15日付読売新聞朝刊4面に「日本への提言2 語る」シリーズが掲載され、CSBAの副理事長であるJim Thomas氏がインタビューに答え、エアシーバトルを巡る最近の議論を紹介しています。
読売が「付けた」囲み記事の見出しは「接近阻止対策 実践の時」で、サブタイトルに「東シナ海の自衛力 高める必要」、「集団的自衛権見直しで抑止力強化」を掲げています。
読売のサブタイトルは、日本で話題になっている重要だが「矮小」な安保議論について、副理事長に無理矢理語らせた記事の一部側面を浮き彫りにしています。
しかしJim Thomas氏はそれ以上に、エアシーバトル構想を具体化する段階にある現時点での「重要要素6つ」や「前方展開部隊の撤退懸念」や「低強度紛争への対応」など、興味深い点についても語ってくれています
なお・・記事は「前振り」で、「シンクタンクCSBAが2010年5月に発表したエアシーバトル(ASB)は、中国のA2AD戦略への対処法として、米国防省に採用された」と説明していますが、正確には、2010年2月発表の2010年QDRで言及されたASBコンセプトはCSBAが考案した概念で、その概念は2010年5月発表のCSBA報告書で明らかにされた、と言うべきですが・・・
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
読売の取材にCSBA副理事長は
●過去数十年間、米国の戦力投射は比較的容易だった。他国沿岸まで空母を進出させたり、付近の(同盟国等の)基地を使用して作戦を遂行することが出来た
●しかし、特に過去15年間に渡る中国軍の「介入阻止戦略」に焦点を当てた軍事力近代化で、外部勢力が西太平洋地域に介入するのは困難になり、介入の場合は大きな犠牲を強いられることになった
●そこで私達は議論のたたき台となるASB構想を策定し、今、国防省や同盟国がそれを如何に実践するかを具体化する段階に入っている
●現時点で、本構想に重要な要素は6つある
1→敵のA2AD圏内で、統合(共同?)作戦を遂行する能力
2→A2AD圏外の遠方からの任務(ISRや爆撃、宇宙やサイバー空間活動)遂行能力
3→米軍活動の聖域を提供させるため、同盟国に自身のA2AD圏を構築させる。
4→敵に損害を与えうる周辺地域での作戦遂行能力
5→敵のC4IとISR能力を盲目化する能力
6→低強度の脅威に対する沿岸警備隊など準軍事的能力での対処
●(質問:長距離打撃力重視で米前方戦力は有事後退するのでは?)
—米軍の前方展開戦力は撤退しません。反対に、米国は前方に止まることを明確にしている。
—敵のA2AD圏内の我が戦力は、我の長距離打撃能力と相乗効果を持ちます。敵に対し、なるべく多くの課題を与える事が我の目標であり、そのことで非常に強い抑止力になる
●当初ASB構想は高強度の脅威を想定したものだったが、(公船の領海侵入や武装外国人による離島占拠などの)低強度の侵害対処は盲点だった。この点に関する構想や部隊配備や抑止策は進化させ続ける必要がある
●日本は新防衛大綱で、グレーゾーン対処に適した「統合機動防衛力」構想しているが、ASB構想と橋渡ししていくことが課題
●日本は、東シナ海での警戒監視や航空優勢獲得等の自衛力を高める必要がある。
●米軍の戦闘能力を最大化するため日本は、空港を日本全体に分散させること(日本各地に飛行場を確保すること)や、潜水艦など米海軍部隊に前方拠点を提供して給油や兵器の補給を行うこと等、出来ることが多くある
●集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しは、日本が取るべき当然かつ論理的なステップ。これにより、年末までに行う予定のガイドライン改訂が、強固で実質的価値を持つことになる
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このインタビュー記事は、ガイドライン改訂に向けた日米間のアジェンダを整理・解説している点で非常に重要だと思います。ネット上では公開されていないので、是非「切り抜きスクラップ」をお奨めします
まず、カーネギー財団の研究者が提案していた「Front Office & Back Office」概念もそうでしたが、「米軍活動の聖域を提供させるため、同盟国に自身のA2AD圏を構築させる」との表現があります。
打撃力は米軍が独占するとも聞こえて複雑です。日本が打撃力を持つことは財政的に容易ではありませんが、「瓶にフタ」をされているようで「もやもや感」が残ります
「Front&Back Office概念」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-25
次に、「米軍の前方展開戦力は撤退しません」は極めて政治的な発言でしょう。
2010年5月のCSBAエアシーバトル報告書でも、「同盟国等国民の交戦意志を強固に維持するため、初動における集中攻撃が予期される場合の米軍戦力の行動は慎重に判断されるべきだ」との主旨の記述がありましたが、現在もその強い認識のもとに言葉を選んでいるのでしょう
「CSBA:その時米軍はどうすべき?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20
例えば、上記インタビューで日本に要求している「空港を日本全体に分散し確保」してくれれば、撤退を再考してもいいよ・・・程度に理解すべきでしょう
虎の子のF-22を、初動で機能停止しそうな嘉手納基地に配備継続するなど、軍事的合理性に欠ける行動を米軍には望みません。避難先準備のための東南アジアや豪州での拠点確保でしょうし、グアムへの緊急避難&作戦再構築訓練もその為でしょうから
「敵に多くの課題」で「非常に強い抑止力」は理想ですが、それが難しいのが現実かと・・
「米空軍ローテーション派遣構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-04
「グアムへ避難訓練」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-08-23-1
最後に、「低強度の侵入も考慮」は、エアシーバトルは過激過ぎて核戦争を招く、政策的柔軟性がないとのオフショア・コントロール論者からの指摘に対応する配慮でしょう。
「対比:ASB対オフショアコントロール」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-08-24
「オフショア・コントロールを学ぶ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-03-13
「ASB批判に5つの反論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-17
「ASBとOC論融合の勧め」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-09
まあ、尖閣事案の際は日本が勝手に対応してくれが米側の基本的態度でしょうから、エスカレーションを防げ、情勢を米軍によく通報して米軍にASBの準備が出来るようにせよ辺りが、グレーゾーン対処とASB構想との「橋渡し」に期待されることでしょうか・・・
「Front&Back Office概念」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-25
蛇足ながら、「東シナ海での航空優勢獲得等の自衛力を高める必要」を日本に求め、F-35をしっかり購入せよと示唆しています。
CSBAは2010年年5月の報告書時点から、中国の弾道ミサイルや巡航ミサイル脅威をしっかり把握し、日本の飛行場が初動で機能喪失すると分析しておきながら、軍需産業の顔を立て、日本に5世代戦闘機を買えと矛盾する立場を堂々と取っているシンクタンクであり、この点に関しては要注意です
2010年5月のCSBA報告書の解説
「CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-18
「2CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20
「3CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-20-1
「4CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21
「5CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-21-1
「6CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-24
「最後CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-05-30
「番外CSBA中国対処構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-02-1
「Air-Sea Battleの起源」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-24-1
「CSBAによる中国対処シナリオ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-30
Jim Thomas副理事長が語る
●目標特定とISRネットワーク力を備えた防御側が、安価でステルス性のある長距離精密誘導兵器を使用するようになれば、「戦場は防御側に有利になる」との主張
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-08-01
●フォーリンアフェアーズ誌掲載の衝撃的正論。米陸軍は戦車や大砲や歩兵中心から、米国版展開地A2ADを構築する地上ミサイル部隊へシフトせよとのCSBA研究者論文です
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14
読売「日本への提言」シリーズ
「CSISルトワックが日本に提言」→ http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-17
「ヨシハラ教授:日本もA2AD戦略を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-03-19