米陸軍少将「開発に興味はない。部隊配備に関心があるんだ」
8月21日付Defense-Techは、米陸軍が朝鮮戦争当時から追い求めてきた戦闘車両積極防御システム(APS)装備を、米国開発でなくイスラエル軍が既に導入しているイスラエル製を導入する方向で間もなく決定すると報じています
この戦闘車両積極防御システムAPS(Active Protection System)は、近年急速に発達している対戦車ミサイルなどから戦車などを防御するもので、装甲を厚くしたりする「受動的手段」ではなく、対戦車兵器に対し金属球を散弾銃のように発射して無効化を狙う「積極的手段」の装備です
米軍自身も1950年代から何度か開発に着手してきたようですが、戦車の有効性や投資の有効性、開発品の出来栄え、他の事業との優先順位等々の理由から装備化には至らなかったようです
今回米陸軍が迅速な導入に取り組んでいる理由を記事は説明していませんが、まんぐーすが考える理由は2つ。
まず、対ISIS戦の教訓や米陸軍が将来のポイントだとする巨大都市での戦闘を考えたとき、近年急速に発達している対戦車ミサイル等の脅威が無視できなくなっていること。
そして更に、米軍に鮮烈な印象を残ししているウクライナでの教訓から、ロシア軍が既にAPSを既に導入して有効性が明らかになったことも大きな背景だと考えます
冒頭に紹介した米陸軍少将の言葉は、限られた予算で最大の効果を得るには、設計から始まる研究開発に時間や経費をかけていられないとの「やむを得ない」背景と選択と覚悟が生んだものでしょうが、情勢の変化に応じ、何とかしようとする米陸軍戦闘車両担当者の努力をご紹介します。
Rafael社の紹介映像(約2分半)
21日付Defense-Tech記事によれば
●米陸軍で地上戦闘システム計画を担当するDavid Bassett陸軍少将は、米陸軍が来年度予算でM1A1戦車への搭載を間もなく決定する方向にあるAPSは、イスラエル軍が既にメルカバ4戦車に装備している通称「Windbreaker」と呼ばれている「Trophy Active Protection System」だと説明してくれた
●同APSはイスラエルのRafael社とElta社が開発し、2009年からメルカバ4戦車に搭載を開始している装備で、イスラエル軍がハマスとのガザ地区での戦闘で有効に機能していると評価し、同少将が「1個旅団分の価値がある能力付加だ」と期待する装備でもある
●同APSは戦車の全周をセンサーでカバーし、車両の両側に装着された回転式発射機がショットガンのように小型金属球を発射して戦車を防御するもので、戦車1台に4~5千万円で装備できる
●同少将と担当の大佐は、 新型装甲車両AMPV(Armored Multi-Purpose Vehicle)を除き、米陸軍は現有装備の近代化や改良を、コストがかかる設計開発から行うのではなく、イスラエル製APS導入のように既存装備の導入で行う方向だと語った
●同少将は「多くの施系や開発が必要でない既存装備の導入は、迅速に能力向上を進める一つの方策である」、「開発に興味はない。部隊配備に関心があるんだ」とも表現している
●同少将の担当分野に米陸軍は年間約3300億円の予算を配分しているが、「膨大な分野に配分しなければならず、いかに効果的に限られた資源を配分し、成果に結びつけるかに苦心している」と同少将が語る現状がある
●同少将はまた「陸軍の主要戦闘装備を新規に開発する予算はなく、私は予算を効果的に使用し、すべての旅団装甲戦闘チームABCTを概ね同時に能力向上させたいと考えている」とも述べている
●APS以外には、「30mm cannon」と「CROWS II(Common Remote Operations Weapon Station II)」を使用し、「FGM-148 Javelin」を米陸軍装甲車両内から発射可能にすること等を考えており、M1A1戦車以外にも、「Bradley troop carrier, the M2A4」や「Paladin howitzer, the M109A7」の能力向上に取り組んでいる
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まぁ、米陸軍としては戦車を中心に話題が進んでいることに疑問の向きもありましょうが、戦闘車両全体への取り組みと理解しておきましょう。
全般には海軍と空軍に押され気味な米陸軍の、装備近代化の最前線をご紹介しました。
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「ロシア陸軍がすごかった:防研のレポート2017」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-08
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