米空軍が大改革アクションを発表

具体的な実施スケジュールには触れず
将来装備検討や開発専従の新コマンド創設
戦闘・空輸・CSコマンドは戦いと態勢維持に集中
ACE構想を全ての基準として一貫した教育体系を
Kendall長官の任期切れまでに間に合うか・・・

Kendall AFA2024 4.jpg2月12日、米航空宇宙協会Warfare SymposiumでKendall空軍長官とAllvin空軍参謀総長と宇宙軍トップのSaltzman宇宙作戦部長が登壇し、昨年秋から空軍省が検討してきた間近に迫った本格紛争で任務遂行可能な体制を早急に整備するための、冷戦後最大級の組織的改革24アクションが発表されました

基本的には既存の予算内で実施可能なコストで、新規事業に必要な予算措置は予算作成サイクルに組み込み可能な2026年度予算案からと説明されたアクションについて、大きな組織改革を含めてその具体的実施時期が明らかにされない「迅速に検討中」状態での発表ながら、Kendall長官がプレゼンで「We are out of time」「do so with a sense of urgency」と繰り返し言及する勢いだった模様です。まんぐーすの考える重要ポイントは・・・

Kendall AFA2024 2.jpg●装備品の導入構想や要求性能や開発管理専従の「将来体制を検討する専門コマンド」を中将トップで創設し、戦闘・輸送・CSコマンドは日々の作戦運用とそのための即応態勢維持に集中させ、戦闘機や輸送機や爆撃機の将来構想検討の中心から距離を置く

●戦闘・輸送・CSコマンドの戦闘能力強化のため、冷戦期の手引きを復活させ、コマンドの枠を超えた大規模演習や事前通告なしの戦闘能力点検を復活させるなどに取り組み、部隊航空団を前方展開即応部隊や基地機能維持部隊等に明確に区分してその求めるところを明確に区分し態勢維持状態を確認する

Kendall AFA2024 5.jpg●教育訓練では、ACE構想遂行可能な多能力を備えた兵士育成に空軍全体の基準として取り組み、新兵教育から上級教育までを含めた一貫した体系で実現する・・・との方向に整理できると考えましたが、理解不十分な点はご容赦いただき、12日付Defense-News記事からアクションの細部についてご紹介いたします

中将司令官のIntegrated Capabilities Command創設
Kendall AFA2024 6.jpg●今回発表された空軍改革の中で、他の改革と比較して格段に大きな変革は、Kendall空軍長官の2年半に渡る長官経験と50年近くの国防省での装備要求構想作成や兵器開発管理経験を踏まえた集大成的改革であり、兵器開発における要求性能取りまとめと開発管理を戦闘・空輸・CSコマンドから切り離し、長期的視点から専従で行う新設の「Integrated Capabilities Command」に権限を集中して実施させる決断である
●同コマンドは、例えば従来空軍戦闘コマンドACCが担ってきた戦闘機開発性能要求策定任務や、輸送コマンドの輸送機要求性能作成任務を引き継ぎ、ACCや輸送コマンドの意見聞き取りや議論はともに行うものの、空軍省内の全ての能力開発計画や要求性能取りまとめ、資源配分を中央集権的に采配する役割を担う
●Kendall長官は「前線部隊の兵士や運用者(ACCや輸送コマンド等)には部隊の即応態勢獲得や維持に集中してもらい、空軍の将来像を考えることは別の組織に専従で行わせたい」と表現

戦闘・輸送・CSコマンドの戦闘能力強化
Allvin AFA.jpg●米空軍の中心的戦力発揮組織である「Air Combat Command」、「Air Mobility Command」、「Global Strike Command」は、配下部隊の即応態勢維持により焦点を当てた取り組みを強化するため、空軍長官と参謀総長が自ら冷戦時代の「playbook:手引書」に立ち返り、過去30年間の中東での作戦支援の継続で記憶から失われた、大規模作戦演習や事前通告なしの戦闘能力点検や査察を再び導入する
●空軍長官は本件に関し、「前線派遣態勢が整っているはずの航空団が、本当に必要な全ての任務遂行能力を具備していることを確実にする。きちんと訓練する機会を設け、その上で部隊の能力を評価していく」とインタビューで語っている

