大綱の「動的防衛力」は本格有事を想定せず

RIMPAC2010-2.jpg昨年4月の話ですが、防衛省戦略計画室でも勤務する高橋杉雄氏(防衛研究所・主任研究官)が「同盟エアシーバトルに向けて:対A2ADの日米協力」との論文を、米シンクタンク「Project2049」の客員研究員の立場英文公開しています。
同盟エアシーバトル(Allied Air-Sea Battle)との言葉に釣られて読んでみると、びっくり仰天、現防衛大綱のキャッチフレーズである動的防衛力は平時から紛争初期のグレーゾーンまでに役立つが、本格紛争を想定していないとの書きぶりです
更に、最も大きな課題がResiliency(強靭さ)の強化だと指摘しつつ、これを将来の課題だと堂々と「告白」し、現防衛大綱で無視された課題だと明確に示唆しています
驚天動地とはこのこと。防衛計画大綱作成に直接関与し、米国との交渉にも関与すると言われる筆者が平時のみの「動的防衛力」やResiliency無視の防衛大綱の実態を激白しているのですから・・・
論文:対A2ADを日米協力で
同盟エアシーバトルに向けて
TakahashiS.jpg●アジア太平洋地域のパワーバランスは中国の軍事力拡大で急激に変化を続けている。本論は2010年防衛大綱における日本の役割と日米協力の将来について考えるもの
●また、2010年防衛大綱の考え方に沿って日本の戦略的考えを紹介し、次なるステップの同盟エアシーバトルに向けての提言を行う
●今後5~10年を考えると、2種類の戦略的課題が考えられる。第1に、中国による期を敏感にとらえた「creeping expansion in the East China Sea」であり、第2に中国が増強しつつあるA2AD能力を前面に打ち出したハイエンドの紛争対処である
第1の「creeping expansion」に対しては、防衛大綱が示した「動的防衛力」を背景とする自衛隊の動的活動と米軍の「static」なプレゼンスで対応する
DH-10.jpg第2の中国A2ADとの本格紛争は、日米両国にとって深刻な課題である。将来の中国軍脅威を考えれば、地上の前線基地や空母は大きな危険にさらされ、米軍の作戦は大きく制約を受ける
●中国軍によるA2ADを無効化するには、前方展開基地がよりResilient(強靭に)作られる必要がある
よりResiliencyを高めるため海と空ドメインは協力し、相互がシナジー効果を生むように緊密に連携しなければならない
●「同盟エアシーバトル」は日米防衛協力を推進するカギであり、海空両ドメインでの日米協力が戦力発揮をより効果的にする
●エアシーバトルの概念は未だ明確でないが、対A2AD手段は海空次元で構成されるべきである点は明確である。
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尖がっていると噂の高橋杉雄氏が、彼なりに「オブラート」に包んで主張したかったのは以下の3点だと思います。誠意を持って解釈させていただきました
1、防衛大綱の「動的防衛力」は、本格紛争を想定していない
2、同時に現大綱は、対中国A2ADで最も重要なResiliencyを無視している
3、更に現大綱は、海空を重視すべきなのに、陸自を削減せず放置している
ASBM DF-21D2.jpg突っ込んで高橋氏の心情を察すると、日本の国防政策は目先の中国との「小競り合い」脅威認識の域を出ておらず、本格紛争を全く無視している。
日米関係の強化も目先の小競り合い共同訓練のみが視野にあり、本格A2AD対処の話になれば、全くかみ合っていない(デカップリング状態だ)。何処か私大に空きポストはないですか?
4日前、同時期の高橋氏による別の論文(http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-02-24)をご紹介しましたが、まんぐーすとは戦闘機削減部分を除き、ほぼ同類の方だったんですね!
昨日の記事と併せて見ていただくと、防衛省の姿勢がよく分かるのでご紹介しました。
エアシーバトル関連の最新の記事15本は
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/archive/c2301176212-1
「脅威の変化を語らせて」
→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08

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