8日付Defense-Newsがニューデリー発の情報として、「インド海軍の悲願」として進められている国産空母の建造が、既に大幅に遅れている2018年完成から更に数年遅れる見通しとの「インド海軍筋」の話を紹介しています。
7月26日に防衛省が公開した「防衛力の在り方検討に関する中間報告」に、アジア諸国との関係強化について「インドとの海上安全保障分野での協力強化」が具体的に示されていることもあり、インド海軍の「悩みの種」である空母の状況についてご紹介いたします
インド海軍空母の状況
●現在、インド海軍保有の空母は1隻(写真上)のみ。1950年代に英海軍が製造した軽空母ハーミーズ(2万8千トン)を、英で同艦が1984年に引退した後に買い取って改修した空母「ヴィラート」。シーハリアーやヘリを搭載も、老朽化補修や装備の改修等でしばしば工場に入っている。
●上記の空母「ヴィラート」の老朽化が激しいことから、2005年にインドはロシアから「航空巡洋艦アドミラル・ゴルシコフ」約4万トンを取得し、2008年の就航を目指してロシアの工場で改修を開始した。
●しかし、ロシア側の改修作業や経費見積もりの甘さから作業が難航、改修部位にもトラブルが頻発するなど工期が延び延びになっており、昨年末の時点で完成は2013年10月から12月と報道されている
●改修の遅延に伴い経費も増大しており、当初の15億ドルから23億ドル程度にまで跳ね上がっていると言われている。
「ロシアで改修中のインド空母」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-06-12
●なお、本空母は「ヴィクラマーディティヤ」(写真中)と命名され、スキージャンプ甲板を持つ。紆余曲折の結果MiG-29Kを21機と対潜ヘリKa-32を13機搭載する計画に落ち着いている
(追記報道)
●11月15日付Defense-Newsによれば、空母「ヴィクラマーディティヤ」は11月16日に就役し、アントニー印国防相が見守る中、ロシアの造船所で式典が行われる。
●11月30日にインドへ向け出航する予定
●約1700億円の追加経費と5年の納期遅延の末、やっとこの日が。また訪露にあわせ、第13回の印露軍事技術協議を開催
→http://www.defensenews.com/article/20131115/DEFREG03/311150019/India-Commission-Russian-Carrier
●本日紹介する初の国産空母「ヴィクラント」(IAC-1)(写真下)の建造が始まったのは2005年。海外からの購入方式には課題が多いことを背景に、種々の議論を経て国産を追求する決定がなされる。
●ヴィクラントは3万9千トンの空母を目指し、2010年進水、2012年就役を予定していたが、造船所のインフラが不十分な事や、建造費の高騰などによる建造計画の大幅な遅延が発生している。
●2012年6月、他の船の建造のためドックを空ける必要があり、建造途中でドックより引き出された。2013年現在、その時点より建造はほとんど進んでいないと伝えられている。
ニューデリー発8日付Defense-News記事は
●「インド海軍筋」は、空母ヴィクラントの建造進捗率が僅か3割程度で、インド海軍が発表している2018年の運用開始は2020年頃まで伸びるだろうと語った。
●同空母は8月12日に一端進水し、配管との行程を終えた後、再びドックに戻って推進装置を搭載し、兵器システム等も装備した後に海上試験に入る予定となっている。
●インド国防省は2016年から試験に入るとしているが、インド海軍筋は2018年以降にならざるを得ないだろうと語った
●海軍報道官は「空母建造が大変複雑な工程であることを理解してほしい。我々も当初は2015年には完成すると考えていた」と見積もりの甘さをを認めている
●一方で同報道官は「海外から調達する工作機械の遅れも原因の一つで、これにより3年ほど遅延した。また空母のユニークさから細部の設計に時間かかり、これによる遅延もあった。しかしこれらも解決され、2018年の配備を念頭に置いている」と強気である
●同空母には、イスラエル製の艦艇防空システム「Barak」、多機能レーダーシステム、A630型のCIWS、対潜水艦システム等々が搭載され、戦闘管理システムで統合管理される。
●スキージャンプ式でMiG-29K等の固定翼を20機と、Ka-31ヘリを10機搭載する予定。なおインド海軍は、国産空母の2番艦の構想を練り始めており、6万トン級を想定している模様。
●インドの研究機関の専門家は「一番艦で苦労しようが、もう外国からの空母調達は難しい。売りに出る空母もないしトラブルも多い」と述べ、「海外パートナーと協力し、技術支援を受けながら国産で取り組む方式がより賢明な方法だ」と語っている
●退役海軍提督は「空母は3隻必要だ。1隻が修理や訓練を行い、他の2隻が分担してインドの東西を担当するのが良い。空母には補給艦や護衛に当たる艦艇群も必要になる」と語った
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
石破茂・自民党幹事長は、ソ連や欧州の大陸国の例を挙げて「大陸国家で海軍運用で成功した国はない」と喝破しています。中国にはそうあってほしいモノですが、インドはどうなのでしょう。
インドが大陸国かどうかは議論が分かれるでしょうが、「空母がほしい」との熱意は正しいのでしょうか? プレゼンスや示威のためには有効なのでしょうが、建造費や維持費と、その脆弱性との兼ね合いをどのように考えているのか知りたいところです。
最近、米国の金融引き締め気運から、BRICsと呼ばれる国々の成長が急激に鈍化・停滞・後退しているようです。このまま放置されることがないように期待いたします。
「米海軍の新型フォード級空母を学ぶ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-20