CSBA報告書:米国の潜水艦優位が危機に

CSBA-Submarine.jpg1月末、CSBAが潜水艦作戦を含む水中作戦の動向を「The Emerging Era in Undersea Warfare」との報告書で発表し、潜水艦探知技術や探知妨害技術、無人システムの発達や水中通信の技術発展を取り上げつつ、これまで米国が保持してきた優位差が急速に埋まりつつあると警鐘を鳴らしています。
この分野は公開情報が限られ、なかなか現状把握や将来予測が難しい分野ですので、CSBAのレポートを活用してお勉強したいと思います。
以下では、同レポートの概要を紹介した11日付Defense-Tech記事を取り上げ、皆様の「へぇ・・そんな方向に向かっているんだ・」に供したいと思います。
11日付Defense-Tech記事によれば
若干の潜水艦戦の歴史
Clark-CSBA.jpg●同レポートを執筆したBryan Clark上席研究員は「WW2終了時点では、シュノーケルを装備したドイツ潜水艦の技術が米国には無く、その静粛性を米国は必死で探ろうとした」、「その後原子力潜水艦が登場したが、常にノイズを出す原潜はパッシブソナーで探知しやすかった」と語った
●更に「米国は原潜のノイズを押さえるため、スクリュウ音や艦内音源騒音を低減し遮蔽する技術を磨き、理論を実現する製造技術を蓄積して来た」と語ってくれた。
●もちろんこの間、敵を探知する我のソナー技術開発にも心血を注ぎ、先端のレベルに到達した
CSBA報告書の指摘する現状と新技術
●CSBA報告書によれば、進歩する潜水艦探知技術や情報処理技術、更には無人水中艦の急速な発展により、脅威度の高いエリアにおける米海軍の水中作戦の優位性は急速に失われつつある
●これにより米軍は、有人潜水艦の役割見直しや水中分野の技術開発優先順位の見直しを迫られる可能性がある
●例えば、米海軍の潜水艦は世界一静かだが、潜水艦のノイズに頼らない探査手法の発展と対象国の技術追随により、米潜水艦の行動はますます危険なものとなるだろう
米軍の優位を脅かす技術
Virginia-class.jpgアクティブソナーに「より低い周波数」を使用する技術が確立しつつある。従来は1000Hz~10000Hzの周波数をソナーに使用していたが、「より低い周波数」は1000Hz以下を想定している
●Clark研究員は「従来の周波数では写真のような目標のイメージが得られる。一方、より低い周波数は(分解能は落ちるが)より探知距離が得られ、複数の広範なエリアの捜索に成功している」と説明した
●またレーザーや発光ダイオードの光で、近距離目標を探知する技術も成熟しつつある。
●これらの原理は数十年前から知られていたが、情報処理プロセッサの能力が当時は低く、潜水艦が引き起こす微細な水中状態の変化を瞬時に計算して探知に活かす事が出来なかったのだ
過去20年間の計算プロセッサ能力向上と小型化はすさまじく、ほぼリアルタイムかつ低電力でモデル計算を可能にした
無人水中システムの発展
UUV.jpg無人水中艇(unmanned underwater vehicles)が、従来有人潜水艦が実施してきた沿岸地域での隠密作戦や機雷敷設に活用されるようになる。
燃料電池やバッテリーの進歩により、原子力に頼らず、UUVが数ヶ月間も水中で活動し、搭載ソナーや装備に電力を供給可能になってきている。リチウムイオン電池を搭載する日本のそうりゅう級潜水艦が好例である
音響技術の発展
●ソナー性能を向上させてきた技術が、発見を困難にする技術に応用されている。身近なヘッドフォーンのノイズ除去技術は、潜水艦の消音技術に応用されるだろう
●またUUVや浮遊システムがソナー妨害音を発し、潜水艦が自ら発する騒音と協力し、電子戦におけるジャマーのような機能を果たすことも考えられる
小型魚雷などの開発
現存の小型魚雷の1/3程度の大きさ重量の小型魚雷CVLWT(Compact Very Lightweight Torpedo)を米海軍は開発中である。小さいのでUUVからも発射可能で、有人潜水艦と共に作戦可能となる
CVLWTは射程が短いが、UUVは密かに目標近傍まで接近出来るため、十分な攻撃効果が期待出来る。
●また海軍が試作している燃料電池無人航空機(Fuel Cell UAV)は、航続飛行距離は短いが、潜水艦やUUVから発進させることでISR活動に有効活用出来る
水中での通信技術
Sub-UUV.jpg潜水艦がその隠密性を保ちつつ、他の潜水艦や水上艦艇と通信可能な技術も発展しつつある
音響通信(Acoustic communications)が作戦遂行上で意味ある距離で使用可能になりつつある。また短距離では、レーザーや発光ダイオードで情報量の大きい通信の可能性を持っている
●また、浮遊式や曳航式の無線機が、潜行中の潜水艦等と水上との通信を、被発見の恐れなく実現するだろう
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CSBA報告書の全体を読んだわけでは無いので恐縮ですが、以上の様な技術革新が起こっていることで、米軍が優位を「近い将来も保てる」と主張するのでは無く、「差が縮まっている」と危機感に結びつけるのには、それなりの根拠や理由があるのでしょ
中国等のサイバー攻撃やスパイ活動で、情報流出が明らかであったり、中国等で既に似たような研究が進んでいるとの「証拠」があるのでしょう。
報告書にはそのあたりも記載されているのかも知れませんが・・・
CSBAの報告書紹介web ページ
→http://csbaonline.org/publications/2015/01/undersea-warfare/
(レポート現物へのリンクも含む)
「世界が注目:そうりゅう型潜水艦」
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-10-03
CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶシリーズ
その1:総論→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
その2:各論:海軍と空軍へ→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
その3:各論:陸軍と新分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-2
「CSBA:陸軍にA2ADミサイルを」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14

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