戦闘機命派が固執する空中戦で18年ぶりの撃墜
でも、、、まだ空中戦訓練に固執するの?
18日、対ISIS作戦に参加している米海軍FA-18が、爆弾投下後のシリア軍SU-22戦闘爆撃機を、空対空戦闘により撃墜しました。
シリア軍のSU-22は米軍が支援するシリア民主軍SDFの活動地域を爆撃しており、米軍は多国籍軍の交戦既定と集団的自衛権に基づき、味方であるSDFを攻撃したSU-22をFA-18により直ちに撃墜した模様です
6月8日には、関係国が非戦闘地域(deconfliction zone)に指定している地域で、対ISIS対処部隊の訓練キャンプをシリア軍保有と推定される「無人機MQ-1に似た」無人機が攻撃し、米空軍F-15Eが撃墜する事案が発生したところでした
この様にシリアやイラクでの対ISIS戦は、ISISの劣勢が伝えられる中、これまで比較的遵守されてきた米国ロシア間の「非戦闘地域(deconfliction zone)指定」を無視する「仁義なき戦い」の域に入り始めており、アサド政権&イラン&ロシア連合と 米国主導の多国籍軍の戦いの推移が注目されます
でも今日の注目点は、18年ぶりの空中戦撃墜です。
これを機会に、戦闘機命派が何時までも固執する「空中戦」が激減し、「空中戦技能」の重要性が急降下している現実を再確認し、他に考えるべき事があるだろう!、と叫ばせて頂きます。
18日付Military.com記事によれば
●18日米中央軍は、米国が支援するSDFを攻撃したシリア軍SU-22戦闘爆撃機を、米海軍FA-18が空対空戦闘で撃墜したと発表した
●なおシリア軍SU-22は、今年4月にシリア反政府側の支配地域を化学兵器で攻撃した航空機と考えられており、SU-17やSU-20の派生型の戦闘爆撃機である。なお多国籍軍側は、この化学兵器攻撃を契機として、米海軍駆逐艦2隻から50発以上の巡航ミサイルをSU-22根拠基地に発射し攻撃した
●シリア軍によるSDF支配地域への進軍は初めてで、多国籍側はロシアに緊張緩和の申し入れを行ったものの変化が見られなかった状況であった
●同SU-22はSDF兵士近傍に爆弾を投下したモノで、米中央軍は「多国籍軍の交戦既定と集団的自衛権に基づき、直ちに米海軍FA-18によって撃墜した」と発表している
●この様な空対空戦闘での敵戦闘機撃墜は、1999年コソボ紛争時の米空軍F-16によるセルビア軍Mig-29戦闘機撃墜以来である
●またFA-18による空対空戦闘による撃墜は、1991年湾岸戦争時に、2機の米海軍FA-18が2機のイラク軍Mig-21戦闘機を撃墜して以来である
日本の戦闘機命派はどう反応するのか?
