今年後半に候補2機種の攻撃&偵察ヘリ飛行評価予定も
もう有人機偵察中心の時代ではない・ウの教訓から
過去10年で最大の開発中止案件に
同時に旧式の現有無人機2機種2万機破棄、新型HH60Vも導入中止
UH-60s, AH-64エンジン更新も停止
現有Black Hawks M型とCH-47F Block II、FLRAAに集中
2月8日、米陸軍がなんと、過去約20年に渡り運用構想や要求性能を練り、2回にわたり企業提案募集やプロトタイプ製造に進みながら計画中断を繰り返し、2018年から3回目のトライとして3000億円を投入して2企業2機種のプロトタイプを製造して今年飛行評価テストを行う予定だった将来偵察攻撃ヘリFARA計画(Future Attack Reconnaissance Aircraft)を、ウクライナの教訓や無人機や宇宙アセットの偵察能力向上を背景に中止すると発表しました
また同時に米陸軍は、現有のUH60やCH47ヘリの能力向上機導入計画や、UH60やAH64アパッチヘリの能力向上エンジン導入計画の中止または停止、更に陳腐化から本格紛争用には不十分として現有の小型無人機ShadowやRavenを計2万機破棄するなど、無人機等の最新技術を生かしつつ、厳しい予算化で実現可能な能力向上策を追求すると明らかにしました
まんぐーすは米陸軍の決定を評価したいと思いますが、2022年12月に機種選定が難産の末に終了した2000機のUH60後継機で「米陸軍で過去40年間で最大のヘリ調達案件」「米陸軍航空部隊の歴史上、最も大規模で複雑な機種選定であった」と陸軍が表現したFLRAA(Future Long-Range Assault Aircraft)選定でも露呈した、「対中国等本格紛争での米陸軍の役割や任務の迷走」問題が再び顕在化したといって良いでしょう
以下では、FARA構想の過去約20年間のグダグダや今回の中止決定に関する米陸軍の説明等を、2月9日付Defense-Newsからご紹介いたします
FARA検討のグダグダ経緯
●ベトナム戦争時に偵察&攻撃任務になっていたOH-58 Kiowaが退役後、陸軍は任務の重要性を強調しつつもその後継機を決められず、性能的にはToo MuchなAH64アパッチに担わせてきた
●この状況を打開するため、21世紀に入って陸軍は「Comanche program」を立ち上げ、1兆円以上を投入して2企業に2つのプロトタイプ製造までさせたが、うまくいかず2004年に計画を中止。更に4年後の2008年にも仕切り直して進めた「Armed Reconnaissance Helicopter」計画を再び中止
●その後陸軍は、既存の商用ヘリから偵察任務ヘリ(commercial off-the-shelf aircraft)から選定することを試み、複数の提案機の飛行評価「fly-off」まで行ったが、最終的に2013年に所望の性能を持つ機体が見つからなかったとして計画をまたも中止
●2018年、陸軍は新設した将来検討専門組織「Army Futures Command」にFARA構想推進を託し、鳴り物入りで「高価装備品の新たな調達モデルの見本を示す」と豪語して2030年までに部隊導入すると宣言してプロジェクトを開始し、これまでに約3000億円を使用し、今後5年間で更に7400億円の予算計画を立て、今年2機種のプロトタイプ(Bell TextronとLockheed Martin Sikorsky)の飛行評価を予定していた
今回のFARA計画中止の理由
●FARA計画の責任者であるJames Rainey陸軍大将は、「この決定は失敗を意味するものではなく、ヘリ近代化計画のオーバーホールを通じて、より大きな進歩を目指すものだ」と語り、「ウクライナの教訓や、無人機や宇宙センサーの技術的成熟や急速な普及に伴い、高性能な装備が安価に導入可能となってきている事などを踏まえ、偵察攻撃任務を有人ヘリだけに頼るのではなく、有人機と無人アセットの融合をどうすべきか考えることが重要」だとFARA中止の背景に言及
●さらに踏み込んで同大将は、「ウクライナでの戦いの様相に米陸軍は影響を受けた。航空偵察は根本的に変化したのだ。無人機搭載のセンサーや兵器、そして軌道上の衛星は、より広範囲をカバーして活用が容易になり、かつてないほど急速にコストも低下している」とも表現
●そして3000億円を投入したFARA計画については、「これまでの成果を他のプログラムで利活用可能にするため、2024年度末までに開発技術等を取りまとめて終結させる」と説明
今後の米陸軍ヘリへの投資方向性
●FARA中止によりどの程度の資源が陸軍ヘリ全体や航空偵察任務に再投資可能かは判然としないが、米陸軍は高性能で残存性が高く、人命への懸念が少ない無人偵察機開発により大きな投資をし、2022年に契約した「Jump20 System」に加え、更に2023年9月には5社の候補提案から2社に絞り、現在は2025年度中に部隊配備開始ができるようにプロトタイプ製造段階にある
●垂直離着陸型の有人機開発がFLRAA1機種のみになった現状から、現有ヘリUH60やCH47への投資方向も大きく変更。UH60L型の後継として開発中のV型については、コストアップでL型更新に15年以上必要な見通しとなっているため、V型開発を中止し、現有で最新型のM型を継続製造してL型の後継とする
●FLRAAやFARA計画推進予算確保のため、2018年にCH-47F Block IIの正規部隊への導入を見送ったが、この決定を見直し正式に量産体制に入る
●また陸軍は、FARAやUH60やAH64用を想定した6種類の次世代エンジンを現在テスト中で、更に5月には追加で2つのエンジンがUH60での試験を予定しているが、既に数年の遅れが出ているこれらエンジンの本格調達は無期限延期する
●以前から性能の陳腐化等から本格紛争での能力発揮が疑問視されていた、約570機保有の小型無人機Shadowと約19000機保有のRavenについてはこれを全廃し、本格紛争を生き延びて任務遂行可能な高性能将来無人機FTUAS導入に注力する
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2022年12月、FLRAA(Future Long-Range Assault Aircraft)をBell社のティルロータ型「V-280 Valor」に決定した後から、米陸軍は何度となく、議会やメディアや専門家から、FLRAAとFARAを同時推進は可能なのかと繰り返し問われ続け、そのたびに「可能か否かの問題ではなく、必要不可欠な避けられない調達案件だ」と浪花節説明してきたわけですが、ついにウクライナの現実や予算の現実を直視し、大幅方針転換に踏み切った模様です
これが世界の軍隊における、ウクライナ教訓を反映した各種方針や構想の大転換の「呼び水」になるような気がします。もちろん陸軍だけでなく、空軍戦闘機もそうだと思いますし、対中国最前線の自衛隊への風当たりもつようくなろうと予想いたします
40年間決められなかった米陸軍がやっと・・・
「Black Hawk 2000機の後継FLRAA選定」→https://holylandtokyo.com/2022/12/09/4043/
「陸軍UH-60後継の選定開始」→https://holylandtokyo.com/2021/07/16/2009/
「米陸軍ヘリは無人化でなく自動化推進!?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-11
「UH-60後継を意識した候補機開発」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-06-16
対中国を想定した太平洋陸軍の演習
「対中国で分散作戦演習JPMRC」→https://holylandtokyo.com/2022/11/14/3900/
米陸軍ウクライナの教訓
「陸軍2024年に部隊大幅削減含む改編不可避」→https://holylandtokyo.com/2024/01/04/5394/
「米陸軍が評価中の様々な教訓」→https://holylandtokyo.com/2023/10/13/5129/
「22年6月:米陸軍首脳が教訓を」→https://holylandtokyo.com/2022/06/01/3245