RAND報告:「ウ」での宇宙システム教訓

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宇宙経由の通信航法監視の使用&妨害が「前例無きレベルで」

課題も多いが民間企業との提携連携で代替確保が不可欠

RAND研究所が、ウクライナ戦争での宇宙システム関連教訓を取りまとめた政府委託研究レポート「Lessons from the War in Ukraine for Space」を5月21日に発表し、軍事宇宙アセットが標的となる将来の戦争で勝利するには、民間企業との提携関係を模索し、敵の攻撃に耐えられる代替ツールを確保すべきと主張し、同時に民間企業アセット利用時に発生しうる諸問題についても取り上げています

このテーマに関しては、本ブログでも度々その都度取り上げてきましたが、60ページの報告書全文(図表がほぼ皆無)を読んだわけではないものの、末尾で紹介するRANDレポートwebページや本文の「Summary」から、本件に関し「まとめ」的な内容を網羅しているレポートと感じたので、5月26日付米空軍協会web記事を活用してご紹介いたします

同レポートは、宇宙アセットがウ露紛争で、通信、航行、監視分野で作戦利用と妨害両面で「前例のない役割」を果たし、ウクライナがロシアの妨害にもかかわらず、重要な衛星通信、情報収集、監視、偵察を維持できているのは、商用宇宙アセット活用により作戦選択肢の多様化を図ったからだと指摘し、以下に紹介するような事例を挙げつつ、米国政策担当者に、同盟国等支援のため商用宇宙アセット活用を推奨し、課題を提示しています

ウクライナの事例
●開戦直後数時間内の露サイバー攻撃により、ウクライナ軍が作戦運用に使用していた商用ネットサービス「Viasat」がほぼ使用不能となり、代替としてウクライナ兵士はソ連時代の通信機器が接続された地上回線の使用を迫られたが、ウクライナのSNS上での要請を受けたSpaceXが極めて迅速にStarlink衛星ネット回線を利用可能としたことで、「Viasat」喪失の巨大な空白が埋められた

●Starlinkは、ウクライナ政府と軍や民間組織との基礎的な通信や、ウクライナ軍の各種攻撃兵器用の目標情報把握や部隊連携を可能にし、更に民間人がロシア軍の目撃情報を迅速に報告可能にするなど、「Starlinkがなければウは敗北していた」とウ軍司令官が語るほど、国家全体の侵略対処活動の命脈として機能した。また、ロシアによるStarlinkへの妨害に対しても、「米国防省や米軍など足下に及ばない迅速さ」で対応した

●ISR分野でも、商用衛星画像を提供するMaxar、Planet Labs、Capella、BlackSky、HawkEye 360といった企業の画像情報の迅速な共有が、露軍の位置特定に大きく貢献した。
●また、フィンランド企業「ICEYE」の衛星搭載合成開口レーダーは、「いつでも、どんな天候でも」露軍の位置特定に大きく貢献し、「ICEYEデータ使用開始後の数ヶ月で、ウ国防省は7,000以上の露軍拠点や部隊配置場所」を特定して、「ウ軍による攻撃で、戦闘機や最新鋭ミサイル発射装置を含む数百ものロシア資産」を破壊した

商用宇宙アセット利用の課題
●開戦当初から、SpaceX社はロシアからの妨害に対する迅速な対応を含め、ウクライナに非公式な「X」を介しての約束を基礎に、無償でStarlinkサービスを約6か月間(100億円相当)提供していたが、ウクライナの同リンク使用方針とSpaceX社の考えにずれが生じた段階で、SpaceX社が「サービス停止」を表明するまでに至った。対応のため米国防省が正式に経費負担する契約をSpaceX社と結んでサービスは継続されたが、民間企業リスクが表面化する形となった
●例えば、台湾はStarlinkサービスの利用に消極的だが、SpaceX社を経営するマスク氏がEV自動車製造テスラ社のトップでもあり、同社EVの半数が中国で製造されていることがその背景にある

●民間宇宙アセット利用契約において、敵による妨害や攻撃等により被害を受ける恐れがある場合のサービス継続判断や、被害が出た場合の補償問題をどのように規定して契約に表現するかも大きな問題である。
●民間の輸送機を有事軍用輸送に動員する契約が参考になるが、民間輸送機利用の場合は「攻撃を受けるリスクが存在する危険な空域は飛行しない」との前提を置くことが可能だが、宇宙アセットの場合、特に衛星は敵上空の地球周回軌道を利用することから、危険を回避することが困難である

宇宙アセット利用の難しさ
●ウクライナ戦争は、PNT(測位Position、航法Navigasiton、タイミングTimming)での優位性確保&継続が如何に困難かを思い知らせた。代替PNT技術の開発を急ぐ必要がある。
●米国や西側同盟国が開発した最先端のGPS誘導爆弾、ミサイル、砲弾(HIMARSなど)でさえ、露軍の妨害や欺瞞作戦によって命中率が急激に低下し、部隊間通信やドローン操作もロシアの電子戦により被害を受けており、スマホをドローンに粘着テープで張り付けて「即席の自律航法装置」として活用するなど、敵味方が日々「いたちごっこ」を繰り返している
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末尾の過去記事(2025年4月24日公開記事)でもご紹介していますが、米宇宙軍は「民間宇宙企業の有事活用制度」確立に大急ぎで取り組んでおり、プロトタイプ事業として既に民間企業と「試行契約」を結んで、経験と実績積み上げに挑んでいます

輸送機と異なり、衛星は「無人」であることから、契約はドライに折り合いの付く「札束」で決着するのかも・・と邪推いたしておりますが、色々な課題が今後浮かび上がってくる可能性もありましょう。

RANDの当該レポート紹介webページ
→ https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA2950-1.html

ウ露開戦時のサイバー&電子戦
「露VSウのサイバー戦とFedorov副首相」→https://holylandtokyo.com/2022/03/23/2942/

ウクライナと宇宙アセット関連記事
「GPS妨害対処が急務」→https://holylandtokyo.com/2025/04/04/11011/
「民間宇宙企業の有事活用制度」→https://holylandtokyo.com/2025/04/24/11205/
「民間企業と宇宙戦争の課題」→https://holylandtokyo.com/2024/07/17/6073/
「露に迅速対処したSpaceXに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/

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