米&イのイラン核施設攻撃に中国はなぜ抑制的だったか

そういえば、新イラン勢力もロシアも口先介入のみ
防衛研究所の中国研究者の論考をご紹介
要旨を短節にまとめた「NIDSコメンタリー」のあるべき形!

7月15日付(7月8日脱稿)で防衛省防衛研究所が、中国研究室の山口信治・主任研究官による論考「中国はなぜイラン・イスラエル戦争について抑制的だったのか」を「NIDSコメンタリー」枠組みで発表し、イスラエルと米国がイラン防空施設や核施設等に対するかなり大規模な攻撃を行い、イラン政治指導者が「斬首作戦」におびえるに至ったにもかかわらず、

また、研究者の中には最近中露とイランの関係強化が図られ、「緊密な枢軸」と表現する議論もあったのに、世界の新イラン勢力やロシアと並び、中国も、外交的にはイスラエルや米国を明確に非難したものの、イランを助けるような外交の仲介や、米国やイスラエルに対する警告を行わず、ほぼ傍観者に徹していた件に関し、「米国への刺激を避けた」&「中イラン関係が実際はそれほど親密でなかった」との2側面と、将来的可能性から短節な解説を試みています

最近の防研「NIDSコメンタリー」の中には、閉鎖的&偏狭な学会向けのような、理屈をこねまわした難解で何が言いたいのか一般読者には「理解不能」な論考が散見されるのですが、2022年に第34回アジア太平洋賞大賞を受賞された山口主任研究官は、要旨を短節にまとめ、四の五の言わずに、事案から速攻で論点を提示されており、「NIDSコメンタリー」のあるべき形を主張する意気込みも感じられますので、ご紹介します。

事実関係「中国の対応」
(イスラエルによる攻撃開始6月13日、米軍攻撃が6月22日)
●習近平は6月19日にプーチン大統領と電話会談し、事態の更なるエスカレーションを避け、停戦を急ぐことの重要性を強調
●王毅外相は6月14日にイランとイスラエル外相と電話会談を行い、イスラエルを非難し、事態抑制の必要を強調。6月18日にはオマーンとエジプト外相と電話会談し、イスラエルの行動について国際法違反と非難。6月24日にも再びイランのアラグチ外相と電話会談
●ただ、目立った外交展開ではなく、米イスラエルに明確な警告を発せず

中国が抑制的になった要因
●米国への刺激を避けるという配慮
→中国にとりトランプ政権誕生は不安定要素で、現在米中関係は新たな関係の(模索&)構築段階。(現段階では、最近の)関税合意とその後の中国の対米レアアース輸出規制緩和など、米政権との関係構築に見込みがありそうな感触を中国側は得ている。この状況下、中国にとり死活的利益が絡まないイランを巡り対米関係を悪化させる選択肢はない。
→米国が中国から目をそらすことは、中国にとって望ましい展開。米中対立が国際関係の中心的課題となってきた流れの中で、2022年からのウクライナ問題は米国が対中戦略に集中するのを妨げ、2023年以来の中東紛争と米国関与は、中国にとって米国の関心を分散させる意味を持つ。中国としては目立つことをしたくない・・との思惑が働くだろう

●中国とイラン関係はそれほど緊密ではなかった
→研究者間には「中露イ連携」と評する意見もあるが、実際には中イ関係は親密とは言えない。中国の中東戦略は、イランと対峙するサウジなど湾岸諸国との関係も重視し、イランを絡めた外交バランスの難しさは継続中。イランにだけ肩入れすることは困難。
→中イ関係は「隔たりある戦略的パートナー」とも言われる、相互に不信感が漂う微妙な関係。中イ間には2021年締結の「25年包括協定」が存在も、協定履行は順調ではない状態。
→イラン側には、過度な対中依存への警戒が強く、イラン国民の中に上記協定履行状況から中国への強い反発もある。逆に中国側には、イランは結局のところ米国との取引材料として中国を利用しているだけで、イランは西側寄りであり、米国に抵抗する先駆者ではなく、中国を十分に尊敬せず、中国からの兵器購入にも積極的でないとの見方が強い

中国・イラン関係の深化はありえるか
「中東秩序は新たな段階に入りつつあるが、中国はどう中東戦略を調整するのか?」
→①中国にとって、米国やイスラエルが中東で急激に優位になり、中国の影響力が低下するような、又は米国が対中国により集中可能なような、「中東でのパワーバランスの変化」は望ましいものではない
→②今回イスラエルが示唆した形になった、イラン指導者層「斬首作戦」による体制転換可能性は、中国が1990年代から2000年代にかけ強く警戒した、米国による敵対国への軍事介入と体制転換強要を彷彿とさせるもの。
→上記①②を防ぐため、大きな動きには出にくいが、中国が米国の関心を引き付けないレベルにおいて、静かにイラン関与を深める戦略的インセンティブは存在する。

上記「戦略的インセンティブ」推進の想定される方策
●2021年に締結済の「25年包括協定」をより着実に実施すること。既締結済み協定で、目立たず遂行可能で、ハードルが低い手法
●軍事分野では、主に今回のイスラエル攻撃により大きな損害を受けた、イラン防空体制の再構築支援。ロシアがウクライナ侵略で手が出せない現状で、防空ミサイルシステム等を提供可能なのは実質中国のみ
●情報システム再構築の支援。細部は不明も、イスラエルはサイバー攻撃面でもイラン側に大きな損害を与えたと推定され、この再建にも中国依存が避けられない
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山口信治・主任研究官は本論考の最後を、「今後の中国の中東戦略の見直しを迫る戦争となったとも言えるだろう」との一文で結ばれています。

誠に僭越ながら、まんぐーすから1点、上記の結びの一文の後に、以下の一節を付け加えて頂き、更に一層、中国研究者としての矜持を示していただければ・・・と思う次第です。

→最近の中国からは、引き続き崩壊の一途をたどる中国経済情勢を背景としつつ、習近平体制の崩壊兆候が、「習近平派の共産党要職や軍幹部からの排除」、「胡錦涛など元老の復活と勢力回復」、「習近平により失脚させられた反習近平派の習近平後継を狙う有力者復活」、「習近平の健康不安」などの側面から、真偽のほどは不明確ながら、大量に漏れ聞こえており、これら中国権力体制の大きな変動を予感させる動きと併せ、注視する必要があろう。

防衛研究所の山口信治・主任研究官紹介webページ
(第34回アジア太平洋賞大賞(2022年)を受賞されています)
https://www.nids.mod.go.jp/researchfellow/anzen/033-yamaguchi.html

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