陸軍長官が大人の対応も直ちに反論
米空軍は争いに加わるのか?
14日、米海軍人トップのMike Gilday大将が米海軍協会総会で講演し、「陸海空軍が、国防省予算を1/3づつ分け合う従来のやり方を改めるべきではないか」、「かつて米海軍は38%を占めていた」、「この比率を1%変えるだけで、艦艇建造予算を約8000億円増やせる」と暗黙の予定調和に異議を唱え、各方面で波紋が広がっています
すかさず15日にRyan McCarthy陸軍長官は記者団に、「我々は地域コマンド司令官要求の60%を支えているにもかかわらず、予算配分は24%以下だ」、「最大の抑止力は、地に足の着いた兵力だ」、「他軍種との予算を巡る争いに加わりたくない」等々と反論し、Gilday海軍大将をけん制するとともに、冷静な議論を促しました
このような議論が持ち出され、メディアが争いを焚きつける構図になっているのは、各軍種の2021年度予算案取りまとめと国防省への提出・国防省とりまとめの時期となっている事、更にその背景に国家防衛戦略NDSが重視する中国・ロシア対処があります
こんな時にこそ、統合参謀本部があり、米軍人トップの位置に統合参謀本部議長がいるのですが、中東で実戦が20年近く継続し、ロシアや中国正面でも緊張が高まる中、「良くて昨年並み」の予算状況で、装備の老朽化が急速に進み、軍需産業基盤が崩壊しつつある中、綺麗ごとでは済まされない、黙っていられない状況に各軍種が追い込まれているシグナルとしてご覧ください
15日付Military.com記事によれば
●14日、 米海軍人トップのMike Gilday大将は、主要な海軍幹部やOB、更に軍需産業首脳を前に講演(32nd National Symposiumで)し、「米国防省は、陸海空軍が、国防省予算を1/3づつ分け合う従来のやり方を改めるべきではないか」と表現し、もし増強著しい中国軍に効果的に対処しようとするなら、米海軍への予算配分を増やすべきだと訴えた
●同海軍大将は「米海軍はより多くの予算が必要だ。もし皆さんが海洋ドメインで相手を凌駕したいと考えるなら、もし皆さんが米海軍が目指す分散型海洋作戦を遂行したいならば、もっと艦艇や潜水艦が必要であり、より多くの資金が必要だ」と訴えた
●そして同海軍トップは、「(冷戦最盛期の)1980年代には米海軍はシェア38%だったが、今は34%にまで下がっている」、「歴史から考え、米海軍の価値は評価されるべきだ。米海軍の価値について独善的に語るつもりはないが、誰かが議論を始めなければならない。陸海空軍が予算を1/3づつ分け合う事は、国家防衛戦略NDSの趣旨に沿っていないのではないか。我々が直面する脅威に対峙追随するためには、現状は必ずしもふさわしくない」と表現して訴えた
●また「この比率を1%変えるだけで、艦艇建造予算を約8000億円増やせる」、「私の最優先事業は新型の戦略原潜コロンビア級の建造調達である。現在の計画でもオハイオ級戦略原潜を42年間も使用することになってしまう。後継SSBN調達は優先事業なのだ」等々と現在の窮状を訴えた
●これら 米海軍トップの発言に関し、15日にRyan McCarthy陸軍長官は記者団に、「我々は地域コマンド司令官要求の60%を支えているにもかかわらず、予算配分は24%以下だ。計算によっては22%しかない」と現状を明確に説明し、
●「過去1世紀の間に、アジア太平洋地域で3つの地上戦を戦ったが、最大の抑止力は、同盟国と肩を並べて存在する地に足の着いた兵力だ。そしてこの事は欧州正面でも実証済みである。そしてこのために、今年は東アジアでDefender-series exercisesのほか、プレゼンスを示す多くの活動を予定している」、「タイやフィリピンや日本のような場所で活動する兵員が増えるだろう」と陸軍力の重要性を強調した
●また陸軍長官は、「世界のこの地域(アジア太平洋)での米陸軍プレゼンスは実効的なものであり、抑止力のために必要である」、「他軍種との予算を巡る争いに加わりたくない」とも語った
●更に陸軍長官は、米陸軍省では、昨年の2020年予算編成の際から、陸軍首脳が一堂に会する「夜間検討会:night court」を開催して一つ一つの事業を精査し、3.5兆円もの資金を陸軍内で捻出して必要な近代化に再配分するなど、内部での効率的効果的予算配分に自助努力していると強調し、これ以上の削減がリスクを伴うとも示唆した
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この議論に、米空軍首脳が加わるのか気になるところですが、各軍種のトップとしては、強い姿勢を見せつつも、統合参謀本部か国防省に最後は予算配分を采配させ、各軍種内部やOBや関連軍需産業を抑えようとしているのかもしれません
ところで、McCarthy陸軍長官は「boots on the ground」の重要性を主張し、今年は南シナ海地域で米本土からの大規模機動展開演習を計画しているようですが、ちなみに2011年当時のゲーツ国防長官は・・・
ロバート・ゲーツ語録100選より
(https://crusade.blog.ss-blog.jp/2013-05-19)
→次の本格紛争には主に海軍と空軍が関与するであろう現実に、陸軍は向き合うべき。 アジアや中東へ大規模地上部隊を派遣するよう大統領に進言する国防長官が仮に現れたら、頭の検査を受けさせるべきだと思う→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07-1
と語っていたところです。
「米陸軍は2020年に南シナ海大規模機動展開演習」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-03-30
コロンビア級SSBN計画の関連
「NKのおかげSSBNに勢い」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-09-2
「コロンビア級の予定概要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-27
「次期SSBNの要求固まる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-08-2
「オハイオ級SSBNの後継構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-25-1
「SLBMは延命の方向」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13
艦艇の修理や兵たんの課題
「米艦艇建造や修理人材ピンチ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-24
「空母定期修理が間に合わない」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-09
そのほか米海軍関連の記事
「空母1隻削減案に揺れる」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-03-29
「米艦艇建造や修理人材ピンチ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-24
「空母フォード3年遅れで米海軍へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-03
「攻撃原潜に新たな形態BlockⅤ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-07