●作戦運用を担う航空団「Wing」は、その役割に応じて3つに区分され、作戦遂行部隊と作戦運用航空団を支えたり基地運営を担う航空団との違いを明確に表現した名称を付与し、「Deployable Combat Wing」、「In-Place Combat Wing」、「Combat Generation Wing」とする
●現在空軍戦闘コマンドACCの配下にあり、情報戦と電子戦を担当する第16空軍は、空軍長官と参謀総長に直属する「Air Forces Cyber」に格上げされる。指揮官は現在と同じ少将

Saltzman AFA.jpg●宇宙軍も新たに現代の厳しい脅威下を踏まえた部隊即応態勢の基準を設定し、新たな体系の演習を導入して部隊能力を強化する。宇宙軍トップのSaltzman大将は「現在の宇宙軍は商船運用会社のようなものであり、その組織を米海軍のように鍛える必要がある」と厳しい表現を用い、「我々が成し遂げるべき改革革新を理解する必要がある」と現実を直視した
●ローテーションで統合の宇宙コマンドを支援する新たな「Space Force Combat Squadrons」を立ち上げる。また統合の地域コマンド(インド太平洋軍や中央軍など)や機能コマンド(サイバーコマンドや輸送コマンドなど)を支援する役割を、既存の宇宙軍組織を再整理して「Space Force component commands」として立ち上げる

教育訓練体系の再整理
●教育訓練コマンド(Air Education and Training Command)を「Airman Development Command」に改編し、ACE構想(Agile Combat Development)を作戦運用の基準として掲げ、これまでの「多能力兵士Multi-Capable Airmen」養成との認識でなく、多能力兵士が標準との認識を表現する「Mission-Ready Airmen」養成を目指し、新兵教育から上級者レベル教育まで一貫して取り組み体制を構築する

●IT分野とサイバー分野にとりあえず限定し、空軍内で最初に上級レベルの高い練度を保有する兵士に「Warrant Officer:准尉」の階級を創設して、能力相応の給与水準向上を目指すだけでなく、専門技能分野に特化した高い技量を伴う専門家のキャリアパスを、通常の士官養成とは異なるルートで設定可能にする

●Air Force Materiel Commandは内部再編し、以下の3つのセンターとオフィスに役割を再整理して業務の円滑推進を目指す
Information Dominance Centerは、C3BM(Battle Management)とサイバー、電子戦、空軍全体の情報システム&インフラの側面から、空軍と宇宙軍を支援
Air Force Nuclear Systems Centerは、現存のNuclear Weapons Centerを拡充して核兵器管理の改善を担い、ICBM計画担当少将のICBM再構築を監督する
Air Dominance Systems Centerは、Life Cycle Management Centerを改編し、航空機と兵器開発の同期を図ることに焦点を絞る
・•Integration Development Officeは、新たな運用構想や技術導入が、技術的成熟度や全体のバランスから見て適切かどうかを見積もり評価する役割を担う
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Kendall AFA2024.jpg5 か月の集中検討の成果として公開された内容ですが、Kendall長官は様々な提案を審議する中で、例えば陸軍や海軍のように複数の 主要コマンドをを単一の軍司令部に統合する等のより劇的な提案のいくつかは破棄され、洗練されたと説明しています

また発表した内容は空軍長官の権限で実施可能だが、事前に国防長官や副長官、更に他軍種の長官にも事前説明し、改革の方向性について一切の疑念なく「正しい道を歩んでいる」との評価を頂いているとも語った上で、今後について、「方向性を決定したので、その詳細に取り組む」、「詰めるべき詳細が多数あり、大変な作業になるが、やり遂げる準備は出来ている。私たちは官僚的な抵抗を克服するアプローチを採用している」と会場に列席の空軍主要幹部と空軍OBや軍需産業関係者と専門家ににらみを利かせたようです

政治任用者であるKendall空軍長官の任期は、11月の大統領選挙に伴う新政権誕生までと考えるのが普通で、時間が限られた中での本改革が可能なのか、様々な議論を既に巻き起こしていますが、まんぐーすはその意気込みに素直に感動しましたし、その使命感と熱意を学びたいと思いました。今後に注目したいと思います

Kendall空軍長官が宣言
「米空軍総レビュー実施」→https://holylandtokyo.com/2023/09/07/5012/
この改革に向けたAllvin参謀総長の推薦図書など
「米空軍制服トップが推薦図書等を公表」→https://holylandtokyo.com/2024/01/31/5473/
「Kendall空軍長官の推薦図書19冊」→https://holylandtokyo.com/2023/06/19/4736/

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