給油操作を行う映像装置RVSの根本的改修
2020年春に検討開始し、2021年5月に一度交渉決裂も
空中給油機関連課題が急に整理されていく流れに疑念も
4月19日米空軍報道官が、ボーイング社との間で2020年春から協議を続けてきたKC-46空中給油機のRVS更新改修設計案について4月11日に合意し、基本契約に沿って改修費用を全額ボーイング社が負担して2024年中旬までにRVS更新改修を終了することになったと発表しました
KC-46は従来の給油機とは異なり、操縦席内にあるカメラ映像を見ながら給油装置を操作するシステムを導入しましたが、その映像システムRVS(Remote Vision System)が太陽の位置や夜間に見辛く、捜査員が給油ブームで対象機の機体をひっかいて傷つけたり、安全に操作できないとの問題が生じて2017年夏に「category I deficiency:第1級不具合」に指定されました
この不具合にボーイングは小手先の「ソフト改修」で対処しましたが空軍側は納得せず、根本的ハード対策が必要だと主張し、延々と押し問答が続いて2019年には膠着状態に至りました。最終的には2020年2月に時の空軍参謀総長が新任ボーイングCEOを訪問して直談判するに至り、その後少し動きがあって2020年4月に「RVS 2.0」を開発して更新することで合意したものです
冒頭でご紹介したように、その後も2021年5月に「RVS 2.0」設計交渉が決裂するなど、2021年秋には合意するはずの予定が今年4月まで遅れた超難産ですが、KC-46契約全体を貫く「固定価格契約」原則を維持し、「RVS 2.0」開発導入も全てボーイング経費持ちになります。
これまでの様々な不具合対処経費を含めると、約6500億円ボーイングが自腹を切って対応しており、「RVS 2.0」開発導入経費がどの程度が現時点で公表されていませんが、更なるボーイング負担となります
4月19日付Defense-News記事によれば
●米空軍報道官の声明によれば、「RVS 2.0」は、新しい4K解像度ディスプレー、改良した複数の可視光&赤外線カメラ、給油操作員操作パネルの完全再設計、画像処理プロセッサーの再設計により課題に対処する。特に3組のパノラマ視野カメラにより、昼夜を問わず、切れ目ない必要な視界を操作員に提供する
●また声明は、今後数か月で正式契約を交わすことになるが、「RVS 2.0」導入により、RVS関連の2つの「category I deficiency:第1級不具合」と6個の「第2級不具合」が解消されると説明している
●ボーイング社は「今回の合意は、米空軍とボーイングの緊密な連携でKC-46Aをニーズに応じて能力向上していく事例であり、最新技術を製造ラインに落とし込む流れを示すものである」、「この改修により世界最高の給油機は更に能力を向上させ、何世代にもわたり空軍運用者に恩恵をもたらすだろう」とコメントしている
●なおKC-46給油機は、導入予定の177機のうち既に57機が米空軍に納入済で、米空軍は作戦空域での使用を認めないなど使用制限を課しつつも、最近許可したF-22とF-35を含む対象機の85%への空中給油を認めている
●なお同機は米空軍以外では、日本が4機導入予定で2機を受領済、イスラエルも今年に入り2機導入を発表している。
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4月11日に「RVS 2.0」について空軍とボーイングが合意し、翌4月12日にBrown米空軍参謀総長が空中給油機の今後の体制整備について、従来の「KC-X(KC-46)→KC-Y(つなぎ給油機)→KC-Z(ステルス給油機)」との考え方を再検討中で、「Y」や「Z」で特別な能力を追求せず、KC-46を改良して使用していく方向も検討しつつあると明らかにしている辺り、色々な裏がありそうで想像してしまいます
KC-XYZの再整理については、「機種選定のドロ沼を避けたい」及び「予算もないのでステルス給油機は断念」と邪推しておりますが、KC-46に関する妥協も含めて考えれば、コロナで民航機需要が激減し、B-787の事故もあり瀕死のボーイングを米国政府として支えるための一連の判断とも邪推できます。
米空軍空中給油機の整備方針を大転換
「KC-XYZの再検討再整理表明」→https://holylandtokyo.com/2022/04/18/3151/
「KC-Yにロッキードが名乗り」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-20
「つなぎ空中給油機KC-Yに着手へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-05
「2016年当時の空中給油機後継プラン」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2016-09-22
KC-46関連の記事
「恒久対策は今も未定」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-01-11
「50機目受領も恒久対策未定」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-11-11
「KC-YもXと同じ対決へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-20
「KC-46に更に2件の最高度不具合発覚」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-06-18
「F-22とF-35のデータ中継装置を搭載へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-05-22
「KC-46空中給油機を一部の任務に投入開始」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-02-25
「恒久対策は2023-24年から」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-30
「今度は燃料漏れ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-31-1
「やっぱりだめで更に1年遅れ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-04
「重大不具合について3月に手打ち!?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-21
「空軍トップが新CEOに改善要求」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-03