ウクライナとイスラエルとフーチ派関連です
兵站の基礎である輸送任務の様々な事例で
派手な内容ではないが基本を振り返る機会に
9月17日、Jacqueline D. Van Ovost米輸送コマンド司令官が米空軍協会「Air, Space and Cyber Conference」で講演し、昨年10月7日のハマスによるイスラエル奇襲攻撃後の対応、フーシ派との戦いでの取り組み、そしてウクライナへの弾薬輸送の教訓等を断片的ながら語っているので取り上げます
Van Ovost大将の話は、派手な作戦事例やヒーローを紹介するような内容ではなく、事前に定めた基本手順が存在しても、有事の現場では様々な事情の影響を受けることを示す事例や、民間輸送企業との連携事例、更に危険物である「弾薬」輸送の難しさに関する事例等で、輸送現場の苦労や汗を感じさせる貴重な中身だと思います
ハマスによるイスラエル奇製直後の対応
●奇襲後に米輸送軍は、中東の米軍を守りながら、ガザ地区への支援物資の空中投下作戦を遂行し、並行してイスラエルを妨害するイエメンの反政府組織フーシ派による攻撃から地域の船舶移動を維持するため活動した。このような危機発生時に私が考えるのは3つ。事態に対する自身の立場の確認、事態に対応可能な部隊能力、そして統合指揮官ニーズに応えるための指揮統制の在り方である
●初動の重要任務は PAC-3 防空ミサイル部隊の空輸だったが、行動基準では12機のC-17 輸送機が必要になるが、展開先の状況等を踏まえ最終段階で再評価してみると重要性の高い装備は7機で輸送可能で、発電機等の装備は追送でOKと判明した。輸送要求が錯綜する初動時に、状況に応じた「再評価」を行う重要性を痛感した事例で、空軍全体で取り組む ACE構想 (agile combat employment) での機動展開輸送を考える大きな教訓となった
フーシ派からの攻撃対処で民間輸送業者と連携
●現在も続くフーシ派との戦いでは、米軍が輸送を委託している民間船舶の安全確保が急務となった。我々はまず、商業海上輸送企業との定期会合を開始し、戦術顧問団をバーレーンの中東海軍司令部に派遣した。そして海運業者全てに情報提供するための危機管理センターを設置し、スエズ運河経由か喜望峰経由かの助言、ペルシャ湾航行の安全情報提供、そして脅威の種類や特徴等々について情報共有を行った
●その後、商船まとめて船団を編成し、海軍艦艇で護衛する作戦を開始した。また標的になりにくくする防御行動として、商船に海上ジグザグ航行を助言した。これら助言は以前から決められていた行動基準に基づくものだが、これだけ大規模に行うことで貴重な経験となっている。 また商船に海軍の戦術顧問と通信装備を提供し、海軍艦艇との意思疎通を円滑するよう手配している
●今も続くフーシ派との戦いであるが、長期間脅威が持続すれば、物資輸送に多くの資源が必要になることを、我々は身に染みて学んでいるところである
ウクライナへの弾薬輸送
●ウクライナへの支援物資輸送で最も難しいものは「弾薬輸送」である。これまで約10万発の長距離砲と約25万発の対戦車砲弾、約3.8兆円相当の武器、航空機、戦車等々を輸送したが、誰も危険性から保管したくない危険物を、米本土の倉庫→港→港→列車→道路等の経路で輸送する場合、点と点を結び付ける調整がいかに困難かを、現在も組織全体で痛感し続けている
●弾薬という危険物の爆発事故を避けるため、一度に集積可能な弾薬量は制限され、その基準は通過国によって異なり、列車や船舶の遅れで計画の修正が頻発し、更に軍事的脅威レベルも場所により変化する中での諸調整は、忍耐の限界を試される試練である
●ただ同時に、毎日ロシアから攻撃を受けつつも柔軟に対応し、国内での軍事物資輸送を巧みに粘り強く行っているウクライナの取り組みは、米軍兵士に大きな刺激と教訓を与えてくれている
米輸送コマンド共通の課題
●輸送する人員装備の位置や状態、燃料や弾薬の危険度や各種制限に関する情報を、サプライチェーンに沿って指揮官にリアルタイムに提供可能なデータ処理および通信ツールへの投資強化が必要だ。
●我がコマンドは「25 in 25 initiative」構想で、2025年までに輸送部隊の 25%に通信キットを装備することを目標としているが、実現は難しいのが現状だ。しかし極めて重要な投資であり継続して要求していく
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兵站の重要性を考える意重なお話だと思います。どれも戦史の教訓として学んだことがある軍事輸送のポイントかもしれませんが、最新の実例を通じ学ぶことで、頭に刻むチャンスとなれば幸いです。
輸送コマンド関連の記事
「Van Ovost 女性司令官が語る」→https://holylandtokyo.com/2023/06/15/4727/
「輸送機による燃料輸送にも取り組むが」→https://holylandtokyo.com/2023/04/11/4490/
「米空軍若手が ACEの課題を語る」→https://holylandtokyo.com/2020/11/27/397/