誰かが検閲したごとく「中国経済崩壊」に一切言及がない異様なレポートです
11月24日金曜日、防衛研究所が2011年3月から毎年発刊している「中国安全保障レポート2024」を発表し、今回は「中国、ロシア、米国が織りなす新たな戦略環境」との副題が示すように、米国が維持してきた従来の国際秩序に挑む中露との構図で、現在の安保環境を従来と同じくあくまでも執筆研究者の個人的見解との位置づけで分析しています。
本日はこの80ページの冊子の「概要の概要」を、ロシア関連の「第2章」を省略し、かつ「つまみ食い」してご紹介するわけですが、まんぐーすからはまず最初に声を大にして、既に顕在化している中国経済の崩壊について一切言及せず、「国際秩序をめぐる米国と中露の対立は加速し、米国中心の既存秩序の現状維持勢力と、中露中心の現状変更勢力の間の対立拡大」が大きな注目点だ・・・と結ぶ本レポートに大きな失望を覚えたことを強調させていただきます
まだまだ序の口の中国経済崩壊で中国側の情報統制も厳しいですが、2023年11月末に発表する中国安保分析文書であれば、直接的に「中国GDPの3割を占める不動産経済の崩壊」、「不動産経済崩壊から金融危機への波及の兆し」、「誤ったゼロコロナ政策や恣意的運用に懸念が広まる反スパイ法に起因する外国企業の中国脱出」、「失業率の急上昇」、「中国経済への先行き不安から急速に進む人民元下落」、「習近平の経済原則を無視した毛沢東思想復活を思わせる国家運営」、これらを受けた「今後数十年の中国経済低迷の可能性大」などに言及しなくても、
同レポートで中国関連分析を行っている「第1章」の中の「おわりに」部分や、レポートのまとめに当たる「終章:本レポートの結論」部分で、経済的混乱の兆候があることや、ロケット軍の幹部粛清や国防相の更迭などの中国指導層人事に異例の動きが見られることにも簡単に触れつつ、「今後はこれら中国経済の混乱・混迷がもたらす影響についても、重大な関心を払う必要がある」程度の記述が不可欠だと思います。
「中国経済」との言葉の使用を、防衛省や日本政府による「検閲」で削除したかのような、「極めて異様な」今回のレポートの「概要の概要」は、以下の通りです
●「2024レポート」の狙い
冷戦後の国際社会に安定と繁栄をもたらしてきた既存のルールの維持を目指す米国と、ルールの変更を目指す中国およびロシアとの深刻な競争に直面。本レポートでは、米国、中国、ロシアについて将来の国際秩序についてどのような構想を有しており、どのようにその実現を目指しているのかを分析する。また、軍事・安全保障を中心に世界各国の中露に対する姿勢も概観。この分析から最後に米中露の 3大国の相互作用が織りなす今後の国際秩序の方向性について検討
●既存秩序の変革を目指す「中国の戦略」
—習近平政権は、米国に中国の「核心的利益」を尊重し、中国を対等に扱う「新型大国関係」受入れを要求。同時に既存の国際秩序を明確に拒否し、中国や発展途上国が大きな発言力を持つ「新型国際関係」と「人類運命共同体」を新たな国際秩序のモデルとして推進
—中国は A2/AD 能力を中心に軍事力強化。中国は周辺地域でも米軍行動を物理的に妨害し、ロシア軍との連携行動を強化。中国は核戦力も急速に強化し、これは将来安保おける中国の発言力を高める
—今後中国は、核を含む軍事力を強化し、国際秩序観を共有するロシアとの戦略的協力を深化させ、既存の国際秩序の改変を進めるだろう
●省略:露・ウ戦争とプーチン体制生存戦略
●国際秩序の維持に向けた「米国の軍事戦略」
—中露との競争上の米国の軍事的課題は、①武力紛争に至らない段階における活動、②米軍の戦力投射・作戦行動、キルチェーンに対する脅威、③将来的な核戦力バランスの変化。
—①に対して米軍は、「航行の自由作戦」や情報・サイバー空間での作戦行動に加え、全ての段階で米軍が一定活動を行う「競争連続体モデル」との新概念枠組みで対応。
—②に対し、A2/AD および米軍のキルチェーンに対する脅威に関して、米軍は新たなコンセプトの開発を継続させている。
—③の、米国と同レベル核戦力保有の「中露との同時対峙」という、将来的な「同格の二大核保有国」問題に対し、バイデン政権は米抑止力強化と軍備管理での核使用リスク低減に取り組む姿勢を示す
●本レポートの結論
—今後 10 年程度の見通し得る将来において、ロシアで急激な政治変動が生じない限り、国際秩序をめぐる米国と中露の対立は加速し、グローバル・サウスも巻き込みながら、米国を中心とした既存秩序の現状維持勢力と、中露を中心とした現状変更勢力の間の対立へと拡大していく。
—他方より長期的視点では、露のウ侵攻が国際秩序の変更に至る見込みは極めて小さい。一方で中国は、南シナ海や台湾海峡などで現状変更の既成事実を積み重ねている。今後、このような中国の力による一方的な現状変更を防止できるか否かが、国際秩序をめぐる競争の行方を決定づける最も重要な要因である
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最近お行儀が悪いまんぐーすから、再度ひとこと・・・検閲削除されたごとく、中国経済崩壊に一切触れず、上記のような「本レポートの結論」で締めくくる2024年度版「中国安全保障レポート」には、研究者の危機感が感じられないばかりか、中国経済崩壊が導く可能性が相当程度存在する、中国軍事脅威の崩壊を「隠したい」「避けたい」「触れたくない」思いが透けて見えるようです。
過去からの同レポート紹介防研webページ
https://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/index.html#
同レポート日本語版(約80ページ)
https://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/pdf/china_report_JP_web_2024_A01.pdf
防研の「中国安全保障レポート」紹介記事
1回:中国全般→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-19
2回:中国海軍→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-17-1
3回:軍は党の統制下か?→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-23-1
4回:中国の危機管理→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-02-01
5回:非伝統的軍事分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-22
6回:PLA活動範囲拡大→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-09
7回:中台関係→サボって取り上げてません
8回:米中関係→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-03-2
9回:一帯一路→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-02-11
10回:ユーラシア→サボって取り上げてません
11回:サイバー宇宙情報軍民→ https://holylandtokyo.com/2020/11/16/388/
12回:統合作戦能力の深化→ https://holylandtokyo.com/2021/11/30/2481/
13回:認知領域とグレーゾーン事態掌握→サボって取り上げてません