米海軍大学Andrew Erickson氏が大絶賛
11日、米政府の米中経済安保レビュー協議会(USCC:US-China Economic and Security Review Commission)による委託を受けたRAND研究所が、増強し変革し脅威度を強める中国軍の課題や問題点を指摘したレポートを発表しました
中国軍の軍備増強や技術発展を取り上げるレポートは多いのですが、それだけでなく、しっかり弱点も見極めて有効な対処戦略案出に繋げようとの試みです
レポートは300以上の中国共産党出版物の論文と、内外多数の論文や研究を参考にし、併せて7名の著者が多様な側面からデータや知見を持ち寄って体系的な分析を行っています
タイトルを「China’s Incomplete Military Transformation: Assessing the Weaknesses of PLA」とするレポートは、中国軍の問題課題を2つの側面(制度面と戦闘能力面)から取り上げました。
制度面では時代遅れの組織構造、人材の質、プロ意識、腐敗を取り上げ、戦闘能力面では兵站、戦略空輸能力、特殊任務機の不足、艦艇防空能力と対潜水艦能力の不足等を分析しています。
現物も巨大(6.3MBで約200ページ)ですが、種々の解説報道も長いものが多く、消化し切れていませんが、取りあえずの案内図としてご紹介を試みます。本日は前半です
11日付Defense-News解説記事によれば
中国軍自身の自己評価
●レポートは300以上の中国共産党出版物の論文と、内外多数の論文や研究を参考にし、第2砲兵副司令官が執筆の「第2砲兵作戦の科学」などの重要文献も分析の中で取り上げている
●中国軍が自身の問題点を分析したものも多く含まれ、多くは「two incompatibles」と「two gaps」との表現で中国軍の問題を表現している
●「two incompatibles」と「two gaps」は同様の概念で言及されるが、「two incompatibles」では問題点を指摘することが多く、「two gaps」では問題の分析と解決法に言及する傾向が見られる
●「two incompatibles」に関しては、情報化条件下で局地戦に勝利するとの要求に応えられるレベルにない点と、中国軍が歴史的に持つ他の任務がしっかり遂行できない点の2つにまとめられる事が多い
●「広範で慢性疾患的な」訓練、組織、人材、兵站の問題を抱えていると中国軍内部でも指摘されており、装備の近代化に訓練が追随していないと表現されている
●組織面では、中国軍は指揮系統とメカニズムにおける構造的問題と機能不全問題に取り組んでいないと批判されており、兵力組成も20世紀の機械化軍レベルだと揶揄されている
●更に、伝統的な考え方と慣習が大きく変化することなく残っいるほか、中国軍の人材レベルは新世紀の任務を遂行できるレベルにないと、中国軍自身も分析している
●兵站分野ではそのその組織構成と規模も不十分で、任務支援能力が要求レベルを満たしていない
中国共産党と軍の関係
●中国共産党の維持が、引き続き党、国、軍にとっての最優先であり、共産党が軍を引き続きコントロールする。
●共産党は時に厳しい口調で攻撃的な姿勢を示し、実際にそうすることもあるが、基本的には紛争を避け、平和な状態での経済発展を追求している
●中国軍の統合作戦への動きは中長期的なもので斬新的にしか進まない。厳しい選択は後送りされ、共産党の支配に影響があれば進まないだろう
文民との関係で中国軍をどう見るか
●文民による中国軍への監視や統制がないことを弱点と捕らえ、中国軍は非効率で不十分だと判断するのは間違いだろう
●また、文民による中国軍への貢献が無くても軍と国がコーディネイトしていることから、国と軍の接点を攻撃する米国の作戦戦略は正しくないだろう
●しかし中国共産党内部に、中国軍の忠誠や信頼感に対する疑念を生じさせれば、中国軍の戦闘力発揮を困難にすることができるだろう
●また、中国政府機関が行っている外交、経済、その他の政策が、中国軍をサポートしてくれていないとの疑念を持つように中国軍を仕向けることは、米国の政策選択肢となりえる
中国軍の問題や弱点を示す多数の例示
●国家官僚機構と中国軍の関係の不都合や対立も、中国軍の弱点となっており、多数の事例が紹介されている。
●2001年のP-3Cと中国戦闘機の衝突事件、2003年のSARSサーズ対応、2006年の空母キティーホークと中国潜水艦接近事案、2007年の衛星破壊兵器試験、2008年の四川省大地震対処など事例には事欠かない
●四川大地震の際には、中国軍が現地対策本部を、国が設置した本部と同じ場所におくことを拒否したと紹介されている
●腐敗も凄まじい。2014年には中央軍事委員会の副委員長であった徐才厚が逮捕され、同じく現副委員長の郭伯雄も検挙されるだろうと言われる有様である
●中国軍の7つの軍管区は、都市地域と広大な省が管区内に混在するなど、現在のハイテク戦や戦力投射ニーズを反映していない
●中国軍の装備に新装備と旧装備の混在がしており、これらの並行運用や訓練に支障が出ている。
●中国海軍のType 054Aフリゲート艦(4000トン)は「ミニイージス艦」と考えられているが、艦が小さく射程が十分な防御ミサイルを搭載できず、対艦ミサイルの飽和攻撃に対応出来ない
●また、中国軍が前方展開より接近拒否に重点を置いていることが主な理由で、中国海軍は対潜水艦能力に欠けている。
●そこでレポートは、米軍が取るべき策を提案している。「中国の弱点に付け入るべく、迅速に推移する状況の変化への対応が困難な中国のスローな意志決定システムを飽和させ出し抜くような速いペースで、予期できない行動」を推奨している
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後半の明日は、「核戦力」、「技術開発」、「人的側面と規律」、「西側の中国軍評価と軍事交流」等の側面から、膨大なレポートを紹介します
「後半:RAND中国軍の弱点レポート」
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-15-1
全く「こなれていない」Defense-News解説記事のご紹介です。ご覧になる前にRANDのwebサイトで概要を把握された方が良いかもしれません
それでも、少しは具体的な事例や例示があった方が分かり易かろうと、「解説記事」を取り上げました。
多くが「どこかで聞いたような」「そういえばそんなことも」的な中身かもしれませんが、体系的にまとめたことに大きな意義があると思います
200ページもの報告書ですので、具体的な数値や図表も多く含まれていると思います。是非参考にしたいものです
レポート現物(6.3MB)
→http://origin.www.uscc.gov/sites/default/files/Research/China%27s%20Incomplete%20Military%20Transformation_2.11.15.pdf
RANDのレポート紹介webページ(要旨、主要ポイント)
→http://www.rand.org/pubs/research_reports/RR893.html
Andrew Erickson氏が自身のwebサイトで絶賛
→http://www.andrewerickson.com/2015/02/chinas-incomplete-military-transformation-assessing-the-weaknesses-of-the-peoples-liberation-army-pla/