空軍長官:中国が亡霊核兵器FOBS開発の可能性示唆

低角度で打ち上げ宇宙低軌道から敵地攻撃
高高度飛翔の弾道ミサイルより探知困難
冷戦時にソ連が一時配備もSLBM出現で破棄した歴史

Kendall SASC3.jpg20日、Kendall空軍長官が米空軍協会航空宇宙サイバー会議で基調講演を行い、急速に軍備増強を図る中国脅威対処について時間を費やして訴え、特に中国による宇宙関連兵器の脅威を取り上げ、冷戦時ソ連が一時配備したFOBS(Fractional Orbital Bombardment System)を中国が復活させようとしていること等について語りました

一般のICBMが垂直に近い角度で打ち上げられ、高度1000マイル以上の高度に達する弾道飛翔するのに対し、FOBSは低角度で発射され150マイル程度の宇宙低軌道レベルにしか上昇しない核搭載ミサイルで、一般のICBMが北米大陸北極海沿岸のICBM警戒レーダーで米本土着弾の30分前に探知されるのに対し、FOBSは低高度で探知されにくく、5分程度の対処余裕しかないとされていました

FOBS4.jpgまたソ連のフルシチョフはFOBSを南半球経由で米本土に指向し、早期警戒レーダー網の無い「米国の背後」から攻撃可能な兵器として配備すると米国を威嚇し、1969年8月に最初の部隊が運用を開始しました。しかしその後、潜水艦搭載のSLBMが開発され、1970年代後半に戦略兵器制限条約SALTⅡで弾道保有上限が議論され始めると、FOBSはその役割を終えました

FOBSとの名称の「Fractional Orbital」は、1967年10月発効の宇宙条約(Outer Space Treaty)が「宇宙の平和利用」を唱え、「核兵器など大量破壊兵器を運ぶ物体(ミサイル衛星等)を地球を回る軌道に乗せたり、宇宙空間に配備してはならない」と定めた第4条規定から言い逃れるためソ連がつけた名称で、「一時的にしか軌道上に存在しない」点を強調した呼び名です

専門的知識不足のため、中国が今になってFOBS導入を狙う背景を語ることはできませんが、そのほかにも「極秘情報」として米国防関係者が訴えたくても訴えられない中国の宇宙関連兵器開発が相当進んでるようで、今回の航空宇宙サイバー会議でも宇宙軍関係者から危機感を訴える発言が相次いでいますので、ご紹介しておきます

20日付米空軍協会web記事によれば
FOBS.jpg●Kendall空軍長官は「宇宙空間を利用した世界的攻撃能力を潜在的に保有する大国としての中国」が出現しつつあると危機感を訴え、「冷戦時代にFOBSと呼ばれた古いコンセプトの兵器であるが、宇宙に向かって撃ち込まれ、一旦軌道に入ってから、軌道を離脱して目標に向かうシステムだ」と中国が開発中であることを示唆した
●「この方式を使用すると伝統的なICBM飛翔弾道を描かず、(早期レーダー探知が困難な低高度を飛翔するため、)ミサイル警戒システムや防御システムによる探知を避けることが可能になる」とも同長官は説明した

●更に別の兵器について明確な表現は避けたが、実際に「宇宙に配備される潜在的な攻撃能力を秘めた装置」にも同長官は言及した
FOBS2.jpg●空軍長官は、既に中国がロボットアームを備えた衛星を宇宙空間に配置していることから、前述の「宇宙兵器能力のある装置」の技術的実現可能性に疑問の余地はないとも語った

●本件に関しては、2月に宇宙軍トップのRaymond大将が、ロボットアームで他国の衛星を捕まえ無効化する技術を中国が保有していると表現している
●1967年の宇宙条約は大量破壊兵器の宇宙空間配備を禁じているが、宇宙空間での攻撃能力の話題は宇宙軍では一般的になっており、この問題を国民的議論にするため、宇宙軍幹部は機密情報の機密解除に向け努力しているところである

FOBS3.jpg●Raymond大将は「中国が開発中の能力を知れば、米国の宇宙アセット無効化のためにやっていることだと容易に理解してもらえるだろう」、「絶対に中国にそうさせてはいけない。そうさせれば、米国は敗北する」とも語っている
●宇宙作戦コマンド司令官のWhiting中将は、「大気中では他国の領土上空を通過することは許可がないとできないが、宇宙空間には他国上空を許可なく通過可能との大きな利点が存在している。ただ逆に言えば、兵器が使用可能なゾーンに誰でも容易に侵入できる点で大きな弱点ともなる」、「だから我々は潜在的な攻撃に対して強靭な態勢を構築する必要があるのだ。そのためにここ数年努力しているのだ」と語っている
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FOBS解説の動画(約15分)

機密情報の「機密」部分をアピールし、中国の脅威をアピールしたいとの声は、予算が厳しい中、米軍の様々な方面から上がっています。中国の脅威や軍備増強を明らかにし、次期制空機NGADの必要性を訴えたいとの声も、その一つです

中国の宇宙開発は、月面着陸に成功し、宇宙ステーション設置にも着実に成果を上げています。ぜひとも「機密」解除を進めていただき、その実態を日本とも共有いただきたいと思います

WikipediaですがFOBS(部分軌道爆撃システム)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%A8%E5%88%86%E8%BB%8C%E9%81%93%E7%88%86%E6%92%83%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0

最近増加する中国宇宙脅威の訴え
「統参副議長が中国の宇宙脅威を」未公開→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-14-1
「米情報機関トップが中国宇宙脅威を語る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-04-15
「国防宇宙戦略を発表」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-19
「提案:宇宙兵器の6分類」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-28
次期制空機NGAD絡みで中国脅威を語らせてくれ
「戦闘機族ボスが戦闘機のステルス性限界に言及」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-09-07
「次期制空機のデモ機を既に初飛行済」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-16

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