新しい取り組みだけでなく、旧習の中止も革新だ
既知の問題より、未知の課題のほうが深刻
大きな革新追求なら、従来と異なる人(遺伝子)導入を
23日、米空軍協会主催の航空戦シンポジウムに基調講演の講師として招かれたミシガン大学のJeff DeGraff教授は、冒頭に紹介したような表現で、堅くて硬直的で変化が難しい組織の典型と考えられる米空軍の幹部を前に、「革新: innovation」について語りました
まぁ・・・中身は読者の皆さんも一度は耳にされたことがあるような内容かもしれませんが、あえてこのテーマを選び、米空軍主要幹部のほか主要軍需産業関係者や研究者を前に、メインテーマとして語らせたところに米空軍の現在を見る思いがします
トランプ大統領の軍事予算拡大の大風呂敷はあるものの、老朽化して更新や近代化改修待ったなしの装備品が目白押しの中、新たな「革新」無くしては米空軍の優位性を維持できないとの深刻な危機感があります
昨日ご紹介した「各前線の単位部隊に上限300万円の革新推進資金」も、この「革新」推進や奨励の流れに沿ったものです
23日付米空軍協会web記事によれば
●ミシガン大学のJeff DeGraff教授は、新しい事に取り組むだけでなく、旧習の中止中断も革新だと語り、「革新のつもりで始めたことが、時間の経過とともに革新を妨げる要因となりえる」とも表現した
●なおWilson空軍長官はこの発言に絡め、JSTARSと同様のコンセプトの後継機には投資しないと決定したことを持ち出し、対露や対中を想定した残存性の高い戦場管理システム追求の方向に向かうと別の場で語っている
●DeGraff教授はまた、革新を追求するなら「 How much? How fast?」との2つの質問に対する答えを準備して取り組むべきだと語り、
●「多くの場合多くの人は、革新を求めて前に進めることを追求し、そして異端や本流から逸脱した考え方を除去してしまい、せいぜい変化の少ない革新に止まる結果を招いている」と喝破した
●そして同教授は、既知の問題より、「未知の課題のほうが深刻だ。もし迅速な革新を求めるなら、人の採用方を変えなければならない(hire differently)」と語り、
●革新には生存のための多様性が必要だと主張し、空軍兵士が彼らと同様に行動したり関与してくれる人たちに囲まれるのではなく、異なる考え方の人たちと接するよう促した
●更に同教授は、空軍兵士は階級が上がるほど、その環境に最適化するようになり、それがゆえに増々異端を排除し、迅速な革新に必要な文化や効率性を失ってしまうと語った
●そして、米空軍や空軍兵士は、将来がどうなるか予測することは不可能なのだから、「より広範な分野に、少しずつ分散して賭けておくべきではないか」と表現し、長時間を要して前線兵士に役立つかわからない大型装備の選択をやめるべきだと主張した
●まとめて同教授は、変わったやつを採用せよ、既存の能力の上に構築せよ、外の考え方からスタートせよ、異なった考え方に耳を傾けよ、そして早く(Go faster. Start hiring weirdos. Build on the capability you have. Start from the outside in,” and listen to people who think differently)と表現した
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「空軍兵士は階級が上がるほど、その環境に最適化するようになり、それがゆえに増々異端を排除し、迅速な革新に必要な文化や効率性を失ってしまう」・・・とはよく言ったもので、世界中の軍隊が共通して抱えている課題でしょう
米軍はそれでも実戦で血を流し、汗をかいて教訓を得、種々の改善を行ってきたでしょうが、「専守防衛」や「憲法9条」、更には軍事に疎く議論できない国民と世論と野党に囲まれてサバイバルしてきたわが軍の現状は推して知るべしです
せめて太平洋戦争の教訓をまとめた30年以上のベストセラー「失敗の本質」を以下の過去記事で振り返り、革新の芽を摘まないよう、革新を起こす若い世代を育てようとの気概を忘れないでいたいものです
ご参考記事
「失敗の本質」から今こそ学べ!→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-12-31
「磯田道史氏が指摘する日本軍事組織の弱点」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-10-01
「軍隊は自己変革できない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-02
防衛研究所60周年記念軍事イノベーション議論→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-10-31-1