米空軍が「CAP:気候変動対処計画」を発表

2046年までにゼロ・エミッション目指す
2033年までに5割削減との中間目標も設定

CAP USAF.jpg10月5日、米空軍は約20ページの気候変動対処計画「Climate Action Plan」を発表し、2046年までに温室効果ガス排出を「ゼロ」にする目標を打ち出し、近年毎年のように豪雨やハリケーンで米空軍基地が被害を受ける原因とされている地球レベルの気候変動問題に、大量の温室効果ガスを排出している米軍として責任を果たしていく姿勢を明確にしました

背景には、例えば2019年にブラウン大学発表の推計によると、米軍は過去20年間に約12億立方トンの温室効果ガスを排出し、その量はいくつかの先進国を凌駕していると言われており、「国の存立にかかわる軍事だから」とか「国家安全保障のためだから」との言い訳が通用しなくなっていることがあるようです

CAP USAF4.JPGまた実際に、2016年には山火事で加州Vandenberg 基地からのロケット打ち上げが大きく遅延したり、2018年にハリケーンによりTyndall空軍基地が壊滅的被害を受けたり、2019年にオファット空軍基地が洪水で滑走路使用不能に陥ったり等々の実害が毎年発生するようになっており、施設補修整備支出が激増する状態が常態化する事態に迫られています

2021年10月に国防省が気候変動対処プランCAP (Climate Adaptation Plan)を発表して具体的な豪雨や台風被害対処方針を示しましたが、10月5日には米陸軍も同様の気候変動対処イニシアチブを発表(米海軍海兵隊は今年5月発表済)し、各軍種は温室効果ガス削減にまでを含む方針明確化を迫られているようです

CAP USAF6.jpg軍種毎の排出量や軍種別の排出比率データは手元にありませんが、米空軍の温室効果ガス排出の8割は航空燃料の燃焼から生じており、米軍全体の温室効果ガスを排出量のかなりの量を比率を占めていると推定できることから、米空軍のみならず、英空軍も合成燃料の研究や試験を既にアピールしているように、今後主要国空軍は同様の検討を世界から迫られる立場にあるのかもしれません。

「我々の優先対処事項は3つ、中国と中国と中国だ」と明言しているKendall空軍長官も本計画発表に合わせ、「我々の任務に変わりはないが、世界は加速して襲い掛かってくる気候変動問題に直面しており、これに備えて挑み勝利しなければならないことを認識する必要がある」とのコメントを出しているところです

ただ、2046年までに温室効果ガス排出を「ゼロ」(中間の2033年までに5割削減)目標達成へのプランは、以下の概要のように具体策に欠けると言わざるを得ません。

6日付Military.com記事によれば
CAP USAF5.JPG●米空軍は、より少ない航空燃料でより大きい戦闘力を提供するため、MEET(Mission Execution Excellence Program)に着手し、空軍兵士が燃料の浪費を防ぎ、効率的使用につながる案を持ち寄ることで対応する
●このMEET計画により具体的には、より航空力学特性に優れた航空機を生み出し、代替燃料の検討を行うこと等により、今後5年間で温室効果ガス排出を3.7%削減できると見積もっている。

CAP USAF7.jpg●更に、太陽光発電パネルを空軍や宇宙軍基地に増設することや、既にアラスカのEielson空軍基地で国防省がテストを始めている、安全で強靭性のあるカーボンフリー電力源を目指したミニ原発の開発、更に非戦闘車両の2035年までの電気自動車化などで計画達成に取り組んでいく
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民間航空会社も、2050年頃までに「排出ゼロ」目標を掲げていますが、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」・・・的な「言ったもん勝ち」状態になっているような気がしてなりません。

CAP USAF3.jpg「きな臭い」と多くの日本人が感じている「SDGs」と同様に、これも「怪しさ」を感じざるを得ない取り組みですが、「航空燃料の燃焼による温暖化ガス排出削減」との明確な科学的なテーマですので、技術的なブレイクスルーを期待したいと思います

それと、航空自衛隊も世界の趨勢に乗り遅れないよう、何か削減計画を準備しておいた方が良いと思います。陸海自衛隊も同様に・・・

米空軍の「Climate Action Plan」20ページ
→プラン解説へ https://www.af.mil/News/Article-Display/Article/3178524/department-of-the-air-force-rolls-out-plan-addressing-climate-change/
→プラン現物へ https://www.safie.hq.af.mil/Programs/Climate/

2021年10月の国防省対処指針発表
「米国防省が気候変動対処構想発表」→https://holylandtokyo.com/2021/10/11/2318/
「米空軍が作戦天候予報にAI導入推進」→https://holylandtokyo.com/2022/07/19/3385/

排出ゼロや気候変動への取組み関連
「海軍と海兵隊が対処演習強化」→https://holylandtokyo.com/2022/09/28/3666/
「米陸軍が前線での電力消費増に対応検討」→https://holylandtokyo.com/2022/04/25/3138/
「米空軍が航空燃料消費削減を開始」→https://holylandtokyo.com/2022/02/16/2691/
「米国防省は電気&ハイブリット車導入推進」→https://holylandtokyo.com/2021/11/15/2423/
「米陸軍が電動戦闘車両導入の本格検討へ」→https://holylandtokyo.com/2020/09/25/487/
「英空軍トップが熱く語る」→https://holylandtokyo.com/2021/12/03/2474/
「英空軍が合成燃料でギネス認定初飛行」→https://holylandtokyo.com/2021/11/19/2444/
「サイバー停電に備えミニ原発開発」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-07

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