あくまでも自動化技術獲得が狙い
状況に応じ無人飛行も含めた多様なレベルの自動操縦を選択使用
操縦者はより高次元の意思決定に専念可能に
ヘリの事故に悪天候時の人的ミスが多い教訓も背景に
ロッキード社傘下のヘリ企業Sikorskyが、米国防省のDARPAとの共同研究(ALIAS)の成果として、2月5日と7日にUH-60 Black Hawkヘリを完全無人で飛行させることに成功したと発表しました。
DARPAやSikorsky社は、必ずしも無人多用途ヘリを開発しようとしているわけではなく、「目的は操縦者が任務に集中できるよう多様な自動操縦オプションを提供すること。自動化システムが操縦者にとって代わることではない」、「今後のカギは、100%有人操縦から、100%自動操縦までの段階的な自動化レベル移行を円滑に行うこと」と表現しているように、へり操縦者負担を軽減し、より高度な作戦判断に集中することが可能な自動操縦システムを追求することのようです
背景には、ヘリが飛行する低高度域は障害物が多く、敵からの脅威も高く任務遂行に関わる判断事項が多いため、短絡的に無人化追求は難しく、多様な状況に応じて様々な自動操縦オプションを確保しておきたいとのニーズが、米陸軍や特殊部隊、更に救難救助部隊で強いことがあるようです。(もちろん、へり操縦者のポストを確保したいとの職域エゴもあるとは思うが・・・)
またヘリ関連の事故の多くが、悪天候時の人的ミスによって引き起こされていることから、悪天候時に人間の判断をサポートする自動操縦への期待も大きい模様で、現在は有人操縦で運行不可能な天候下での自動運行を可能にする技術開発も目的の一つになっているようです
2019年10月にSikorsky社のIgor Cherepinsky自動化部長にインタビューした際は、「我が社は世界に向け、地上からの無人自立飛行を2020年に披露する」と語っていましたが、コロナの影響もあってか、2022年2月まで初の「無人自立飛行」は遅れた模様です
ただし延長期間を無駄にはしていないと主張するためか、実際の飛行はケンタッキー州の陸軍基地で行われた様ですが、自動操縦システムにはマンハッタンの摩天楼を複雑に避けて飛行する場の設定がヴァーチャルで付与され、無人UH-60Hは高度の上げ下げや進路変更を繰り返して仮想高層ビル街での試験飛行に挑戦して成功させた様です
今回の試験はDARPAとの共同研究(ALIAS:Aircrew Labor In-Cockpit Automation System)の一環ですが、Sikorsky社は民間ヘリへの応用を視野に置いたSARA(Sikorsky Autonomy Research Aircraft)計画も進めており、そこで開発している「MATRIX」自動操縦システムをALIASでも使用したとのことです。ネット上では「ヘリの操縦が45分でマスターできる」とのキャッチフレーズを同社が使っているようです
多様なレベルの自動操縦をニーズに応じて実現する目的の一つは、既存の米軍ヘリにも軽易に費用対効果に見合った自動操縦システムを付加可能なハード&ソフト開発であり、DARPAとSikorsky社の約180億円をかけた6年間の共同研究は、その面でも着実に成果を上げているようです。
これら多様な自動操縦技術は、UH-60後継ヘリの開発にも当然活用され、「将来長距離攻撃ヘリ:FLRAA:future long-range assault aircraft」(過去記事参照)などにも組み込まれると考えられています
UH-60後継検討について
「米陸軍UH-60後継の長距離攻撃ヘリの選定開始」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-07-13
「米陸軍ヘリは無人化でなく自動化推進の方向か!?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-11
「UH-60後継を意識した候補機開発」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-06-16