中国のミサイル脅威を分析した Stimson Center 報告書
仮に今後ミサイル防衛に巨額を投じても効果は限定的で不合理
同盟国等に制空権争いの負担を負わせる
日本等には滑走路非依存アセットや無人機中心体制へ変革要求
年頭にあたり、日本の戦闘機命派の皆様の「オトソ気分」を一掃していただくため、また来るべきトランプ政権が「恐らく」打ち出すであろう対中国軍事戦略と日本への期待をよりよく理解する下地として、12月12日に米シンクタンク Stimson Center が発表したレポート 「Cratering Effects: Chinese Missile Threats to US Air Bases in the Indo-Pacific」をご紹介いたします。
このレポートはズバリ、中国が蓄積してきた弾道&巡航ミサイル脅威は凄まじく、仮にミサイル防衛装備強化や米空軍が取り組む戦力分散機動運用のACE 構想を完全に実施し、更に日本など同盟国の民間滑走路を使用可能にし、各所に関連機材や要員を完璧に配備したとしても、対中国作戦緒戦の中国ミサイル攻撃で数日から数週間の滑走路使用不能は避けられず、給油機の支援を得られない戦闘機型アセットの能力は著しく減殺されると指摘し、
更にこの不利な状況を挽回するため、仮にミサイル防衛や分散運用能力向上や現有保有型のアセットを更に追加で強化したとしても、中国が低コストで弾道&巡航ミサイルを増強するだけで簡単に相殺されてしまうことから、追加投資は極めて不合理かつ非効率となると断じています。
例えばWar Game 結果の一部・・・
●日本、北マリアナ諸島等の太平洋諸島にある米軍滑走路と誘導路への中国ミサイル攻撃をモデル化して推計すると、米中間戦争の重要な最初の数日又は数週間で、上記滑走路と誘導路は使用不能となる可能性が高い
●緒戦で、在日米空軍戦闘機は約12日間、グアムや太平洋地域の米基地から2日間近く離陸できないが、ミサイル攻撃が米国の空中給油作戦をも阻止することから、米空軍作戦機の行動は在日米軍基地で1か月以上、他太平洋地域の米軍基地でも半週間以上にわたり空中給油無しの範囲に限定される
●仮に投資効率を無視して米国がPAC-3中隊を20個増やし、全てを日本の滑走路防衛に配備したとしても、中国は短くとも最低2日間は戦闘機の離陸を阻止可能で、その後も1週間は戦闘機は給油機の支援を受けられなくなる
上記の見積もり結果を受け報告書は提言として、米空軍は戦力投射能力を維持&造成しつつも、従来の対処施策を根本的に改め、米空軍は対中国戦緒戦における制空権争いの負担の大半を同盟国やパートナー国に移し、同盟国等には大量のドローンと各種ミサイルなど、滑走路に依存しないアセットを中心に空軍力を再構築させ、
米国の戦闘機や爆撃機の大規模支援が無くとも、開戦後早期に上空を制圧し、中国の攻撃を鈍化させ得る能力を持たせる必要があると主張しています。そして、米軍は同盟国等によるこの航空拒否作戦を支援すべきで、直接関与は控えるべきとも展開しています
そして米空軍には、同盟国等による踏ん張り後の戦闘継続に備えた兵站と維持を優先すべきで、太平洋の民間飛行場の改修、強化された燃料貯蔵施設、滑走路修理キットを含む武器、弾薬、装備を保管する分散貯蔵施設など、事前備蓄とインフラの改善への更なる投資の必要性を訴えています
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米国ではこのようなWar Game が、官民様々な機関で既にあまた実施されてきたはずで、前提やパラメータの設定で差異はあれど、中国のミサイル攻撃で、日本を含む西太平洋の対中国航空作戦拠点が大きな被害を受けることは自明だったはずです。
それが今になって、より簡明に端的な形でレポートとして発表されたのは、トランプ次期政権が「戦闘機命派」への対決姿勢を明確に打ち出し始めたらからだとまんぐーすは邪推しております。
また、内外からの圧力に気付かない振りを続けてきた日本の「戦闘機命派」の首筋にも、冷たいものが差し込んでいる今日この頃だとお察し申し上げます
Stimson Center の当該レポート webページ
レポートのサマリーや現物や筆者紹介など
→ https://www.stimson.org/2024/cratering-effects-chinese-missile-threats-to-us-air-bases-in-the-indo-pacific/
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