20配備により当時の欧州諸国と米国間に生じた「デカップリング」懸念のような状態になりつつあることをなぜ指摘しないのか???
F-35transonic.jpg佐竹氏は分かっているはずです。米国が「「先進性」や「運用」面に着目した、新たなプレゼンスの形態を模索している」ことの意味を。また、未だ敵が戦闘機を先頭に侵攻してくるとのシナリオにしがみついた「亡国のF-35」購入と、中国の弾道ミサイルや巡航ミサイルの発展増強のギャップを。
後半は魂を売ったんですね・・・ご経歴を拝見すると、佐竹さんも慶応出身。先輩が沢山いるし、まだ30代前半ですから・・・しょうがないか。
まぁ防衛研究所の皆様には、いつも土俵とフンドシを提供いただいて(ひとり)相撲を取らせていただいていますので感謝ですけど・・・。
関連過去記事
防衛省の概算要求斜め読み。視点は「Resiliency(強靭さ、回復力)はどこへ行った?」です。中国の攻撃力が増す中、米軍が「分散、強靭さの強化」を柱として西太平洋の軍体制を考える中、日本は戦闘機命で無視
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-13-1
テニアンでの日米地上戦力共同訓練は、米軍Resiliency強化策に日本の資金を誘導するため
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-18
「脅威の変化を語らせて」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08

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