「米国防省の現在の各部隊への資源配分は、誤った指標や偶然の要因影響に基づいて行われ、部隊の即応態勢を継続的に評価する理論やモデル構築が行われていない」
9日、シンクタンクCSBAのTodd Harrison研究員が「Rethinking Readiness:即応態勢評価を再検討」とのレポートを発表し、米軍各部隊の即応体制を維持するために国防省が要求する予算積算の基礎にある部隊状態評価を、兵員数や装備数や補給部品等の「インプット」情報にのみ依存し、「アウトプット」を測る部隊の能力発揮指標(理論やモデルから導出)に基づいていないのではと指摘しています
国防予算が厳しくなる中、予算配分の考え方を根本的に見直し、限られて予算を有効に配分すべきとの問題認識から出た研究レポートですが、同様の問題認識が2011年の議会予算室からのレポートで指摘されたことが研究の発端になっています
軍部隊を指標・数値でより適切に評価しようとの米国的発想で、「アウトプット」指標の一例として「爆弾投下の平均誤差」等が挙がっていますが、このような指標群を軍戦略やモデル分析から案出し、継続的に見直しを行って各部隊への資源配分量判断に生かそうとの発想です。
「Rethinking Readiness」の概要説明より
●米軍はこれまで、軍部隊の即応能力を評価するのに、いわゆるインプット、訓練飛行時間、兵員充足数、装備数とその状態、予備の部品保有数、訓練度合等によって把握し、議会にもそのような数値を元に即応性維持のための経費を要求してきた
●現在は「Status of Readiness and Training System (SORTS)」により集計されて報告される各部隊の「インプット」を各軍種がまとめ、そこに各指揮官の自己診断も加えて「国防省Readiness Reporting System (DRRS)」により集計され、議会に報告される
●しかしこれらインプットによる部隊評価では、各部隊の戦う能力を正確に把握できていない。議会は米軍に対し、部隊能力をアウトプット(戦闘機操縦者能力、空対空戦闘能力、爆弾投下の正確さ指標等々)から把握できるような指標の整備を促すべきである
●このようなアウトプット指標作成には、どの要因が部隊の即応体制を正確に示すかを把握するための管理された実験・観察が必要である。
●資源を効果的に配分し、軍戦略に求められる任務を達成する事がアウトプット指標の狙いだが、2つの課題がある。一つは与えられた任務遂行能力を測る指標群の開発であり、もう一つは資源配分量を示すインプットとアウトプット指標の因果関係を明らかにする事である
●歴史的な過去のデータが、このアウトプット指標群の整備と、インプットとアウトプットの相関関係把握に役立つとは限らない。記録に残っていない隠れた影響要因が部隊の任務遂行に強く影響を与えていた可能性があるからだ
●指標群の整備とインとアウトの関係を理解するには、条件を管理された多様な条件での実験が必要で、更に継続的に検証し続けることが求められる。
●本レポートはまず、国防省と議会が共に部隊の即応体制評価の重要性に注目し、その指標と資源配分を再評価する必要性に気づくことを求める。国防省は任務に基づくアウトプットを評価できる指標群の作成と議会への報告を求め、議会にはそのような国防省報告を求めるよう規定するよう要望する
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CSBAのTodd Harrison研究員は、以下に示すようなレポートをCSBAから発表しており、一貫して米国防予算の無駄や非効率な配分を指摘し、苦しい強制削減を理由に一括X%の予算削減を行って部隊の能力低下に至る前に、やるべき事がいっぱいあるはず・・・との主張を続けています
Todd Harrison研究員の過去レポート
「国防投資の重点は」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-11-28
「2013年強制削減の影響は」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-08-28
「予算削減への対応を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-09-1
もちろん、部隊を数値で評価すること、更には様々な異なる環境にある部隊間で比較する事は容易ではなく、軍の文化には馴染みにくい取り組みです。
日本のような小さな国で、小規模な軍で、この手法が最適だとも思いませんが、「戦略的にどんなアウトプットが必要か?」については真摯に再確認する必要があると思います
弾道・巡航ミサイルやサイバーや電子戦や宇宙戦を前面に押し立て、短期の高列度紛争で目的を達成しようとする中国に対し、「実質戦闘機だけ」の防衛力整備で良いのか? きっとこの疑問に直面するはずです。