ヘーゲル新国防長官就任!
米国時間26日、上院での承認投票で58-41のスコアで承認されたChuck Hagel 氏は、同27日朝、国防長官に就任しました
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東京財団の「アジアの安全保障」プロジェクトで、防衛研究所の高橋杉雄・主任研究官が米国の「リバランス」とアジア太平洋地域の安全保障との論文を発表しています。
オバマ再選直後の昨年11月に書かれたもののようですが、防衛省の対米交渉にも関与していると考えられる研究者の文章ですので読んでみました
アジア太平洋回帰が911以前への回帰、2013年度米国防予算には秘密計画が増大、「ヘッジ」分野ではスタンドオフ兵器よりも空母や地上発着の戦術航空機を中心としつつ、等々、気になる記述もありますので、つまみ食いでご紹介します
とんがっていると噂の高橋杉雄氏は
●ブッシュ政権は「中国が責任ある利害関係者」として台頭するように促す(シェイプ)とともに、そうならない可能性に備える(ヘッジ)」とする、「シェイプ・アンド・ヘッジ」を基本的な対中戦略として示していた 。しかし2009年以降の中国の動向から、「責任あるステークホルダー」を目指す政策が、少なくとも当面は実現困難であることが明らかになった
●911直後に発表されたQDR2001と2012年1月に発表されたDSGとを比較すると、特にA2/AD能力への対処を重視していることと、アジアへのアクセスの重要性を強調している点において類似性を見出すことができる
●まず、A2/ADへの対処に関し、QDR2001第5章「21世紀に向けた米軍の変革」の記述は、現在読み返してみても、10年以上前に記述との古さを全く感じさせず、対艦弾道ミサイルの登場を除けば、現在における展開を的確に予測している。
●QDR2001には、有名な「不安定の弧」の記述があり、「他の重要な地域と比べ、ベンガル湾から日本海に至る地域に対する米国の基地の密度やアクセスのインフラは希薄である」との問題意識が示され、新国防戦略DSGにおいても、「米国の経済および安全保障上の利益は・・・西太平洋および東アジアからインド洋および南アジアに広がる弧における展開と密接に関連している」との記述がある。
●そしてDSGには「米国はアジア太平洋地域に向けてリバランスをする必要がある」と記述されている。米国の現アジア戦略は、「アジアへの回帰」というよりも「911以前への回帰」として評価できる
秘密プログラムの増大
●FY2013予算で目を引くのが、秘密プログラムの増大である。研究開発費と調達費における上位10項目に秘密プログラムが上位で存在している。秘密プログラムの中身は全く不明だが、これほど秘密プログラムが上位を占めるのは、少なくとも21世紀に入って初めてである。
●かつて、F-117やB-2ステルス機が、秘密プログラム予算で開発されていたことを考えると、何らかの新たなコンセプトに基づく兵器の開発が進んでいる可能性が否定できない。
●A2/ADへの対処が現米国の重要かつ深刻な課題であることを考えると、こうした秘密プログラムがA2/AD能力への対抗を目的としてのものである可能性がないわけではない。
研究開発費予算の上位10項目 調達費予算の上位10項目
第2期オバマ政権での対中政策
●クリントン政権、ブッシュ政権とも、その在任中の対中政策には大きな振れ幅があった。同様の振れはオバマ政権においても起こ可能性があり、米中関係は「冷たい関係」が定着した形で展開していくというよりも、さまざまな揺らぎを見せていくと考えるべきであろう。
●オバマ政権でも継承されていると考えられる「シェイプ・アンド・ヘッジ」の軌道修正と「シェイプ」「ヘッジ」それぞれについての再定義が進められるであろう。
●まず、「シェイプ」についていえば、中国は少なくとも米国が望むような形での「責任ある大国」として振舞う準備ができていないことも明らかとなった。それを前提とした上で、「シェイプ」を再定義していくことが求められているのである。
●より明確に再定義が見て取れるのは、「ヘッジ」の文脈においてである。この文脈においては、A2/AD環境における抑止態勢の構築が急務となりつつある。
●米国の一部シンクタンクが主張するような、スタンドオフ攻撃能力の強化とそれに伴う前方展開兵力の削減という形をとるよりも、空母や地上発着の戦術航空機を中心としつつ、A2/AD環境下におけるそれらの作戦上のレジリエンシ―を高めるようなさまざまな措置を講じていく形をとることになろう。エアシーバトル概念が意味を持つとすれば、そうした文脈におけるものであると考えられる。
●アジア太平洋での軍事態勢の再構築は、3本柱「地理的なディストリビューション」「作戦的なレジリエンシ―」「政治的なサステイナビリティ」の3つを原則として進められるとされている 。今後も、空母や戦術航空機を中心とするならば、前方展開戦力の「作戦的なレジリエンシ―」を、A2/AD環境でどのように高めていくかが重要な戦略的な課題となる。
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Resiliency(レジリエンシ―:強靭さ)をA2/AD環境でどのように高めていくかが重要な戦略的な課題となる・・・との部分はまんぐーすも兼ねてより主張してきた点ですが、「スタンドオフ攻撃能力の強化とそれに伴う前方展開兵力の削減という形をとるよりも、空母や地上発着の戦術航空機を中心としつつ」の方向にあるとのご指摘にはちょっとため息です
「空母や地上発着の戦術航空機を中心」の対処自体が、Resiliency(レジリエンシ―:強靭さ)強化と相反する方向です。空母や戦闘機中心では、前方展開兵力削減ではなくとも、有事直前に「一斉に退避」する作戦となりかねません。
予算の厳しさを盾に大幅な戦術変更が出来ず、F-35に足を引っ張られて硬直して動けず、又は各軍種の組織防衛に阻まれ、CSBA提案のエアシーバトルやゲーツ前長官が見据えていた方向は頓挫したとも取れる表現です
高橋氏は防衛省の「願い」を表現しているのかもしれませんが、日米間の戦術的「妥協点を探る」動きが中国軍事脅威を無視したところで進むことを危惧します。
一般教書演説でリベラルな姿勢をより鮮明にしたオバマ大統領が、アジア重視の掛け声とは裏腹に、アジアへのディープな関与を避け、スタンドオフ兵器に頼る可能性は十二分にありますから・・・
増大している「秘密プログラム」の中に、スタンドオフ兵器(PGS?)やサイバー兵器や宇宙兵器等々が含まれているだろうことを願いつつ・・・
高橋杉雄氏の過去記事
「オバマ政権国防政策のハード・チョイス」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2009-07-31
「脅威の変化を語らせて」
→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08