空軍は依然として自己防御用中心で
電子攻撃はEC-130Hと開発中EC-37Bのみで限定的
ウクライナ支援で再び浮き彫りの米空軍電子戦懸念
5月13日付米空軍協会web記事が、ウクライナ事態対応のため独空軍基地に3月から展開中の米海軍EA-18G電子戦機の存在を紹介し、これを機会に改めて顕在化している米空軍電子戦能力の問題点について専門家の意見を取り上げています。
EA-18Gは、戦闘機タイプの航空アセットで攻防両方の強力な電子戦能力を持つ米軍唯一のアセットで、米空軍の要請に応じて支援提供覚書まで結んでいる機体ですが、米海軍の2023年度予算案で、空母搭載機体は引き続き残るものの、空軍など他軍種支援用機体が2025年には退役する計画が明らかになり、米空軍OBから懸念する声が上がっているところです
米空軍の戦闘・戦闘爆撃機タイプ電子戦機は、ワイルドウィーゼルF-4G Phantomが 1996年に退役、戦闘爆撃機改良のEF-111 Ravenも1998年に退役し、その要員も経験もノウハウも実質的に失われてしまいました。
その後はプロペラ輸送機改良のEC-130が電子戦機として残るのみで、近年になってビジネスジェット機を改良したEC-37B Compass Call電子戦専用機の開発が、2023年5機配備に向け進んでいますが、「米空軍にはステルス戦闘機やステルス爆撃機があるから大丈夫」との理屈で、使い捨て電子戦用デコイMALDの開発配備はありましたが、F-4G PhantomとEF-111 Raven後継機導入は具体化していません
もちろん空軍内にも導入待望論はあり、第6世代戦闘機とも次期制空機NGADとも呼ばれる戦闘機開発に関連し、2017年2月に当時のカーライルACC司令官は、NGADよりも同機を原型とした突破型電子戦機PEA(Penetrating Electronic Attack)が早期に導入されるだろう・・・とまで発言していました。(その後、戦闘機型電子戦機やPEAに関する報道を目にしていませんが)
そんな状況の中、ウクライナ侵略事案を受け、日本へローテーション派遣予定だった米海軍EA-18G(1-2機程度?)がドイツのSpangdahlem基地に急遽展開し、ルーマニアFetesti基地に展開中の米空軍F-16戦闘機等と共に、戦闘行為には参加せず、電子戦装備は「オフ」にしたまま「just maintaining our air policing and that defensive posture」している模様です。
米軍は戦闘行為には参加しないとの大原則の下、何もせずプレゼンスを示す「任務」との説明ですが、この展開を通じてEA-18Gの能力や米空軍の欠落能力に改めて関係者の問題意識が高まっている模様で、以下では懸念意見を代表して米空軍協会ミッチェル研究所研究部長David A. Deptula退役中将の見解でご紹介します
5月13日付米空軍協会web記事によれば
●ACC司令官Mark D. Kelly大将は、中国やロシアの電子戦優位を考えると安心して寝付けないと述べており、他にも電子戦装備導入や作戦構想作成が遅いとの懸念が空軍内から聞こえてくる。2021年6月に第350 Spectrum Warfare航空団が電磁スペクトラム戦担当に創設されはしたが・・・
●第5世代機のF-22やF-35は当初から電子戦装備が内蔵されているが、F-16には自己防御用のポッドが装備されているのみで、F-15C戦闘機にはHARM用の電子戦センサーが能力向上された程度で、またF-15用にEPAWSS(Eagle Passive Active Warning Survivability System)開発に取り組んでいるが、大部分は自己防御用の装備である。米空軍は基本的に自己防御用装備の維持や更新を行っているのみだ
●米空軍戦闘アセットの中で最新の電子戦装備を備えている機体は25%以下で、海軍EA-18Gとの覚書による支援体制も有事に十分機能するかは疑問である。米空軍が電子戦専用にを導入しないのは、「あてにならない米海軍との約束に依存:comes from empty promise from the other services」しているからだ
●米空軍は、ビジネスジェット機を改良したEC-37B Compass Call電子戦専用機を開発中で、2023年までに5機導入する計画であるが、これは敵のレーダー等センサーに妨害をかけて味方機が発見されるのを妨害して味方機の生存性を高める「防御用能力」が主で、現有のEC-130と共に電子攻撃(EA:Electromagnetic Attack)能力は引き続き限定的である
●米海軍は2023年度予算案で、空母搭載用以外のEA-18Gを2025年度までに退役させる計画を明らかにしたが、ウクライナ侵略事案が再びスポットライトを当てたように、電子線攻撃能力を含めた航空アセットによるSEAD能力(敵防御網制圧能力:suppression of enemy air defenses)は、全てのレベルの紛争対処に不可欠である
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米空軍戦闘コマンド司令官が「寝つきが悪い」と懸念するなら、中国最前線の日本は「真っ青になって慌てふためく」必要があると思いますが、どんな状況なんでしょうか?
F-2戦闘機の後継開発を、エンジンは英ロールスロイスと、ミサイルシステムなど電子戦分野も絡めて英BAE社と共同開発で行う方向らしいですが、統合レベルでの電子戦(電磁スペクトラム戦との呼称が最近の用語)についてもよくよく考えて進めて頂きたいと思います
米空軍とEA-18G関連の記事
「ステルス機VS EA-18G」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-22
「米空軍電子戦を荒野から救出する」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-17-1
「米空軍の電子戦文化を担う」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2012-09-08
「空軍用に海軍電子戦機が」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-07-09
「緊縮耐乏の電子戦部隊」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-01-29-1
「なぜ空母に8機必要か」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2014-03-13
米国防省EW関連の記事
「SpaceXのウクライナ対処に学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/
「電子戦とサイバーと情報戦を融合目指す」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-03
「国防省EW責任者が辞任」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-12-19
「ACC司令官が語る」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-19
「米空軍がサイバーとISRとEwを統合」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-04-06-3
「電子戦検討の状況は?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-13
「エスコート方を早期導入へ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-27