「軍近代化のため、4個師団、16個連隊を削減した宇垣軍縮の例もある」
Wedgeのwebサイトに連載中の岡崎研究所による評論集「世界情勢を読む」が、最近の米国のアジア政策や軍事政策について連続して取り上げました。
研究所の姿勢を反映してかなり保守的なサイトで、極めて慎重で「婉曲的」な表現が多い評論集ですが、オバマ政権のアジア政策や国防予算の強制削減対処について、かなり突っ込んだ具体的提案に言及することが最近増えて来ましたのでご紹介します
米陸軍の削減を提言する姿勢を示しており、暗に陸上自衛隊の大幅削減を念頭に置いた主張と考えられます。政権や外務省との関係が深いとまんぐーすが邪推する研究所ですので、その主張に大いに賛同し、ここにご紹介いたします
オバマ政権のアジア軽視転換には時間が必要
●ASEANは対中国の南シナ海政策で合意できないから、米国の積極的関与が必要であり、クリントン前国務長官の路線に戻るべきとの主張が多く見られるが、オバマ政権にその覚悟があるとは到底思えない。
●今回の東南アジア歴訪のキャンセルも、シリア問題の攻撃回避と同じく、もともと気の進まなかった政策を回避できる口実が出来たとの感が強い
●10月4日の日米2+2でケリー国務長官は「米国は、中国と密接に協力し、法の支配を見出す、あるいは、対話を見出すことによって、南シナ海…などの問題について中国と協力している」と述べており、オバマ大統領が会議に出席していても、この程度だったろうと推測
●中国とは6月カリフォルニアで、2日間8時間の対話をしながら何の成果もなかったが、その後も中国との対話を呼びかけ続けているだけ
●ただ、今回の2+2の印象からしても、第二次オバマ政権は東アジア問題についてはまだ学習過程にあると見られる。ケリーもまだアジア政策については、中国との対話以外には特に定見はない模様
●米国の特に安全保障担当者の間からは、より明確な対中路線を主張する声が強いようだが、オバマ政権も、それに特に抵抗する様子でもない。アジア政策については、学習過程と考え、希望を持つしかない
アジア訪問中止挽回にためオバマ大統領は
●第1に、オバマは来春に向け、アジアを再度訪問する計画を立て、日本と韓国とASEANの指導者に会うべき。
●第2に、オバマはTPPに対する議会の支持を取り付けに尽力すべき。今は必ずしも議会の明確でない。
●第3に、ホワイトハウスは、国防予算を強制削減から保護する必要がある。ヘーゲル国防長官はアジアを歴訪したが、現状では地域の米軍計画が立てられず、アジア諸国も米国の関与具合を様子見している。
日本外交の目標として、アメリカに対しこれらを働きかけても少しも不自然ではない。
次の戦争は陸軍不要の戦争の可能性
●国防予算の強制削減は今や現実の問題に。オバマ政権はレームダック化しつつあり、そのまま実施される可能性も排除できない。しかしこの機会を前向きに考え、放置されてきた改革を一挙に進めるべきとの主張に賛成する
●米国は近い将来については多少のリスクも顧みず、将来の世代のために、兵器の近代化に集中的に投資するべき
●中国の軍拡が継続した場合、真にアメリカの優位を脅かすには、常識的に考えて10年はかかると想定されることから、強制削減の10年は改革のぎりぎりの期限。その間に米国の政権交代や国防政策の変化もあるだろう
●また、現在予見し得る将来、ある程度以上の戦争は、中国かホルムズ海峡周辺の海域であり、陸軍を必要とするケースは想定できない
●それならば、陸軍の師団と基地の大幅削減が可能になる。戦争の形態は変わるものであり、次の戦争は陸軍の要らない戦争の可能性もある。軍近代化のため、4個師団、16ヶ連隊削減の宇垣軍縮の例もある。
●対テロ戦争のために動員された陸軍及び海兵隊を平時態勢にまで削減することを皮切りに、陸上兵力を大幅に削減することは可能だろう
●武器技術の進歩は日進月歩で、米国には他の何を措いても、是非その優位だけは維持して欲しい。
●サイバー、宇宙、対潜水艦戦、ミサイル防衛など重要な分野において、米軍が他の追随を全く許さない近代化を進めてくれることが極めて重要であり、日本として協力すべき
/////////////////////////////////////////////////////////////
オバマ政権がアジアについて「学習過程」にあるとの表現は、いかにも外務省的な解釈のような気がしますが、今年6月のシャングリラ・ダイアログでもヘーゲル国防長官の質疑応答は、正に「素人丸出し」の中身でした。
翌日登場した中国軍の対外政策担当将軍の見事な対応と比較すると、その差は歴然でした
「ヘーゲル長官シャングリラ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-31
極めて慎重で保守的で婉曲的な「寸止め」表現が多い岡崎研究所の「世界情勢を読む」の姿勢からすれば、米陸軍削減を提言し、宇垣軍縮の例を引いて、暗に陸上自衛隊の大幅削減も匂わせた評論は画期的と言えましょう。
今年6月には「尖閣上空の制空権確保にしても、昔のような戦闘機同士の空中戦はほぼあり得ないでしょう。戦闘機の数のみを比べても、あまり意味のない時代になりました」との画期的姿勢(戦闘機命派の包囲網強化→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-06-17)を表明した岡崎研究所ですが、ついに陸軍・陸上自衛隊への姿勢も打ち出しました
///////////////////////////////////////////////////////////////
12日の各種報道によると、佳境を迎えつつある「防衛計画の大綱」議論で、防衛省側は陸上自衛隊の将来定員を、従来の15万4千人から、15万9千人へ増員要求するようです
離島防衛とか言い出すのでしょうか? 震災対処の「焼け太り」でしょうか? 攻撃及び防御ミサイル部隊への転換を打ち出すにしても、増員はあり得ないと思います。海上や航空自衛隊が増員しない中で、なぜ陸自が?
情けなくて涙も出ません・・・
関連記事
「陸自の組織防衛を許すな!」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-17
米国では既に動きが・・
「米陸軍をミサイル部隊に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14
「陸軍トップがミサイル重視検討発言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-17
平成22年大綱見直し時の議論
「読売も社説:陸自削減を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-21
「国防より組織防衛」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-16
森本前大臣も陸自の変化を要求
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-05