注ぎ込んでも限界のあるミサイル防衛にどこまで投資するか?
グアムのミサイル防衛体制整備の現在位置
2023年度国防予算案公表に伴い、米ミサイル防衛庁MDA長官のJon Hill海軍中将などが、太平洋軍最優先要求事項の一つで「2026年までに絶対運用開始」の「グアム島のミサイル防衛強化」について発言していますので、現在の大まかな状況と課題部分についてご紹介します
グアム島は、改めて申し上げるまでもなく対中国作戦の起点となる西太平洋の数少ない作戦基盤であり、海軍艦艇・潜水艦への弾薬補給、空軍作戦機の一大発進基地&燃料弾薬補給などなど、重要な役割を担っています
中国も米軍にとっての重要性を認識し、グアム島攻撃用の航空機発射巡航ミサイルや弾道ミサイルの整備を着々と進めていますが、ご丁寧に最新型H-6大型爆撃機に搭載した巡航ミサイルで、グアムのアンダーセン基地を攻撃するシュミレーション映像まで公開しています
米太平洋軍は2013年にTHAADミサイル防衛システムをグアムに配備していますが、太平洋軍は更なるMD装備の拡充を優先要望事項にあげており、要望を受けたミサイル防衛庁が2026年配備完了に向け、完成形態の最終設計を2023年度中に終了すべく予算要求をしています
ちなみに2022年度予算では約95億円の設計&調査費と約50億円の先行調達費を当初要求しましたが、米議会が追加で約90億円を上乗せしています
3月30日付Defense-News記事によれば
●2023年度予算案でMDAは、グアムのMD整備用に約660億円を要求し、多層なミサイル防衛体制に必要なシステムや配備装備設計の検討、配備場所の調査、レーダーや兵器用部品調達費用にしたい考えである
●28日にMDA幹部は予算案説明会で、「現状のMDシステムは北朝鮮からの弾道ミサイル対処能力はあるが、中国からのミサイルを含む脅威は日進月歩の勢いで変化している」と予算への理解を求めた
●MDAのHill長官は、ルーマニアやポーランド配備のAegis Ashoreのような固定システムだけではなく、分散型システムも検討しており、移動式ランチャー活用にも関心を持っていると語った
●そして、能力が現時点で確認されている米海軍のSM-3やSM-6、PAC-3、そして現有のTHAADの組み合わせを基本とするが、米陸軍が2023年に配備予定の「Mid-Range Capability missile」などの将来装備も可能になったタイミングで組み入れることも検討すると述べた
●また、上述のシステムは指揮統制システムとして米陸軍の「Integrated Battle Command System」で連接されるが、「イージスシステムの火器管制能力」も活用するとも同長官は語っている
●現時点では、弾道ミサイルと極超音速兵器対処に取り組んでいるが、その後にPAC-3の持つ優れた巡航ミサイル対処能力を米陸軍C2システムを通して融合させる
●同長官は課題として、グアム島でミサイル防衛システムに使用可能な土地が限られていることを上げ、「高低の変化が激しいグアム島の中の、利用可能な限られた地籍に大きなAegis Ashoreシステムや関連センサー用の場所を見出し、他システムとの連接を確保する事は、他の場所での知見を活かせるような単純な作業ではない」、「この課題のため、過去数年間に膨大な検討を行ってきた」と語った
●また例えば、グアムで検討している巡航ミサイル対処要領については、米本土防衛用にも応用可能となろう。既存センサーの活用は、宇宙センサーを含めた融合にも発展させる方向で、発射機も同様に、新たなミサイルが導入されればMDシステムへの取り込みを考え、進化発展を考えていくと同長官は説明している
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グアム島各所に先住民の方にとっての「神聖な場所」が存在し、その場所を米軍施設や観光開発から隔離することが大前提となっています
ミサイル防衛整備以前から、米海空軍受け入れ能力強化のための施設工事が色々と進んでいますが、その度に先住民の方々との調整が難航しています
それでなくても、サンゴ礁でできた島ですので、MD用に適当なまとまった土地を見つけてレーダーやセンサー覆域等々を考えると、非常に難しいパズルを解く必要があるのでしょう。
「2026年運用開始がマスト」との厳しい事業ですが、その進捗を見守りましょう
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