対中東から対中国に変化した空母の状況を概観する
“air wing of the future.”空母の先駆者としての視点でも
11月末から5件連続事故の背景は?
2月14日付Defense-Newsが、2月14日に8か月の航海を終えサンディエゴに帰港した空母カールビンソンの活動を振り返り、対中国に特化した米空母の活動の特徴と、同時に初のF-35C搭載など“air wing of the future.”先駆者として位置付けられた同空母の様子を紹介しています。
同空母は、昨年11月末から5件連続で艦載機関連の事故を起こした「心配な空母」としても軍事メディアが取り上げていましたが、その活動や艦載機の新たな取り組みに「様々なストレス」の原因があったようなことを示唆する記事となっていますので、3つの視点「艦載機数の増加」「対中国任務の特異性」「コロナ対策」からご紹介いたします
なお同空母は、出撃準備訓練を終了する直前の2021年6月に突然、ハワイ近海に出現したロシア艦隊対処のため同海域に急遽出動を命ぜられ、その対処後に改めて出撃準備訓練と練度チェックを受け8月に中東に向かいました。しかし途中で急遽米軍アフガン撤退があり、引き返す形で初の対中国任務専従として南シナ海やフィリピン海で6か月半継続活動することになった空母で、ハワイ出撃からカウントすると8か月240日余りの活動を行った空母です
記事は「昨年11月末から5件連続の艦載機事故」には一切触れず、3つの視点「艦載機数の増加」「対中国任務の特異性」「コロナ対策」から“air wing of the future.”たる同空母の任務航海を振り返るもので、「連続事故」と「様々なストレス」と「同空母のおかれた環境」を無理やり結び付けているのは、まんぐーすの完全な邪推ですのでご注意ください
1つ目の視点「艦載機数の増加」
●同空母にはF-35Cが初艦載されたが、1個飛行隊当たりの機数は14機と、従来の10機から増えており、将来これを20機する検討も海軍内で行われている。そのほかEA-18G電子戦機も2機増、E-2Dも1機増で、かつオスプレイCMB-22部隊も搭載されていた。将来的には艦載ヘリ機数削減を海軍は検討しているが、同空母艦長は必ずしも賛成ではないようだ
●F-35CはFA-18よりも小型だが、地上支援機材が大きく数量も必要で、甲板上の機体の取り回しは複雑になった。空母戦闘軍司令官や空母艦長は、「甲板での機体接触0件の滅多にない優秀な航海だった」と振り返ったが、攻撃能力強化を目指す中、艦載機増加方向で甲板上の運用は難しくなる
2つ目の視点「対中国任務の特殊性」
●中東での戦いを空母が支援してきた過去20年間は、地上の陸軍や海兵隊部隊を艦載機からの地上攻撃で支援する任務が大半だったが、対中国任務は「プレゼンス」を示す行動と有事に備えた訓練が中心になる。空中や海上や水中に脅威の無い環境での対地攻撃任務が、脅威度の高いエリアでの緊張するプレゼンス飛行に変化したことは、乗員の心理的には大きな変化でありストレス源であろう
●同空母は南シナ海やフィリピン海で多くの時間を過ごしたが、特に南シナ海に入ると中国艦艇がすぐにエスコート監視に密着し、空母群艦艇は24時間の監視体制を強いられる。また25ノット以上の高速で航行を原則とし、中国艦艇に行動を読まれないよう不意の方向転換なども頻繁に行う点も、中東での行動と全く異なる
3つ目の視点「コロナ対処」
●同空母は約8か月間の任務行動の間に、コロナ感染を防ぐため、港に立ち寄っての乗員の休息と物資補給はわずか2回(グアムと横須賀各1回)しか行わなかった。
●それでも2回の寄港後は、コロナ患者が艦内で急増し、2-3週間後には沈静化するとのパターンを繰り返したが、任務に支障をきたすほど感染者は増加しなかった
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中東での任務は脅威度も低く難しくない地上攻撃任務が中心で、かつ空母の戻れば比較的ゆったりとした航海がほとんどだったが、対中国派遣は常に緊張感を強いられ、これと言った具体的な任務があるわけではない「宙ぶらりんな毎日」で、かつ艦載機数が増えた甲板はストレスフルで・・・と言ったところでしょうか
中東での対テロ作戦から、大国間の大規模紛争を予期した態勢への変換は、現場のストレスを増幅させ事故等の原因を生む出す点で、要注意な環境とも言えるでしょう
せめてコロナが収まって、東南アジアの寄港地での楽しみが戻らなければ、米海軍艦艇勤務希望者はますます少なくなるかもしれません
昨年11月末から5件連続で艦載機事故の同空母関連
1月24日には南シナ海でF-35C海没事故も
「日本の海保がF-35C海没場所公示」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-02-01
「南シナ海の米空母でF-35着陸失敗等事故5件相次ぐ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-01-26