ステルス技術とその探知技術は常に競争関係だが
幾度となく終焉が予想されたステルスだが
1989年実戦初投入から36年、今後数十年は不可な技術か
最後の部分で、「新たな探知技術や飛躍的に高速化するコンピューターの普及に伴い、幾度となく予測されてきたステルス機の終焉」の現在位置を、関係専門家による「ステルス機時代の終焉予測は時期尚早であり、ステルスは今後数十年にわたり空軍にとって不可々な手段であり続けるだろう」との見解を用いて紹介していますので、長文の特集記事から「エピソードつまみ食い」で取り上げます
1999年セルビアでの撃墜で機体が敵対勢力の手に
●1999年3月27日、「Operation Allied Force」開始から数日後に、セルビアの重要目標攻撃に投入されたF-117がセルビアの SA-3ミサイルに撃墜され、機体の残骸がセルビアによって回収後、恐らくロシアと中国に渡った。当時はステルス機の秘密が敵の手に落ちたと大騒ぎになった
●しかし、F-117 を開発したロッキード社の技術担当上級副社長は、セルビアが露中にF-117の残骸を提供した可能性は高いが、それは大きな利益を提供しなかったと見ている。同副社長は「断言できないが、F-117の能力を損なうことはなかったと思う」と述べ、ステルス機の現物を入手し、電波吸収材の含有物を分析したとしても、製造過程の細部を知ることは困難で、同様の機体を開発するには数十年必要だろうと語っている
●またステルス技術は常に進化しており、実際、撃墜された 1999年時点では、F-117の初期ステルス素材は「耐用年数の終わり」を迎えており、次の技術に移行するタイミングだった、と同副社長は振り返っている。(同様にステルス対処技術も、機体現物を入手したとしても、直ぐには成熟しない)
イランがRQ-170ステルス無人偵察機をほぼ無傷で確保
●2011年、極秘に開発され運用されていたロッキード社製のRQ-170 ステルス無人偵察機をイランが撃墜し、ほぼ無傷で機体を確保して公開した。
●その後、当該機体を分析してイラン独自でコピー機を作成して報道陣に公開した。前述のロッキード社の上級副社長は本件に関し、RQ-170がF-117より進化したステルス素材を使用していたことを認めたが、当時の米政府と業界の専門家からなる委員会は、(セルビア事案と同様の理由で、)イランがRQ-170を模倣することは極めて困難と結論付けている、と振り返っている
ステルス技術の将来的課題
●2025年6月に国防省 DARPA 副長官は、量子(Quantum)センシング、クロスドメインセンシング、人工知能といった技術が成熟するにつれ、ステルスの優位性は薄れていくだろうと述べている。
●量子センシングは、環境内の極めて小さな変化を検出するもので、理論的には最もステルス性の高いアセットでも検出可能とされている。ただDARPA は、「科学基礎研究の量子センサーから、実戦的工学対象としての量子センサーへの移行」を予測しているが、それがどのくらい早く実現するかは未知数だ。
●第1次トランプ政権時代の国防省技術開発局長は、人工知能とコンピューターの進歩は確かにステルス機に課題をもたらし、確実に探知確率を向上させるだろうと認めつつも、ステルス技術も進化しており、「当面は我々の主要システムの多くにステルス技術が採用されるだろう」と述べている。
●ステルス技術の向上について同氏は、例えば、初期のステルス機は特定方向からの敵レーダ一電波を反射しやすい形状だったが、今では設計や製造技術の向上で、複数方向のレーダー波にもステルス性を発揮可能な機体が製造可能だと説明している
●また、細部に言及を避けつつも、米国は数十年にわたり「形状変化素材(shape-changing materials)」の実験を行っており、もしこの技術が実現すれば「非常に興味深いもの」が生まれ、「反射率など、表面特性を変化させることができれば、更なる可能性が広がる」とも語っている
●更に元局長は、ステルス批判派はステルス機を発見可能と強弁するが、「発見可能なのは、特定周波数でしかなく、機体位置が既知の場合にのみ、センサーを振り向けて探知の可能性が生まれるだけだ」と述べた。
●そして、ステルス機を阻止するには、一定時間継続して探知追尾する必要があるが、「干し草の山から 1本の縫い針を探すようなもので、実際にステルス機を関連情報なしに発見することは不可能に近い」とも表現している。
●視点を変えると、敵が特定地域にセンサーを濃密に配置することは想定でき、ステルス機でも特定地域を飛行することは高リスクで避ける必要が生じるが、ステルス機が避けるような濃密なセンサーエリアは比較的狭い範囲にとどまるだろう(まんぐ一す注:攻撃に使用するミサイル等の射程距離から考えると、問題にならない範囲と推定される)
///////////////////////////////////////////////////
上記では、長文記事の3割程度を手短に「つまみ食い」紹介しただけで、他にもいろいろな興味深いエピソードが紹介されている特集記事ですので、是非原文全体をご覧ください。英文も平易で、ブラウザの日本語翻訳でも十分楽しめますので・・・
ただ、ハイテクの粋を結集したようなステルス技術であり、ステルス攻撃機だからこそ、敵は正面から堂々と飛行中のステルス機の撃墜を狙うのではなく、ステルス機が離陸する前に、例えばサイバー攻撃でソフト的に無効化したり、弾道ミサイルや巡航ミサイルで飛行場を破壊したり、安価な無人機や携行可能兵器と工作員を組み合わせた攻撃で、地上に存在する間にステルス機を撃破することを考えていると思うのですが・・・
イランと RQ-170
「イランがコビー機を飛ばす」→https://holylandtokyo.com/2014/11/15/8244/
「ハメネイ氏がコピー無人機視察」→https://holylandtokyo.com/2014/05/14/8433/
「イラン発表:ステルス技術を全て頂いた」→https://holylandtokyo.com/2012/12/13/8980/
「RQ-170をイランが捕獲し公開」→https://holylandtokyo.com/2011/01/29/9716/

