米国関係者:先端エンジン開発継続の必要性訴え

AETPはF-35搭載なく、NGAD計画も縮小方向で
無人機CCA搭載用は安価&低耐久性も多用途性が難題
またAI搭載で大電力&冷却性能も重要に

AETP engine.jpg9月25日付米空軍協会web記事が、「Air, Space and Cyber conference」でのエンジン開発パネル討議の模様を取り上げ、20年をかけ開発してきた次世代戦闘機エンジンAETP(Adaptive Engine Transition Program)がF-35に搭載されず、本来の開発目的である次世代制空機NGAD製造機数と搭載エンジン数が下方修正方向にあることで、最先端エンジンの研究開発人材やノウハウが失われつつある現状への危機感と、

AETP engine4.jpg米空軍が早期前線投入に向け注力する無人ウイングマン機CCA(Collaborative Combat Aircraft)搭載用エンジンに関し、多様な用途と任務に対応可能な性能とAI機器を支える大電力と冷却能力を求められる一方で、ほどほどの耐久性で良いから低コストでとの空軍要求に直面するだろう等々と、米空軍研究所の担当部長と2大エンジンメーカーGE AerospaceとPratt & Whitney社の担当副社長が語ったと紹介していますので取り上げます

次世代戦闘機エンジンAETP開発への懸念
AETP XA-101.jpg●AETP開発は、約20年をかけた航空機推進エンジン開発(GE Aerospace 社がXA100を、Pratt & Whitney社がXA101を開発)における「最後の大規模研究開発案件」だったが、F-35への改修搭載が却下され、元々の開発目的であった次期制空機NGADの要求性能や製造機数の下方修正検討が行われている現状に強い危機感を持っている

●米国は軍用エンジン分野で中国やロシアより先を行っているが、新しいエンジンが実際に配備され、実戦の経験を経た改良や研究が継続されなければ、米国の優位性はすぐに失われる危険性が本当にある。先進的なエンジン技術への資金提供を継続しなければ、業界は人材プールを維持できない。既にハイレベルの技術者需要は減少している

AETP XA-100.jpg●今の軍事用エンジン開発は、精巧さに劣る安価な小型エンジン、例えば極超音速用、ドローン用、ミサイル用のエンジン分野で多様な要求が高まっているが、それに応じた予算の増加がない中で要求が増えており、対応は限界に達している。そしてこの小型エンジン開発は、基礎技術を生み出す「ハイエンドで、最も精巧で、最も技術的に難しい」エンジン研究を犠牲にして行われている

●F-35への搭載は断念の一方で、AETPの次世代制空機NGADへの搭載に向けた準備を両社が行っているが、NGAD計画は現在縮小方向で再検討中で、空軍上層部は単発エンジン機で製造機数300未満を示唆している。仮にそうなればエンジン製造企業の2機体制維持は困難になり、健全な競争環境は失われる

無人ウイングマン機CCA搭載用エンジン関連
AETP6.jpg●空軍研究所担当部長 → 安価でありながら、戦闘機と行動を共にする信頼性と多用途対応力が求められるCCA用エンジン問題は解決していない。予算によるが、エンジン寿命は 1~5,000時間(有人戦闘機エンジンは8000時間程度)を想定し、維持整備要領や作戦運用方法を踏まえ、現有エンジンを改良等して対応することになろう

●P&W社副社長 → 空軍は提供の迅速さと低コストを重視すると予期しており、我が社の豊富な市販エンジンなら今日にでも提供可能。ただ空軍は人工知能を多用するだろうから、より多くの電力と冷却能力を求めると予期している。要請に応じて対応する。今はNorthrop Grumman社のCCA試験機Model 437にPratt 535 エンジンを提供して試験等を行っている

●GE社副社長 → CCA用エンジン提供に向け、夏に機敏で低コストなエンジン技術に優れる無人機製造企業Kratos Defense and Security 社と契約を結んだ。最大の短期的課題は、推進力確保だけでなく、多量のプロセッサが出す大量の熱の放散で、エンジン自体も赤外線追尾を避けるため低温を求められる点である
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AETP XA-100 3.jpgなおAETPエンジンは、デモ試験段階で、F-35搭載のF135エンジンと比較し、燃費25%改善・航続距離30%増・推力倍増の結果を出しているようですが、開発費等を含め生産に約8000億円が必要で、現F-35エンジン改修費見積もりの3倍で、ライフサイクルコスト換算だと4兆3000億円も現エンジン改修より高価だそうです。細部は過去記事参照。

技術者の発言ですから、「最も精巧で、最も技術的に難しい」エンジン開発に挑戦したい気持ちが強く出るのは仕方ないことで、その辺りを差し引いて考える必要がありましょうが、戦闘機の存在意義に立ち返った議論を米空軍参謀総長らが提起している今、エンジン開発にもその影響が及んでいる現状をご紹介しておきます

世界の空軍における戦闘機の位置づけは、次世代戦闘機開発が世界全体でスローダウンや見直しが始まり、F-35の活動が莫大な維持整備&運用経費により低調となることで、加速度的に低下するのでは・・・と思います。戦闘機命派が考えるより遥かに早く・・・

F-35のエンジン問題
「AETPのF-35搭載を断念」→https://holylandtokyo.com/2023/03/16/4422/
「AETP採用なら調達機数削減!覚悟?」→https://holylandtokyo.com/2022/09/13/3644/
「AETP採用しないと産業基盤崩壊訴え」→https://holylandtokyo.com/2022/08/24/3562/
「空軍長官:国防省に下駄預ける」→https://holylandtokyo.com/2022/08/09/3515/

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