●日本の戦闘機命派が、次の中期防衛力整備計画(平成31年度~)で戦闘機飛行部隊の増強を企て始めているとの噂を耳にし、とんでもないとあきれ果てる一方で、陸自が現在の中期防作成時に増員を持ち出し、結局現状維持ぐらいを勝ち取った歴史を思い出し、同じ作戦かとため息がでる思いである
●米国防省の報告書「中国の軍事力」がここ数年一貫して、中国軍の軍事力増強や組織改革の目的が、「地域の紛争において高列度の戦いで短期間に勝利を収める」事にあると結論づけ、弾道・巡航ミサイルやサイバー・宇宙・電子戦能力強化に中国が邁進していると明記する中、航空自衛隊はこれへの対処を無視し続け、脆弱な戦闘機投資だけに固執中
「F-3開発の動きと日本への提言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-18
「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16
「2016中国の軍事力」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-15
●鉄砲が戦いを制する時代に剣術に固執した戦国大名の悲劇そのままに、未だに「操縦者綱領(香料、荒涼)」や「ファイターパイロット魂」なる時代錯誤の呪文を唱えるだけで無く、「ただ飛んで飛行手当を確保したい」「支配者意識とポストを確実に享受していたい」との思いを包み隠し、真に抑止力強化や粘り強い戦いに必要な施策、つまりクロスドメイン装備や強靭性強化等々に資源配分を行わず、サイバー宇宙電子戦への投資や人材育成もかけ声だけ、後回し&「すすめの涙」で誤魔化している
●脅威が変化している中、根拠の希薄な戦闘機飛行隊とパイロット数維持に固執(増強との暴挙も含め)する事により、操縦者以外の重要性が高まる構成員の士気を削ぎ、加えて「飛行訓練」以外の教育訓練投資もサラミスライス削減し、中国軍が真に力を入れている「高列度・短期戦」への備えを無視し、平時からグレーゾーンの領空保全任務だけをアピールし、スクランブル回数だけで操縦者の存在感(自己満足感)を売り出している
「織田邦男の戦闘機命論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-06
「中国報道:J-20が運用開始?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-14
「大局を見誤るな:J-20初公開に思う」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-02
●そんな日本の戦闘機命派には、空中戦能力を2の次にし、搭載量や航続性能をより重視する米空軍の次期制空機(PCA)検討は目にしたくない情報だろう。ましてや、ステルス性に依存しようとしていた中で、米空軍がエスコート型電子戦をPCAより優先する「あせっている」様子を見せられ、状況が全く理解できない脳死状態かも知れない
●米空軍PCA検討の背景には、脆弱な航空基地など精密誘導兵器やサイバー戦等で当初から利用不可となる可能性が高く、遠方から数少ないアセットで対処するしかないとの極めて自然な脅威認識がある。また、地対空ミサイルの機動性や射程が急速に発展し、制空機の速度や機動性をいくら高めても脅威を回避できないと単純に予測できるからである
「次世代制空機PCAの検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「航続距離や搭載量が重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-08
「CSBAの将来制空機レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-15-2
「ACC司令官も電子戦機を早期に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-27
「20年ぶりエスコート電子戦機?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-20
●空対空戦闘での撃墜が18年間発生しなかったのは、大国同士の戦いが無かったからだけではない。通常戦力における圧倒的な米軍との差を認識している潜在的敵国が、戦闘機VS戦闘機や、艦艇VS艦艇の戦いを避け、非対称の戦いを場に選んだからである。
●この様な変化を独占支配者である戦闘機命派は肝に銘じ、次期中期防では「戦闘機」や「戦闘機操縦者の訓練」の質を根本的に見直すことから開始し、平時からグレーゾーンの領空保全任務アセットや訓練への投資を削減方向で見直し、真に抑止力強化や粘り強い戦いに必要な施策に資源を振り向けるべきである。
「脅威の変化を東アジア戦略概観で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-08
「広中雅之は対領空侵効果に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-18-1
「小野田治も戦闘機に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-05
●この際、平時からグレーゾーンの領空保全任務の遂行が抑止力につながると見なされた過去と決別し、戦闘機操縦者の手当とポスト確保の既得権益に結びついてると見なされつつある事を忘れてはならない
●また、「操縦者綱領(香料、荒涼)」や「ファイターパイロット魂」を正面に掲げることが、脅威の変化や戦略・戦術環境の変化を理解出来ない点に於いて、書籍「失敗の本質」が描いた太平洋戦争当時の日本軍高級士官そのままの姿である事にも気付くべきであろう
書籍「失敗の本質」に学ぶ
→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-12-31
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SU-22とFA-18の性能差や搭載兵器からすれば、「空中戦」というよりも、「狙い撃ち」だったと思いますが、空対空戦闘の範囲をそこまで拡大しても、それでも空対空戦闘は18年ぶりなわけです
それでも操縦者の命は重いから、しかり空中戦訓練をさせ、空中戦用の戦闘機を装備せよというのなら、地上の飛行場や指揮所で勤務する兵士の命はもっと危機にさらされるでしょう。
戦闘機を個々に撃破するよりも、地上の作戦基盤を直接狙ったほうが、敵からすれば費用対効果が高いでしょう
グレーゾーンの領空保全を重視するなら、ハードに投資するよりも、法制や交戦規程をまず改正し、ソフト面から抑止力をまず高めるべきでしょう
