カーター前副長官の遺産DIUxとSCOに新権限

Mattis DIUx.jpg9日、マティス国防長官が就任後初めて西海岸のDIUx事務所を訪問し、カーター前長官の肝いりで立ち上がった最新技術取り込み事務所の試みを「熱狂的に支持する」「カーター長官の先見性は素晴らしい」と語り、国防省内のSCOと共に今後も有効に活用する姿勢を明らかにしました
この長官のDIUx初訪問を契機に、Work前副長官が退任直前の7月14日に許可したDIUxとSCOの特別権限についてご紹介し、両組織が民間分野の最新技術を柔軟に迅速に効率的に国防省に取り込めるよう、人事面や予算運用面で配慮された様子をご紹介します
前回DIUxとSCOをご紹介してから時間が空きましたので改めて簡単に説明すると、DIUx(Defense Innovation Unit Experimental)は、民間ハイテク技術の宝庫であるシリコンバレー、ボストン、テキサス州オースチンに設置された事務所で、ハイテクベンチャー企業や伝統的軍需作業でない中小企業の最新技術を掘り起こして国防省との窓口となる組織です
Mattis DIUx2.jpgまたSCO(Strategic Capabilities Office)は国防長官直属の位置づけ組織で、DIUxなどが見つけてきた技術の装備化や前線部隊から迅速な装備化要求が高い事業を、官僚機構の鈍重な手続きをすっ飛ばして実現する組織であり、これもカーター前長官が設けたものです
ただ一方で、このような急進的な改革には反発もあるもので、有力国防族である議員が、「既存組織との違いがあるのか?」「本当に軍事力向上につながるのか?」と疑問を呈していますので、そんな声も紹介しておきます
10日付Defense-News記事によれば
DIUx.jpg●9日、シリコンバレーのDIUx事務所を訪問したマティス長官は記者団に対し、「私はこのDIUxを熱狂的に支持し育てていく。カーター前長官が先見性を発揮し、この地に国防省の碇を下ろしておいてくれたことをとても嬉しく思う」と語った
Work前副長官がDIUxとSCOの人事や予算面での改善措置を承認した7月14日のメモは、「2つの組織のニーズは、最新の技術に精通して企業と連携して新たな関係を構築でき、国防省が必要とする技術を導入して前線に投入できる経験豊富な人材を採用することでのみ満たすことが出来る」と措置の必要性を強調している
●新たな措置は、まず第1に2組織が民間企業との競争の中で優秀な人材を雇用するため、18ヶ月までの期間であれば柔軟かつ迅速に必要な人材を雇用できる権限を延長した
第2に長期雇用ポストについても2組織がより迅速かつ柔軟に人材を雇用できるような新たな権限を、来年度の予算関連法案に盛り込んだ。実際にDIUxと協力関係にある企業関係者は、これまでは少なくとも数ヶ月雇用に必要だったが、これで1日あれば有能な人材を採用できると評価している
第3に従来は1案件で約30万円を上限で官僚手続きを経ないで契約が出来たが、この上限を事業運用と維持整備用に5億円まで引き上げる措置である。そしてこの措置に伴う事務手続きを迅速化するため、DIUxに契約担当官を配置することも措置された
●この措置を同企業関係者は、「契約が飛躍的に迅速化するだろうし、試験の現場で必要部品を補充するのに6ヶ月も待つ必要がなくなるだろう。この措置には興奮している」と語っている
第4に、鈍重な官僚手続きを経ないで、5000万円を上限として、関連事業の広告宣伝や会議開催予算を使用することが出来ることになる。これにより、より広範に技術保有企業にアプローチでき、新たな技術シーズを発見できる
●国防省外部へ措置だけでなく、内部の人材を集める措置も加え、軍人がDIUxに勤務した場合、この勤務を「統合職勤務」として経歴上扱うことにした。統合職経験が階級昇任の要件となっている米軍において、人材を集める策である
●これらの措置は、2018年度予算関連法案で裏づけされる必要があるが、議会からも2つの組織に対する支持があるので問題ないだろうと見られている
議会が必ずしも支持一色ではないとの記事も
Thornberry4.jpgDIUxが開設されて以来、これまでに45のプロジェクトと合計約110億円の契約を結んでいる。この額が小規模なのは、他に約2200億円が民間部門からDIUx関連プロジェクトに投資されているからである
●同組織はAI、情報技術、無人システム、宇宙、生命化学の5つの分野を重点にしているが、以下の3つのプロジェクトが高額なトップ3プロジェクトで、全体予算の1/3を割り当てられている
Tanium社が約140億円でIT及びサイバー作戦管理の効率化、Composite Engineering社が約13億円で高速無人機の開発、オンラインゲーム企業のImprobable社が7億円でシミュレーション開発がこのトップ3である
既に実用化されているプロジェクトには、Pivotal Labs社が担当した約3億円のソフト開発で、米空軍ジェット機への給油効率化に応用されている
●しかし2つの組織は、共和党指導者たちから、その効果や必要性について疑問の目で見られている。下院軍事委員会の委員長であるMac Thornberry議員は、「これら組織がやっていることは、他の既存組織がやっていることと違うのか?」とその存在意義を認めていない
●DIUxの組織運営予算は、2016年度は初年度立ち上げで約20億円だったが、2017年度は約10億円に削減されている。そして2018年度は国防省が30億円を要求したが、議会はこれを半分の15億円にする案を検討している
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work AFA.jpgまだまだ紆余曲折や栄枯盛衰がありそうですが、「政争の具」にならないことを心から祈ります。
特に、巨大軍需産業による事業独占の弊害がますます叫ばれる中、多くのスタートアップ企業が国防分野でその力を発揮できるような環境育成に期待しています。
Thornberry議員の指摘も、もっともな部分があるのでしょうが、ここは新興勢力にやらせてみる気持ちの余裕が大切だと思いますよ・・
DIUx関連の記事
「ボストンにもDIUx」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-27-1
「2つ目の場所とリーダー公表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-14
「技術取込機関DIUx」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-25
SCO関連の記事
「無人機の群れ第7世代」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-26
「SCOの頑張り」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-10
「カーター長官のアピール」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-03

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