米海軍の核兵器とその将来を確認

核抑止の柱「Trident II D5」は2040年代まで使用予定
紆余曲折の核搭載巡航ミサイルSLCM-Nは2035年導入へ
そして米陸軍に続き極超音速兵器を艦艇や潜水艦に

5月13日付Defense-Newsが、米海軍の核関連兵器開発を担当するJohnny Wolfe戦略兵器開発部長(海軍中将)による下院軍事委員会での証言を取り上げ、米海軍がSLBMに続き、中露の核脅威に対抗するため開発中の潜水艦発射型「核搭載」巡航ミサイル「SLCM-N」や、米陸軍と協力して開発が進む極超音速兵器について言及し、

同時に、米国安全保障の基礎をとなる「核抑止」を支える核兵器関連技術者の課題に言及し、ただでさえ少数精鋭な体制での任務遂行を強いられている人的資源の維持養成に計画的に取り組むためにも、核兵器への計画的かつ継続的な投資が不可欠だと米議会の理解を求めました。

以下では、Wolfe戦略兵器開発部長の下院証言を紹介するシンプルな記事を、まんぐーすの視点で補足しつつ、ご紹介したいと思います

●米海軍の核兵器全般について
・海軍の戦略的抑止力は重大な岐路に立たされている。進化する脅威に直面しても優位性を維持するためには、核インフラと産業基盤の近代化を最優先に進めなければならない。
・弾道ミサイル潜水艦部隊が相当量の米国の核弾頭を配備している

まんぐーす補足:ロシアのみならず、以前は核弾頭数が米露より一桁少なかった中国が、核戦力増強を急ピッチで進めており、国防省が毎年発表する「中国の軍事力」報告書でも最近注目のトピックとなっている。また、ロシアの条約無視により米国がINF全廃条約態勢から撤退した後、短距離及び中距離核戦力における米国の「戦力空白」が課題となっている

●SLBM「Trident II D5」
・この海洋配備型の戦略核兵器は、米国の核三本柱の最も残存性の高い柱である。

まんぐーす補足:SLBM「Trident II D5」は、1979年から2010年頃まで運用された「Trident I C4」の後継として1990年から配備が開始され、英海軍の戦略原潜ヴァルガード級潜水艦にも搭載されている。2007年にロッキード社と同ミサイルを「2040年代まで使用可能」とする延命改修契約が締結され、COTS部品(商用オフザシェルフ)活用により最小コストで枯渇及び老朽部品交換を可能とする形態へのD5LE(延命)措置が現在進行中である

 

●紆余曲折の核搭載巡航ミサイルSLCM-N
・SLCM-Nは2035年に納入可能となる予定だ。これは、核抑止の新たな選択肢をもたらすものとなる。現在我々が保有していない地域的な兵器と抑止力を確実にもたらす」

まんぐーす補足:SLCM-Nは、米露がINF全廃条約体制下では保有が禁じられていた射程500kmから5500kmの地上発射弾道ミサイルに分類されるが、ロシアの同条約破りが常態化する中、2018年に第1次トランプ政権下で米国が同条約からの撤退を表明し、米露のみが保有し、米軍が保有していないアンバランス解消のため、米軍全体で再配備が進められている中の米海軍版兵器

まんぐーす補足:トランプ政権が2018年に「核態勢見直し」のなかで新型のSLCM-N の開発を打ち出したが、続くバイデン政権は共和党内の左派議員の強硬意見に配慮し、2022年の「核態勢見直し」で再度開発を正式にキャンセルしていた。そして第2次トランプ政権発足とともに、再びSLCM-N開発にGOサインが出たところ

●米海軍の極超音速兵器開発
・「Trident II D5」D5LE(延命)計画の成功を踏まえ、米陸軍の長距離極超音速兵器に加え、海軍初の極超音速兵器システムであるConditional Prompt Strike(条件付き即発打撃兵器)の迅速開発と生産も私(Wolfe中将)と部隊に課せられている

まんぐーす補足:2021年時点で米海軍幹部は、同兵器の米海軍艦艇への搭載試験は2025年頃からで、艦艇発射管改修が終了する2025年末から、ロッキード社開発の同兵器管制装置と艦艇の融合試験を開始する予定だと説明し、計画攻撃型原潜への搭載は2028年以降と言及していましたが、以降、まんぐーすは全く関連情報に接しておらず、遅れているのかなぁ・・・と邪推しているところです。
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米空軍のICBMミニットマンⅢ後継計画の泥沼化を横目で見つつ、米海軍のSLBM「Trident II D5」のD5LE(延命型)改修は、検討当時は巨額費用を巡り英国も巻き込んで問題となりましたが、現在は「のど元過ぎれば・・・」状態で、「Trident II D5」D5LE(延命型)の後継を考える必要も当面ないことから、誰も顧みない兵器となっています。

このため残念ながら、米空軍ICBM部隊と同様に、誰からも相手にされない、放置された部隊である戦略原潜乗組員や海軍関連技術者の士気低下は著しく、士官も含めた検閲時の試験不正行為や転属希望の激増など、様々なひずみが部隊で表面化しており、「核兵器」という極めて特殊な兵器の人的側面での難しさも身に染みて痛感しているはずの米海軍です

米海軍の記事関連の動き
「Zumwalt級への極超音速兵器契約」→https://holylandtokyo.com/2023/02/22/4313/
「バカ高い極超音速兵器」→https://holylandtokyo.com/2023/02/08/4261/
「当初はSSBNに25年、SSNに28年計画も」→https://holylandtokyo.com/2021/11/26/2450/
「次期SSBNコロンビア級契約」→https://holylandtokyo.com/2020/11/12/385/
「INF全廃条約体制の崩壊」→https://holylandtokyo.com/2018/10/21/6894/

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