ヨシハラ教授:対中国軍で日本版A2ADを:CNASレポート

•日本は、中国の攻勢能力に専守防衛で対応することはできない
•日本の称賛に値する戦術的職人技は、不釣り合いに高価で、発揮は困難
•対称戦は、敵に対して財政的・技術的優位を持つ大国のやり方。日本にそんな余裕はない
Yoshihara-CNAS.jpg12日、米海軍大学のヨシハラ教授がCNASからGoing Anti-Access at Sea: How Japan Can Turn the Tables on China」とのレポートを発表し、中国の軍事力が急進する中で、日本の対応について海上自衛隊を中心に提言しています
日本もA2AD戦略を採用し、中国軍の初動を邪魔して米軍の増援部隊が戦域に到着するまでの時間を稼ぎ、中国にA2AD遂行のコストを負わせよ、との提言です。
また一方で、日本版A2ADを追求すると、ある意味偏った戦力構成にならざるを得ない。その場合、現状の予算規模では、平時からの多様な任務や国際的なプレゼンスのための多用途駆逐艦や高性能航空機の整備との吻合が大きな課題となる、と誠に婉曲的かつ社会人らしいまとめを披露しています。
でも結論は、冒頭紹介の3点に集約されます
以下は「海国防衛ジャーナル」の概要紹介を拝借
現状の認識
Yoshihara.jpg中国の海軍力は軍事・準軍事の面で質・量ともに増大している。
•日本は技術と人的資本の面で優勢を保っているが、数量で追いつくことは困難になっている。
最大の懸念は、日本列島が中国の弾道ミサイルと巡航ミサイルの射程に入ること。ミサイル戦力は、中国の対米抑止戦略の中心(特に台湾有事において)で、米軍基地の使用を難しくし、行動の自由を制限することで台湾への介入を阻止
●この点で中国の軍事作戦立案者たちは、日本にある海軍港や空軍基地に注目。なぜなら、高列度通常戦で、中国軍は日米の航空優勢・海上優勢獲得の重要拠点となる日米軍の空軍及び海軍施設にダメージを与えなければならないからだ。
ASBM DF-21D.jpg●そこで作戦当初に、嘉手納、岩国、佐世保、横須賀といった軍事基地に対してミサイル攻撃を仕掛ける。この攻撃は米軍の行動を制約し、結果として、中国本土への接近を遅らせる
一方、日本の現在の防衛態勢は、中国が日本に不釣り合いなコストを課すことを許容している。例えば海自の対潜能力ASWは世界第二の固定翼ASW戦力を持つが、中国のミサイル攻撃に脆弱
●また海自は「ひゅうが」や「いずも」といったヘリ空母へ投資しているが、中国のミサイル攻撃の格好の標的となる。ASWの例は、海自が今後劣勢を余儀なくされる分野のひとつに過ぎない
対策としての日本による接近阻止戦略
ASBConcept.jpg●この状況を改善させる方策のひとつが、日本による接近阻止戦略採用。東シナ海周辺で中国の空海軍の活動を制限し、彼らの初動を抑え、米軍の増援部隊が戦域に到着するまでの時間稼ぎができる
琉球列島の戦略的位置は日本が劣勢を逆転する機会を与える。A2AD部隊をこの列島に配置して日本が中国軍の列島線への接近を拒否することができれば、米軍はより攻撃的な作戦に集中できる
●潜水艦戦
→冷戦時ソ連の潜水艦を封じ込めたように、西太平洋に向かう中国軍のアクセスを制限
●機雷戦
主要な海峡への機雷敷設は非常に実現可能性の高いオプション。機雷除去は熟練と忍耐が必要な難しい任務で、中国海軍は対機雷戦への備えが十分ではない
●小規模艦艇による防衛
→小規模な琉球列島のインフラや地形を利用した、海自によるゲリラ戦もあり得る
●沿岸配備の各種ミサイル
車両搭載型の対艦・対空ミサイルを列島線沿いに配備。少なくとも中国の戦闘力の一部を束縛出来る。防衛的であり、かつ日本の意志を示す意味でも戦略的にも意義深い
●抗たん性強化
レジリエンス(復元力)が日本の戦略の中心であるが、堅固化も重要。ミサイル攻撃を受けた後のインフラの急速な修復、軍事作戦の継続能力も
●分散と代替施設確保
→現在は、日米の軍事アセットが一部の地域に集中していることが、中国のターゲッティングを容易にしている。国内の民間航空、商用造船所、埠頭などを有事に徴用
日本版A2ADのリスクとコスト
Birds-Tra2.jpg●日本版A2ADの問題もある接近阻止戦略を採用するとなると、より狭い枠の戦力構成に偏るからだ。
沿岸配備の各種ミサイルや阻止用の高速攻撃艇等は、単一任務しか担当できない。一方で日本版A2ADでは期待されない、多用途駆逐艦や高性能航空機は(平時に)シーレーンやエアスペースを保護する能力を持ち、日本の経済力に見合った国際的な責務を果たすことにも役立つ
防衛費が増えないなら、日本は中国を念頭にした接近阻止戦略と日本の大戦略の長期目標の両者のバランスを取らなければならない
●軍事的観点から見れば、日中間で弱者になっていくのは日本である。
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地位も立場も「社会を生き抜く分別」もあるヨシハラ教授は、ヘリ空母「ひゅうが」や高性能航空機(恐らくF-35)を日本版A2ADには「無用の長物」とは表現せず、平時の領空保護や国際的な責務の完遂など「日本の大戦略の長期目標達成のため」と婉曲的に表現して持ち上げています
Yoshihara2.jpg日本や米国のアジア軍事政策担当者向けのレポートですから、選択肢を残しての分析になっていますが、冒頭で取り上げた結びの部分が示すように、「高価で勝ち目のない専守防衛など捨てて非対称のA2ADに取り組まなければ日本の国防など不可能」(まんぐーす解釈)がヨシハラ教授の結論でしょう
ここは素直になって読みましょう。まんぐーすは反論できませんし、そうだと思います
最後に、同レポートご紹介頂いた「海国防衛ジャーナル」に改めて感謝
→http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50734489.html
CNASの同レポート関連webページ
→http://www.cnas.org/anti-access-at-sea
ヨシハラ教授来日時の講演(2011年11月)
上記と同様の主旨の内容です
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-09-29
ヨシハラ教授関連の記事
「対中国姿勢を語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-04-03-1
「日本自身のA2AD構築を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-09-29
「米海軍は日本から豪へ移動」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-07-29-2
日本版A2ADを考える陸軍ミサイル化
「CSBA:陸軍にA2ADミサイルを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14
「中澤1佐が傾聴に値すると」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-10

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