386飛行隊は目指さず、質を追求
中国のようにリスクをとっても迅速な開発を
B-21導入機数は必ずしも増やす必要なし
インフレや燃料費高騰は2500億円不足を予想
4月2日と3日、Kendall空軍長官とBrown空軍参謀総長が講演(2日@ Brookings)や上院軍事委員会(3日)で証言し、冒頭でご紹介したような2023年度予算案の背景にある今後の米空軍戦力構築のビジョンのようなものを語っています。
もちろん語られた内容はあくまでも空軍幹部の考え方であり、「ウクライナ侵略」によってもたらされたインフレや燃料価格高騰の影響への対処もあり、予算案議会審議の中で国防省や米議会との調整から修正を迫られる可能性があるような気がしますが、「リスクをとっても迅速な開発目指す。中国のように」のように興味深い内容が含まれていますのでご紹介しておきます
現312から386飛行隊への増強は目指さない
●2018年当時のWilson空軍長官とGoldfein参謀総長が表明していた386飛行隊への空軍戦力増強構想は、我々の焦点ではない。私が望むのは、敵を抑止可能な戦力であり、侵略事態発生時に敵を撃破できる戦力である。ウクライナで見られるような、大規模戦力で長引く戦いを遂行するイメージはない
●より戦力の質にこだわっていきたい。より能力が高く、強靭で、厳しい敵の脅威下でも生き延びて戦いに参加し、そして帰還する戦力が必要であり、私の優先リストにはそのような戦力がある。
●マティス国防長官は優れた人物であったが、現有戦力の能力向上で対処しようとする考え方には賛同できない。将来の戦いの環境に適した戦力導入を優先し、機体の平均年齢が30歳を超える米空軍では、高齢機の早期退役と投資の再配分が重要である
●2023年度予算案では将来のための研究開発費を確保し、B-21爆撃機、次期制空機NGAD、次期空対空ミサイルJATMなどに資源投入し、高齢装備の早期退役を計画している。そして2024年度予算案では、早期退役の方針はさらに大胆に加速する方向にあることを予期していただきたい
E-7はE-3と同規模に必要ではない
●老朽機の早期退役と将来装備導入の例として、E-3早期退役とE-7導入があるが、E-7はE-3に比して優れた能力を提供してくれる。この質の向上は量では補えない。E-7に関しては、規模はそれほど重要ではない。迅速に優れた質を前線に届けることが重要。
●更に、E-7導入により維持整備費がE-3より劇的に抑えられる。
B-21は100機以上を必ずしも追求しない
●ロシアや中国からの脅威が顕在化しているが、これにより自動的にB-21次期ステルス爆撃機の要求機数が100機を超えることはない。
●現在米空軍では、B-21を何機導入すべきか分析を行っているが、(100機以上)より多くB-21を導入するオプションの他に、B-21に随伴するエスコート無人機の活用も併せて検討しており、単純にB-21機数増を考えているわけではない
●B-21開発は順調で、維持整備や乗員の訓練必要時間を短縮可能な機体に仕上がりつつあり、高い稼働率が期待できる点からも必要機数を検討している。またB-21を無人随伴機と共に「family of systems」と捉え、作戦運用構想を検討している
必要装備の迅速導入に「デモ試験」省略を
●必要な装備を迅速に前線部隊に届けるため、関連技術が十分に成熟しているなら、デモ装備による確認フェーズを省略し、リスクを冒しても直接設計製造フェーズに進む方式を追求したい
●理想としては、予算獲得から3年で作戦運用に投入できるようでありたいと考えている。このような攻めの開発は失敗のリスクを伴うが、中国が失敗を重ねつつもアグレッシブに開発する現状に対応するには、リスクをとる姿勢が必要だ
●旧ソ連は米国が装備化するまでは導入しようとしなかったが、中国は異なる。中国の新装備開発管理は米国ほど上手ではないが、中国は米国よりも早く取り掛かり、アグレッシブに失敗を恐れず大規模に開発を進め、旧ソ連時代とは異なる困難な課題を米国に突き付けている
インフレによる燃料価格上昇の影響
●ウクライナ侵略等の影響を受けた物価上昇の影響が懸念されるが、「最も大きく、喫緊の課題は」航空機の維持整備運用経費を直撃する航空燃料価格の高騰である。
●現在の見積もりでは、燃料価格上昇により、必要な作戦任務を遂行するために必要な燃料費が、今年1年間で約2500億円不足する。インフレの行方は予想が難しいこともあり、米議会とは緊密に協議させていただきたい
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米国防省としての優先開発事項なのに、米空軍の熱意が今一つの極超音速兵器開発に関しては、「AGM-183(ARRW)は今度数か月で2回ほど試験を予定しているが、成功しなければ前へ進めない」と淡々と語るのみで、引き続き国防省との温度差はそのままです。
上院軍事委員会では、初期型33機の早期退役を提案しているF-22について「導入時は2060年まで使用する」と説明したではないか、維持整備費が高どまりのF-35については「開発と製造を同時進行したからだ。導入試験を疎かにするな」等々と厳しい批判を浴びていますが、Kendall空軍長官ら空軍幹部は「前進あるのみ」の姿勢です
米空軍を巡る将来構想の激動振り
「次期制空機NGADは1機が数百億円」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-034-28
「B-21とNGAD用の無人随伴機開発」→https://holylandtokyo.com/2022/03/24/2938/
「アムラーム後継JATM開発」→https://holylandtokyo.com/2022/04/04/3088/
「E-7導入正式発表」→https://holylandtokyo.com/2022/04/28/3186/
「空中給油機整備方針を大転換」→https://holylandtokyo.com/2022/04/18/3151/
「ウクライナ侵略も米空軍幹部は対中国優先」→https://holylandtokyo.com/2022/03/17/2929/
「2023年度国防省予算案」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-03-29-1
「E-3・AWACSが2023年から退役へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-03-30
「極超音速兵器の重要性は中国とは異なる」→https://holylandtokyo.com/2022/01/25/2639/
「高価な極超音速兵器は少数保有で」→https://holylandtokyo.com/2022/02/22/2742/