米陸軍が国防省最高出力レーザー兵器を契約

300kwの「IFPC-HEL」通称Valkyrie
巡航ミサイル対処には出力不足も2025年夏納入
「Directed Energy Roadmap」には既に遅れが

IFPC-HEL2.jpg10月10日、米陸軍が米軍全体で最高出力となる300kw級のレーザー兵器(車両でけん引するタイプ)を小隊レベル装備用に4基購入する契約を締結し、2025年夏に納入する計画だと担当企業のロッキード社が発表しました。

その装備は、米陸軍が「IFPC-HEL:Indirect Fire Protection Capability-High Energy Laser」計画で開発中の通称「Valkyrie」とのレーザー兵器で、「額面上」は無人機、ロケット弾や砲弾や迫撃弾(RAM)の他、巡航ミサイルにも対処可能な装備と予算要求資料ではなっており、電力さえ確保できれば無限に発射でき、極めて精密な目標照準が可能な防御兵器と期待されています。

IFPC-HEL.jpgなおロッキード社は、今回陸軍と契約した「Valkyrie」の初期デモ機を2022年9月に米陸軍に参考提供していますが、同社ではこれを300kw級から500kw級に能力アップするプロジェクトを進めている模様です

このように12日付Military.com記事で「Valkyrie購入契約」ニュースをご紹介すると、非常に順調な印象を受けるかもしれませんが、レーザー兵器は「いつになっても完成まであと5年」と揶揄され続けている「永遠の期待のホープ」で、無人機の台頭や精密誘導兵器の拡散により、前線部隊の防空用を中心に期待が高まって久しいのですが、必ずしも順調ではありません。

Directed Energy Roadmap.jpg例えば2021年に国防省が「Directed Energy Roadmap」を作成し、以下のような目標を掲げましたが、本日ご紹介しているように、300kw級の小隊規模でのお試し配備が2025年夏ごろまで大幅に遅れているのが現状です

●2022年までに、150-300KW級の兵器化
100Kwでドローン、小型ボート、ロケット、迫撃砲に対処可能
300kwで巡航ミサイルに対処可能
●2024年までに、極超音速兵器対処を目指す500KW級実現
●2030年までに大陸間弾道弾対処を目指す1GW級実現

各軍種毎に見ても、例えば米陸軍は、
DE M-SHORAD.jpg●2023年9月、Stryker戦闘車両に搭載する50kw級の通称「Guardian」の「DE M-SHORAD:Directed Energy Maneuver-Short Range Air Defense」を4セット導入
●また、歩兵部隊の車両搭載用に20kw級「ISV:Infantry Squad Vehicle」を導入する計画が進行中

米海軍では、
HELIOS Navy.jpg●数隻のアーレイバーク級イージス艦に、60kw級の防御用レーザー兵器「HELIOS:High Energy Laser with Integrated Optical-dazzler and Surveillance system」を装備しているが、小型艇対処には有効も、弾頭を貫通出来ないため巡航ミサイル対処には出力不足

米空軍では
●2020年7月、戦闘機自己防御用レーザー兵器開発を断念
●2021年10月、AC-130用地上攻撃用レーザー兵器(50-100kw?)が試験のため空軍に提供。その後は良い知らせ無し・・・

統合レベルでは・・・
Drone Kill Drone.jpg●2023年8月、統合参謀本部の無人機対処担当少将が、中央軍、アフリカ軍、アジア太平洋軍に10kw級の機種名不明の無人機対処用レーザー兵器を「作戦適合性確認」のため支給していると発言

最後にご紹介した統合参謀本部のSean Gainey陸軍少将によれば、世界各地の部隊に提供しての確認試験状況から、前線兵士が設備不十分な最前線地域での同兵器の維持整備に苦労している点が大きなネックとして普及の妨げになっている模様で、「広く部隊に配分して有効に活用していくには、維持整備面で改善すべき点が残されている」と同少将が語る現実のようです
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Laser NG2.jpgレーザー兵器の利点は、電力が確保できる限り無限に発射可能で弾薬運搬&補給の負担なし、光速で目標に破壊作用が到達可能で多数目標への対処がより容易、光速到達可能で目標照準が容易、弾の装填時間が不要で連続発射が可能などが挙げられています。

一方で困難な点として、大電力の確保が必要(航空機や小型車両での出力確保が難しい)、精密機材であり航空機や車両の振動の中での運用が容易でない、雨や雲などの大気現象の影響を受けるなどが挙げられており、大きな期待を集めながらも「いつになっても完成まであと5年」と揶揄され続ける状態が今も続いています(まんぐーすの知る限りでは・・・)

なお、X(旧ツイッター)などSNS上に、イスラエルが開発中のレーザーC-RAM(100kw級:対rockets, artillery and mortarsと無人機)兵器「Iron Beam」がハマスのロケットを迎撃するフェイク映像等が多数アップされているようですが、同兵器は2024-25年の運用開始を目指して開発中であり、フェイク映像はビデオゲーム「Arma 3」画面を加工したものだと、チェコの同ゲーム開発企業「Bohemia Interactiv」が注意喚起しています。ご注意ください!

米陸軍の取り組み
「50KW防空レーザー装備の装甲車3台導入へ」→https://holylandtokyo.com/2022/01/21/2623/「米陸軍が50KW防空レーザー兵器契約」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-08-05
「米陸軍が本格演習試験」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-14-1

海軍や空軍の取り組み
「AC-130用レーザー兵器の企業から空軍へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-10-12
「戦闘機防御用から撤退へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-01
「空軍が無人機用の電磁波兵器を試験」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-09-27
「米艦艇に2021年に60kwから」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-24
「F-15用自己防御レーザー試験」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-05-04
「レーザーは米海軍が先行」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-24
「米空軍大将も慎重」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-24

夢見ていた頃
「AC-130に20年までにレーザー兵器を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-06
「2021年には戦闘機に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-21
「米企業、30kwなら準備万端」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-17-1
「米陸軍が本格演習試験」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-14-1

懸念の声が何時も付きまとい
「米議会がレーザー兵器開発懸念で調査へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-08
「エネルギー兵器での国際協力」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-06-27
「レーザーにはまだ長い道が」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-18
「国防次官がレーザー兵器に冷水」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-12

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