米海軍協会webサイトが10月30日付で「The Future of Air Sea Battle」との長文記事を掲載しました。
記事は、米国防省エアシーバトル検討室(ASBO:Air-Sea Battle Office)の最近の取り組みを、国防省関係者(海軍の作戦課長James Foggo少将等)からの聞き取りを元に紹介しおり、これまでのASBOはA2AD対処に苦慮する地域コマンドの「相談役・助言者」的な役割だったが、今後は掌握してきた米軍の実態に応じた、より踏みだ目標設定に向かうと説明しています
特に、ASBOが10項目からなる具体的な重点リストを作成し、A2AD対処のポイントや米軍の要改善事項を示している点が注目されます。
この10項目の中身は、今後1ヶ月を掛けてペンタゴン内の各軍種からのフィードバックを得て洗練されていくとのことですが、その後は地域コマンド、海軍や空軍の前線部隊関係者と一堂に会して方針として示すようです
ただし、10項目のどれを重視するかは地域の状況に応じて「地域コマンド指揮官」が判断することであると説明されており、ASBOが作成する各年度の「実行計画:implementation plan」がどの程度の強制力や予算への影響を持つのかは不明確です
Foggo海軍少将は、国防省や各軍種はASBOが低コストで可能な手法や技術改革を編み出してくれることを期待していると述べていますが、最後は各軍種や地域コマンド指揮官の決断にかかっているようです
ASBOによる重点10項目とは・・・
●Cross-Domain Operations Command-and-Control
ASBでは、陸海空戦力が瞬時に情報や指示を共有する発用があるが、国防省内には複数のC2システムがあり、相互に通信できないものもあることから、これを融合するのがASBにおけるチャレンジである
●Undersea Warfare Supremacy
複数のアジア諸国が静粛なディーゼル潜水艦捕獲得しているが、米海軍の原子力潜水艦は航続距離は長いものの、静粛性でディーゼル型に劣っている。対潜水艦戦において、我が被害を被る前に敵潜水艦を発見できるように努力する
●War at Sea
海軍は最近、対空戦や対弾道ミサイル対処に焦点を当ててきた結果、対艦戦に焦点が当たっていなかった。長距離対艦ミサイル計画を始めた程度である。より沿岸で活動するLCSの導入もあり、中国、イラン、ロシアは対艦戦にも重視して投資している
●Attack Operations to Defeat A2/AD
敵のA2AD行使戦力の攻撃作戦。敵C2ハブ、地対空ミサイル、沿岸防御施設、対艦ミサイル基地、敵電源網の混乱で敵インフラの妨害等々を、爆撃機、5世代戦闘機、巡航ミサイル、電子戦、サイバー戦の組み合わせで行う
●Active and Passive Defense
敵の装備が脅威化する以前に無力化する積極防衛と、敵の攻撃を要撃したり、味方施設を強固にしたり隠したり分散したりする受動的防御を、ASBでは両方融合して行う
●Distributed Basing
作戦を単一の大規模基地から行うのではなく、分散した複数のsemi-prepared基地から行うことで敵の攻撃を困難に出来る。太平洋域では基地を集約してきたこともあり、紛争時は他の基地から作戦発起も考えるべき。有事には全く新しい飛行場の整備も視野に入れる
●Contested Space Operations
宇宙アセットの安全強化である。衛星の武装や攻撃回避に至らずとも、ジャミングやGPS電波妨害への対処強化もある。敵にとってより簡単な目標である衛星関連の地上施設の強化やサイバー対処も重要。逆の視点から、我の敵宇宙アセットへの攻撃能力強化も重要
●Contested ISR
A2AD環境で戦いに必要な情報を如何に入手するか。イラクやアフガンでの様な、敵の対空脅威や電波・サイバー攻撃が無い環境はA2ADではあり得ない。また通信能力が敵攻撃や妨害で低下した中での作戦を想定する必要がある。更に、情報分析者が飽和しないように、かつ必要な情報が分析配布される必要がある
●Contested Logistics and Sustainment
米本土から離れた遠方で作戦遂行する必要性から、補給ラインを確保維持することが非常に大切。有能な敵は、我の補給ラインを通常兵器やサイバーで攻撃するだろう
●Contested Cyberspace Operations
サイバーは最も重要な戦場の一つである。我のネットワークやコンピュータを守るだけでなく、軍事的に防御された敵施設を物理的破壊と同じ効果で無効化することも可能である。情報収集や偽情報の提供も有効な手段である。米軍の作戦が全てネットワークに大きく依存していることからも重要性は明らか
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個人的に初耳だったのは、米海軍の原子力潜水艦が他国の最新ディーゼル潜水艦より「静粛性に劣る」との部分と、対艦戦ship-to-ship warfareに今後頑張るとの部分です。
潜水艦の静粛性については知識不足が暴露しただけですが、対艦戦重視の姿勢には今後も注目です。
具体的には、対艦ミサイルとISRの能力向上と、その組み合わせ能力向上を指すと思われますが、「艦艇族」が動きだし、とんでもない装備を要求しないかが心配です。