機体センサーと身体センサーで操縦者の状態把握し事故防止
2022年デモ装置完成で23年初に部隊で試行使用
機体に連接し操縦者不調のアラームや機体機動に反映
「なぜ」今頃までこんな重要で安価な装置がなかったの?
4月15日付米空軍協会web記事が、米空軍研究所AFRLがBAE Systems社と協力して開発中の、飛行中のパイロットの身体データや操縦者を支える酸素供給装置などのデータをリアルタイム測定し、操縦者が「低酸素症」や「脱水症」等々で正常な状態でない場合にアラームを発したり、最終的には機体の機動を強制的に制御したりする装置ICS(Integrated Cockpit Sensing (ICS) system)の開発状況を紹介しています
ICSは安価な装置で、機体側センサー(機内空気の温度・気圧・酸素等濃度等々のデータ測定)と操縦者センサー(ヘルメットや飛行服に装着された頭や耳や身体各所のセンサーで、血中酸素濃度、心拍数、体温、湿度、呼吸数、その他の指標を測定)からのデータを、操縦者が装着したスマホサイズのプロセッサーで処理して、何か問題が発生した場合にパイロット(最終的には機体にも)に警告する等する装置です
2022年にBAE社が空軍研究所と連携してプロトタイプを作成し、2023年に米空軍部隊で試験使用する許可を得たICSは、2024年1月から3月まで3つの空軍部隊(Edwards基地のテストパイロット学校、ネリス基地の第59試験評価飛行隊と第422試験評価飛行隊)でF-16操縦者が体験使用し、その声を空軍研究所はフィードバックして装置を改善し、出来るだけ早く実用化して多様な機種で飛行安全確保や操縦者のパフォーマンス向上に役立てたいと考えています
ICS装置開発の背景には、従来の航空事故調査では、航空機機体に装着されている数万のセンサー情報を活用して事故当時の状況を分析してきましたが、肝心の操縦者に関するデータがボイスレコーダーやフライトレコーダーに限定されていたため、軍の事故調査委員会から「国防省や軍は操縦者に関するデータ収集や分析が不十分で、事故防止や人的戦力最大活用の貴重な機会を逃している」、「研究者にとって根本原因を見つけることが非常に困難である」と厳しく明確に指摘され、ICS開発関係者から「事故報告書に『可能性がある』や『恐らく』と言った操縦者に関する表現が多いのは、操縦者用のセンサーがゼロだから」との現実があります。
またこのICSにより、例えば1月から3月に行われたテスト使用で、ある操縦者は機体に高い加速度Gが掛かった際に、脳内酸素レベルが他操縦者と比較して大きく低下したことが確認できましたが、これは当該操縦者が高G機動状態における「抗G緊張操作」、つまり呼吸と筋肉の緊張テクニックを改善して脳内酸素レベルを維持する技量を高めれば、操縦者としてのパフォーマンス向上できる可能性を示すものと期待されています
このように有効性や必要性が明確に指摘され、技術的にもシンプルで安価に実現可能で、飛行安全に直結する重要な装置の開発や配備が「なぜ」遅れたのかについて、米空軍協会web記事は一切触れていません。
ここはまんぐーすが「邪推」するしかありませんが(邪推ではなく、真実だと断言して良いと思いますが)、操縦者は一般に、低酸素症(低酸素)、脱水症、一時的な歪み、精神的疲労、空間見当識障害、過呼吸などに悩まされていても、操縦者としてのキャリアへの影響(昇任や飛行手当を失うリスク)を恐れて症状の報告をためらい、問題を研究するため機関との連携を避ける傾向が極めて強いことが米空軍医官の調査(末尾の過去記事参照)で示されていますが、
パイロット自身の弱みを知られて空軍パイロットの地位や金銭的メリットを失うことを恐れて、空軍パイロットが組織ぐるみでこのような装置の導入を阻止してきたとしか考えられません。つまり飛行の安全をないがしろにしてまで、組織ぐるみでパイロットの「ステータス」と「収入」を死守してきたということです
多少乱暴な表現になりましたが、いくら言葉を足して柔らかく説明しても、本質は上記のとおりです。それがまかり通っているのが、世界の空軍の実態であり、当然変えるべき悪しき組織文化です。
ICS概要と部隊テスト状況説明(約17分間)
米空軍の2023年医学ジャーナルが警鐘
「操縦者は自らの心身不調を隠す傾向大」→https://holylandtokyo.com/2023/03/31/4463/
第5世代機でも重い低酸素症問題
「F-35着陸大事故の副因か」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-24
「F-35で謎の低酸素症多発」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2017-06-11
「F-22飛行再開・原因特定」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-07-25