来日の米海軍長官が米造船業への投資や軍事転用可な商船建造要請

中国との造船能力の大差に危機感
前長官から引き続きの要請。韓国にも同様の要求
一方で米国内造船業界は海外への依存に反発

4月28日、来日中のJohn C. Phelan米海軍長官が中谷防衛大臣を表敬訪問し、前任の Carlos Del Toro長官と同様に、中国との造船能力の差が米国の安全保障上の大きなネックとなっているとの危機感を踏まえ、日本関連企業に米造船業への投資等を通じての再建協力を要請するとともに、日米(韓も交えて)で商業船舶を軍事転用可能な仕様で建造するなど、様々なアプローチについて協議を進めたいと述べた模様です。

お断りしておきますが、上記の内容がPhelan米海軍長官から中谷防衛相へ表敬訪問時に具体的に提議された「程度」は不明で、防衛省は「Phelan氏は米国での造船業の衰退に対する危機感を伝え、両氏は既存の取り組みを含む防衛産業での協力を今後も進めていくことを確認した」とのみ訪問後に言及し、

関連報道でも「2024年4月に新設の防衛装備品の共同開発や共同生産等に関する協議体「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議」(DICAS)で、米艦艇の日本国内補修等に関し調整中で、今後、造船協力も検討される可能性がある」と触れている程度ですが、中谷大臣訪問前に海軍長官は日本経済新聞との単独インタビューで、冒頭紹介のような概要を語っており、少なくとも「間接的に」日本側へ明確な希望が伝えられています。

なお本件はトランプ政権誕生後に始まったことではなく、バイデン政権時の 2024年2月末に来日した前任の Carlos Del Toro前長官も同じ方向性で要請しており、防衛省や自衛隊の関係者と会談するだけでなく、米国大使館に民間の造船メーカー要人(MHI とJMU役員及び佐世保重工業社長)を呼んで米国内造船所への投資を要請したと報じられています

ちなみに Del Toro前長官は訪日前に韓国も訪れ、国防関係者だけでなく財界有力者や造船企業幹部と会談したほか、実際に造船所を訪問して「韓国企業は業界のグローバル・スタンダードを確立している」、「最先端の造船技術が米国の地で開花することを考えると楽しみだ」まで持ち上げてコメントしていたところです。

関連の報道情報
●中国造船所の 2023年の年間建造世界シェアは50%。受注量シェア率は67%。特にバラ積み運搬船は世界全体の8割を占め、原油タンカーも7割、コンテナ船も5割といずれも高いシェア
●昨年2月末の日韓訪問時 Del Toro 前長官は「現在稼働中の造船所に加え、米国内には数多くの造船所跡地があり、ほとんど手つかずの状態で眠っている。これらは、イージス駆逐艦のような艦艇だけでなく、化石燃料から水素のようなグリーン・エネルギーへの転換を容易にするアンモニア輸送船のような高付加価値船の建造施設として再整備することができる」と述べ、日韓からの投資を期待する発言をしています。

米海軍艦艇の建造&修理施設の惨状(過去記事より
●艦艇建造&修理施設での勤務者の高齢化が急速に進み、熟練層の退職が進む中、米海軍からの業務発注量に上下動が大きく、また若者層をこれら業務に引き付けることが難しく、米海軍を支える基盤が危機に瀕している
●ある代表的修理施設は、労働者の平均年齢が55歳で、熟練した現場作業員の定年退職が相次いでいると危機感を訴えた。また、米海軍からの委託仕事量の上下動が激しく、例えば 2200名を雇用していた数か月後には、仕事量の減少で 1500名しか雇用を維持できなくなる現状に不満をぶちまけている

●また「今後さらに高度な構造や装備品を搭載した艦艇が増え、従来とは異なる高度な技術者がその維持に必要となる中で、人材確保問題は厳しさを増すばかりだ」と現場関係者は語っている
●高卒の新卒採用も困難さを増しており、高校側はなるべく卒業生を大学に進学させたいと考えており、地元の有力産業で給与面でも優れ、重要な国家に貢献できる仕事であるにもかかわらず、事業所の採用担当者の高校生へのアプローチが阻害されている
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米国で「Blue Color仕事」が敬遠され、「モノづくりの心」が失われつつある象徴のような気がしてなりません。途方もなく根が深い問題だと思います。

トランプ政権の「反移民政策」や「反DEI」や「反気候変動対策」には、まんぐーすは個人的に惹かれるものがありますが、「関税」により米国産業、特に製造業の復活を狙う手法には無理があるように感じます。

「マネーゲーム」や「短期的利益の追求」の経営手法がもてはやされる風潮の中で、失われつつある(又は、既に失われてしまった)「ものづくりの精神」は、容易に取り戻せるものではないと思います

補足ですが、前長官時に既に仕事の海外流出を恐れる米造船工業会から反発の声が上がっており、印象では、現長官の要求は米国内への投資要請が強めな感じです。「関税」を巡る赤沢大臣の日米交渉でも、「米へのお土産」に造船投資話を持っていくとの「噂」報道もありました・・

米海軍の艦艇建造や修理能力が危機的状況
「空母修理遅延の対策」→https://holylandtokyo.com/2023/07/27/4836/
「強度不足で4ドック使用停止」→https://holylandtokyo.com/2023/02/03/4234/
「空母と潜水艦修理の75%が遅延」→https://holylandtokyo.com/2020/08/27/534/
「空母故障で空母なし出撃」→https://holylandtokyo.com/2019/09/18/6650/
「米艦艇建造や修理人材ピンチ」→https://holylandtokyo.com/2019/07/02/6679/
「優秀な横須賀修理施設」→https://holylandtokyo.com/2017/10/06/7149/

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