祖父が台湾空軍副司令官だった女性です
陸軍省での技術&兵站担当次官補を経て
米空軍科学諮問委員会の委員長経験も
空軍との極超音速兵器等を巡る対立も匂わせ
1月19日、昨年7月就任のHeidi Shyu技術開発担当国防次官が講演で技術開発優先事項について語り、オースチン国防長官から「強固に防御されたエリア:contested regions」での作戦遂行能力強化を求められており、人工知能AIや自律的システム、それを支える指揮統制ネットワーク、極超音速兵器やレーザー、量子技術や5Gに続く6G・7G新規格等の対象分野を上げています
一方で、国防省開発体制の問題点を示唆するように、スターアップ等の最新技術を取り込む仕組みが乱立して投資効果確認が難しくなっている点や、国防省内研究機関の施設老朽化問題に対する取り組みの必要性にも触れつつ、また新空軍長官が率いる米空軍との関係が技術開発分野で微妙な雰囲気になることを示唆するような発言もあり、優先事項より気になる内容となっています
Heidi Shyu次官は1953年台湾生まれで、祖父が台湾空軍副司令官との家系で、米国で工学系の大学や大学院を卒業後、軍需産業であるヒューズ、グラマン等を経てレイセオン社で技術者として長く勤務した後、2000年から2010年の間に米空軍科学諮問委員を務め、その間副委員長や委員長を5年間も経験しています
国防省での勤務は、2011年から16年の間に陸軍省の兵站&技術開発担当次官補として経験しており、技術開発担当の国防次官としては、国防省の技術開発事業全般を取り仕切り、DARPA、MDA、SDA宇宙開発庁、DIU(Defense Innovation Unit)等の開発機関を監督することになります
20日付米空軍協会web記事によれば同次官は講演で
●(19日のPotomac Officer’s Clubでの講演で、)オースチン国防長官が「contested regionsやhighly defended areas」で戦う手段追求を重視していることを受け、技術開発で重視する事項をまとめる最終段階にある
●AI、自立化システム、ネットワーク強化や極超音速兵器やmicroelectronics分野が含まれるが、既に市場にある技術・製品を最大限に活用し、効率的に迅速に必要なものを前線に届ける姿勢で臨みたい
●米議会からは半導体製品の7割をアジアからの輸入に依存している点を問題として強く指摘されており、商務省や半導体企業と連携して半導体産業の国内回帰に取り組みたい
●また、複雑化する国防システムを前線兵士が効率的に使いこなせるよう、短時間で兵器やシステムに習熟可能な装備品開発や、システムと兵士のインターフェイス改善にも注力したい
個別開発分野について同次官は
●極超音速兵器開発は開発推進と停滞を繰り返して進んできたが、国防長官も高い関心を持っており、今後はアクセル全開で取り組む。陸軍と海軍は今年フルスケールの飛行試験に臨む好ましい状況にある(同兵器の費用対効果から、19日に慎重姿勢を空軍長官表明した米空軍の空中発射型開発には言及せず、会場が微妙な雰囲気に)
●レーザー開発でも、30年の長きにわたる取り組みを経て、陸軍と海軍では攻撃的活用にも本格的に踏み込みつつある(ここでも米空軍について語らず、微妙な雰囲気に)
●量子技術活用については、量子コンピュータ分野に研究者2000名動員の中国に対し、米国は100社が参入して取り組んでおり、目を離さず取り組む。量子通信や量子センサーにも関心を持っている
●通信技術分野では、世界の動きに追随するような形ではなく、5Gに続く次世代の6G・7Gを国防省が率先して切り開いていくような形に関心を持っている。5G通信による軍レーダーや高度計への干渉が問題にならないよう、確実な対応を行う。
●Hicks国防副長官から指示を受け、国防省や各軍種の研究開発インフラの課題や問題点を取りまとめており、1月末にはご説明したい。課題解決には約6000億円の投資が必要と見積もっているが、民間企業、産業界、大学や学界との関係強化を生かしつつ、研究開発インフラのギャップ改善に取り組みたい
●小規模企業やスタートアップ企業から最新技術を取り入れて技術開発を促進する取り組みは、20以上にのぼる国防省内の担当組織(AFWERX, SOFWERX, and the Army’s Rapid Capabilities and Critical Technologies Office.)の存在もあり、投資効果の確認が難しくなりつつある。多様な組織の任務や役割を再確認&整理し、対象企業との連携連絡手段を整備し、更に契約メカニズムもはっきりさせてアイディアが形になるよう、強力に管理していく
●各軍種毎の能力不足分析ではなく、統合レベルでの地域戦闘コマンドの能力不足分野を特定するため、200もの課題から約30の重要テーマに絞り込み、これを各地域に関連する4つのシナリオに落とし込んで分析を進める。「Rapid Defense Experimentation Reserve」との検討枠組みで、2023年度から段階的に取り組みたい
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冒頭で申し上げたように、優先事項そのものよりも、米空軍との不協和音や、優先事項から伺える現状の問題点が興味深いところです。
また、これら分野を統括する国防次官に、100%中国・台湾系の血が流れる女性が就任していることにも注目したいと思います。現場視察の様子を紹介するお写真をご紹介していますが、現場に飛び込んでいくタイプの方のようです。
情報共有と漏洩防止のはざまで
「外国製ドローン購入規制」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-14
「軍需産業との情報共有に乗り出す」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-01-05-1
「半導体での米国巻き返しを討論」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-08-25
「中国製部品排除に時間的猶予を」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-08-15
「上院による偽部品レポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-05-23-1
「米国製兵器は偽物だらけ!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-03-29
「中国製にせ部品との戦い」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-11-10
危機に乗じた中国資本の米軍需産業への浸潤を警戒
「再びLord次官が警戒感」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-02
「米国防次官:中国資本の浸透警戒」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-26