防衛研究所60周年行事でF-35を酷評

RIMPAC2010.jpg10月26日、防衛研究所は創設60周年の記念行事として「防衛力の戦略的マネージメント」とテーマとするシンポジウムを開催し、日、米、英、韓、豪、印及びスウェーデンから専門家を招いて議論を行いました
さすがに60周年行事、なんと開催前日の25日にパネリストの発表要旨(レジュメ)をwebサイトで公開する準備の良さです。
テーマは「防衛力の戦略的マネージメント」ですが、「イノベーション」との言葉が頻繁に使われており陰のテーマになっているような印象を受けました。
勝手に解釈すれば、脅威が多様化し、同時に中国のような規格外の軍事大国が表れつつある中、財政が厳しい西側諸国は国防の「イノベーション」を起こす必要があるが、現状をどう捉え、どのような方向に進むべきか・・・と言った問題意識でシンポジウムが行われています
logo.jpg和文と英文各30ページのレジュメが公開されていますが、その中で興味深いと感じた3名のレジュメから本日はご紹介します。タイトルのように「F-35」を「反イノベーションの権化」のように酷評する発言も・・・
ご紹介する英米からの参加者のほか、韓・豪・印参加者による各国情を踏まえたプレゼンも大変興味深いので、お薦めしておきます。
軍事におけるイノベーション
CSIS:ルトワック上席研究員:Edward Luttwak
LuttwakCSIS.jpg平時において「軍事のイノベーション」が起こることはほとんどない。民間を含むあらゆる組織でもそうだが、奉仕や自己犠牲を重要な価値観とする軍事組織は総じて保守的である
●一方で「軍事のイノベーション」がなくても、世の技術進歩や軍需産業のロビー活動により、兵器装備の開発生産は停滞せず、漸進的なアップグレードを伴う変化を軍は続ける
●しかし斬新的変化では、兵器は複雑で大きく重くなり性能は向上するが、価格はそれ以上に高騰する。タイプライターの改良がワープロ開発に繋がらないように、真のイノベーションにはつながらない
●例えば、1982年にイスラエルが無人機の実戦運用を始めているのに、現在に至っても無人機が戦力構成の中心になる軍はない
●また、サイバー戦は従来と全く異なる要員の採用・訓練・任務付与が必要だが、これを反映する動きはほとんど見られない
LuttwakCSIS2.jpg●このような漸進的変化では、今後軍を維持することは難しい
●主要装備の単価は高騰し、必要な数量が揃えられなくなる。また各分野で開発計画は一つだけしかできなくなり、たとえ進捗がよくなくても「too big to fail:大き過ぎて潰せない」状態になってしまう。F-35は顕著な例である
この傾向はやがて破たんを招くであろう。処方箋としては、軍から研究開発予算を取り上げ、これらを全て民軍混成の研究開発チームに与え、医薬品で行われているようなイノベーティブな手法で行わせるべき
敗北に向けた準備か?
Williamson Murray オハイオ州立大学名誉教授
MurrayOhio2.jpg●1972年から2003年にかけて、米軍では実務の専門性が重視され、学者タイプではなく剛腕タイプの軍人が重用されてきた。しかし高級指揮官のある種の欠落が、イラク・アフガンで多大な犠牲の原因になったといえる
●マイケル・ハワード教授は、軍組織は多くの場合次の戦争の様相について予想をはずしており、政治指導者を含めた軍指導部が戦争の様相を理解していたことはまれで、敗北や大惨事を目にするまで認識を改めなかった、と指摘している
戦争の実相を把握できず、また戦力バランスや敵の本質を見誤る認識力不備によって多くの惨禍がもたらされた。これを防ぐには将校への専門的な教育が期待されるが、1920~30年代以降ほとんど本格的に実施されていない
●イラク戦争までの無意味な教育が、上記の「専門的な教育」でなされることはないだろうが、イラク・アフガンでの苦い経験も徐々にだが確実に過去のものになる
MurrayOhio.jpg●そして次の世代は、テクノクラートの中身のないパワポスライドの希望的観測で、戦争の本質を理解する機会は失われるだろう。軍およびその統合組織が、軍人に対する本格的な専門教育に取り組む抜本的改革を起こさない限り、テクノクラートの考えが再び軍の中で幅を利かせるだろう
軍イノベーションの鍵となる要素
RUSI所長:マイケル・クラーク:Michael Clarke
Clarke-RUSI.jpg士官への教育訓練
予想できない厳しい環境や新しい指揮プロセスや技能に適応させる
戦略的行動をとれる意思決定者の能力
戦略的にものを考えるだけでなく、実行できる能力が重要。問題を安全保障化して多くの含意を学ぶ
政府と軍と軍需産業のイノベーションへの協力
既存の軍事技術と民生技術を、伝統的契約方式でなく、より容易に新軍事システムにつながるように
教訓を内部で共有
教訓を明確にするだけでなく、組織の中でいかに制度化して取り込むか
サイバー領域への対応
サイバーは地政学的特性を無視した、全ての軍が逃れられないドメイン
動員・集中・増員能力 重要性が急上昇
コミュニケーション能力 国民に対する軍活動の説明能力と多様な手段
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innovation2.jpg公表されているレジュメの一部分しか紹介していませんし、韓・豪・印参加者による発表も興味深いので、現物のチェックをお勧めします。
英語の聞き取りがバッチリな方や同時通訳で十分理解できた方は別として、これだけ複雑で深い内容を聞いただけで理解することは不可能だと思いますので、当日参加された方も是非
紹介した3名のような話を日本でする人はいませんので、とても貴重です。元統合幕僚長の斎藤何某が末席を汚していますが、この方の現役時代の「品のなさ、知性のなさ」は広く知れ渡っていますので、誰も耳を傾けないと思うのですが・・・
それにしても、CSISのルトワック上席研究員がこの種の発言をすることはあらかじめ十分予期できたとことを考えると、防衛研究所も私のつぶやきを少しは受け止め、なすべき発信を始めたのかもしれませんね・・・
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innovation.jpg平時の軍事組織が全世界で共通に持つ保守性と反イノベーション性、日本人社会の「和」を重んじ変革者を生みにくい体質、更に現在の日本の政治・経済情勢を「3重苦」と捉えれば、我が国防政策のイノベーションは絶望的にも見えます
それでも、日出ずる国であり、元寇を神風撃退であり、日本海海戦であり、奇跡の戦後復興であり、風光明媚な国土であり、山海の珍味ありであり、ホッピーにモツ煮もある日本なので「がんばろー」ですね
防衛研究所の研究シリーズ
「米軍リバランスと日米協力」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-17
「米豪関係のミニ分析」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-12-1
「東アジア戦略概観2012」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-03
「日韓共通戦略目標を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-02-1

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