戦術車両はまずハイブリッド車へ
基地内使用の非戦闘車両は直接電気自動車へ
ただ、カギとなるバッテリー生産の2/3が中国とのジレンマ
11月8日、Hicks国防副長官が講演で、バイデン政権の温室効果ガス削減方針に沿って、政府機関で最大の化石燃料使用組織である国防省は、ハイブリット車や電気自動車の導入を積極的に進めると語り、17万両の基地内利用非戦闘車両は電気自動車に、戦術車両はまずハイブリッド車化を目指すと語りました
米政府機関の中で最大の車両保有組織は米国郵政サービスだそうですが、化石燃料使用量はダントツで国防省がトップで、原因は燃費の良くないHumveeのような戦術車両を陸軍だけで24万両以上も保有しているからです。
オバマ政権時にも化石燃料消費削減への取り組みがあり、特に当時のMabus海軍長官は熱心で、2009年に発表したプランでは、2020年までに海軍と海兵隊の化石燃料消費量を5割削減するとの高い目標を掲げ、トウモロコシや動物の脂肪や排泄物から代替燃料を得る計画をぶち上げました
しかし、その後の原油価格の下落や代替燃料確保の困難から計画は行き詰まり、オバマ政権の終わりと共に計画は消えてしまいました。
Hicks副長官のハイブリッド車や電気自動車導入促進は、オバマ政権当時の動きと重なるイメージがありますが、当時と同様にその実現は容易ではありません。
9日付Military.comは記事はHicks副長官構想の課題として、ハイブリッド車や電気自動車導入のカギを握るリチウムイオン電池の2/3を中国が供給している点や、戦場での電力供給手法の確立を上げていますが、どちらも重い課題で、米国産業界など民間の知恵も動員して取り組みたいと副長官は語っていますが「道遠し」の印象です
9日付Military.com記事によれば
●Hicks副長官は電気自動車導入メリットを、「電気自動車は静かで、熱発生量が少なく赤外線で捉えにくい一方で、信じられないレベルのトルクを確保できる。また車両の構成部品が少なく済むことから、車両維持整備のための兵站負担を軽減することが可能になる」と強調した
●同時に副長官は、このように電気自動車導入は軍事力拡大に寄与するが、民間企業の力を借りないと乗り越えられないハードルにも直面していると認めつつ、最先端の国防技術開発と自動車業界の技術革新が国防省プラン実現の鍵だと訴えた
●例えば米陸軍は、将来戦場での電力供給網を確保するため「new micro-grid technology」開発に取り組んでおり、米国自動車業界でもGMは2035年までにガソリン車を廃止するなど、ハイブリッド車や電気自動車への動きが業界全体で加速しており、そのような動きに期待している
●ただし、ここで重要なリチウムイオン電池は2つの問題を抱えている。一つは中国が世界の生産量の2/3を占めており、米国の計画はこのままだと中国に依存しなければならない点と、同電池が廃棄時に毒物になり環境に悪影響を与える可能性がある点である
●米国は同電池の生産量を固めるための施策を打ち始めているが、中国が10年に渡る莫大な投資で獲得した地位を超えることは容易ではない
●副長官は「市場にシグナルを送り、必要なプロセスが進むようにすることが必要だ」、「国防省としても国家安全保障の点からその重要性を訴え、米国で産業界を含めた動きが加速するように取り組んでいく」と語った
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このような改革構想発表の際は、「・・・initiative」とか「・・・vision」との名称やキャッチフレーズが飛び出したりするのですが、少なくとも記事にはそのような言葉は出てきません
ところで、トヨタ自動車の豊田社長が訴えていた、電気自動車導入には電力を確保する必要があり、単純に温室効果ガス削減にはつながらない・・・との正論に、米国防省はどのように答えてくれるのでしょうか?
「熱発生量が少なく赤外線で捉えにくく、車両の構成部品が少なく済むことから、車両維持整備のための兵站負担を軽減することが可能」・・・とのメリットで突っ走るのでしょうか?
オースチン国防長官が気候変動への対処構想CAP(Climate Adaptation Plan)を発表
→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-10-08