報道機関の皆様には、航空幕僚長の記者会見や沖縄の那覇基地で、是非、質問して頂きたい。
「18年ぶりの空中戦で米軍機が敵戦闘爆撃機を撃墜しましたが、受け止めをお聞かせ下さい」とか、
「米空軍のPCA検討をどう思われますか」とか、
「空自の次の戦闘機議論では、どのような点がポイントですか」とか、
「前の齋藤空幕長は退任直前、スラストベクターに言及(東京の郊外にまで世界中から嘲笑が聞こえてきた問題発言)されていましたが、杉山空幕長は如何ですか」とか・・・
米空軍の次期制空機PCA検討
「次期制空機検討は2017年が山!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-12
「次世代制空機PCAの検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-30
「航続距離や搭載量が重要」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-08
「CSBAの将来制空機レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-15-2
「NG社の第6世代機論点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-17
「F-35にアムラーム追加搭載検討」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-28
制空戦闘機より電子戦機を優先
「ACC司令官も電子戦機を早期に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-27
「20年ぶりエスコート電子戦機?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-20
くたばれ日本の戦闘機命派
「中国報道:J-20が運用開始?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-14
「大局を見誤るな:J-20初公開に思う」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-02
「脅威の変化を東アジア戦略概観で」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-08
「F-3開発の動きと日本への提言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-18
「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16
「F-35の主要な問題点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-17
空自OBに戦闘機を巡る対立
「織田邦男の戦闘機命論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-06
「広中雅之は対領空侵効果に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-08-18-1
「小野田治も戦闘機に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-05
ロバート・ゲーツ語録2
→海軍は空母が支配し、戦闘機と爆撃機が空軍を支配し、戦車が陸軍を、そして着上陸用車両が海兵隊を支配しているのが実態である。
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-09
ロバート・ゲーツ語録3
→皆に気づいて欲しい。空軍の歴史の大部分は空中戦と爆撃機の能力で彩られているが、ベトナム戦争以来、空軍パイロットは空中戦で撃墜されていない
→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-04-09
ロバート・ゲーツ語録10
→米軍には20世紀の世界観が根強く残っており、変化を妨げている。米軍は戦闘で40年間航空機を失っておらず、朝鮮戦争以来、敵の攻撃を受けていない。しかし、21世紀の制空権は米軍の従来の想定とは全く異なるであろう→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07
ロバート・ゲーツ語録11
→米空軍は、空対空戦闘と戦略爆撃に捕らわれすぎており、他の重要な任務や能力を無視しがちである。ある意味で空軍は、その成功の犠牲者とも言える→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07
ロバート・ゲーツ語録12
→私がCIA長官の時、イスラエルが無人機を有効使用することを知った。そこで米空軍と共同出資で無人機の導入を働きかけたが1992年に米空軍は拒否した。私は3年前、今度は無人機導入のため牙をむいて4軍と立ち向かった→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-07
ロバート・ゲーツ語録33
→全ての潜在的敵対者、つまりテログループ、ならず者国家、ライジングパワー、これら全てが共通に学び得たものは、米国と通常戦の手法で正面から対峙するのは賢明ではないとの認識である→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-11-27
ロバート・ゲーツ語録37
→彼らのサイバー戦、対衛星・対空・対艦兵器、弾道ミサイルへの投資は、米軍の主要なプロジェクション能力と同盟国の支援能力を脅かす。特に前線海外基地と空母機動部隊に対して顕著である。またそれらへの投資は、足の短い戦闘機の有効性を殺ぎ、どのような形であれ遠方攻撃能力の重要性を増す→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-11-27
ロバート・ゲーツ語録79(2011年1月の発言)
→北朝鮮は米国に対する喫緊な脅威ではない。一方で、今後5年間に関してはと言うことである。正確に言うならば、その程度の時間で、北朝鮮はICBMを開発するだろう→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-01-09-1
ロバート・ゲーツ語録100選
→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-05-19