2018年と19年War Gameでの大敗北を受け
2020年秋には大損害も何とか勝利の戦力編成は
2030年を想定し、新たな戦力構成検討に資するため
12日付Defense-Newsが、米空軍が米議員も招いて2020年秋に行った2030年想定の台湾シナリオ大規模War Gameの様子を、Clint Hinote米空軍戦略計画部長(中将)へのインタビューをもとに取り上げ、2018年と19年実施のWar Gameでの反省を踏まえ、様々な新装備や新体制を組み込んだ米軍体制で、大損害を被りつつも何とか勝利に持ち込んだ様子の一端を紹介しています
演習の性格から、細部状況は不明ですし、2022年度予算案を提出する前に結果を整理していることから、米空軍の現在の検討や開発方針を支える結果となっている点は否めませんが、本ブログで細切れにご紹介している様々な断片を全体像で捉える機会にもなりますので、長い長い記事ですが、概要の概要をご紹介します
演習の経緯
●2018年War Gameは南シナ海を舞台にしてほぼ現状戦力で戦ったが、記録的な短時間で大敗北を喫した。19年台湾シナリオではインサイド部隊とアウトサイド部隊の効果を比較する形式で行い、敗れたが、最善の組み合わせを考える資となった
●これら2回の結果を踏まえ、2030年を想定し、まだ具体化されていない装備等を含め、様々な施策を実施した想定で米軍戦力を準備した結果、war game開始直後、仮想中国軍指揮官が戦力配備から台湾侵攻を中国側に不利として躊躇するまでに米側体制準備ができた。
米軍の体制(指揮統制や配備)
●全ドメイン指揮統制コンセプトを導入完了し、軍種間で各種センサー情報を共有でき、迅速な指揮統制が可能な態勢を確立。空軍はABMSを導入し、海軍の「Project Overmatch」や陸軍の「Project Convergence」と連携連接して円滑な情報や指示共有が可能
●米空軍は指揮統制の分散・権限移譲を図り、全軍種のメンバーで構成される5-30名の小指揮統制チームがタブレット等を用いて強靭で柔軟な指揮統制を維持。中国側によるハワイのヒッカム司令部攻撃にも作戦の指揮統制途絶を無くす
●西太平洋地域に、滑走路を延長して施設も強化した分散運用基地を複数準備し、各拠点に燃料・部品・運用支援機材を事前集積。戦力を分散配置した結果、どの拠点にも容量の5割以下の戦力しか配置せず、1拠点の被害が全体に大きな影響を与えない体制を強化
●台湾も国防支出を増加して現在の国防強化構想実現に成功し、無人システムや電子戦装備を強化し、陸海空軍の増強を完了
戦闘機の構成
●次世代戦闘機NGAD、F-35、F-15EX、更にBrown参謀総長が提唱した「5世代機マイナス・4世代機プラス」の4機種構成
●NGADは、従来F-35が想定していた敵空域侵入を伴うSAM制圧などの作戦を行い、足の短いF-35は中国艦艇対処や巡航ミサイル対処などに馬車馬のように機能する。ただしここでもF-35は、まだ配備されていない「Block 4」が前提で、現有タイプでは任務遂行は不可能
●F-15EXは防御的任務の他、長射程ミサイルや極超音速兵器の発射母機として活躍し、新導入の「4世代プラス機」は本土防空や反乱分子対処に投入
無人機の活用
●MQ-9やRQ-4は台湾シナリオでは活躍の場はなく、現在開発中や構想レベルの戦力が必要となる。台湾海峡には小型安価なドローンで構成される「無人機の群れ」が主としてセンサーや通信中継機として、また時には兵器を搭載し大量投入される
●XQ-58A Valkyrieのような無人機は、第2列島線上のグアム島などから発進し、損耗をあまり気にすることなく敵艦艇や敵地上目標を攻撃する
●RQ-4の後継的なアセットには、ISRに留まらず、通信データーノードや空中レーダーとしての機能も期待され、老朽化が進むE-3の後継として豪空軍のE-7Aの無人機バージョンも検討されている
爆撃機と輸送機の役割
●B-52とB-21を使用し、B-52は危険の少ない遠方から大きな搭載能力を生かしてスタンドオフ攻撃を実施し、B-21はその突破力から敵空域での作戦を担当する
●一方、作戦が始まると双方のミサイル射程範囲での空輸は困難となり、水食糧から医療品、燃料・弾薬・整備機材等の事前集積が不可欠であることが明らかになった
●物資の前線空輸が困難となる輸送機だが、その搭載能力を生かし、パレタイズされた長射程兵器を機内から投下する手法が期待されている。敵からすれば、予期しない場所からミサイルが飛んでくる脅威となり、また攻撃能力が不足しがちな戦域で戦力となる
●空中給油はKC-46Aがフル体制で活動したが、敵脅威エリアで活動できなかった。同時にWar Gameでは、空想の小型給油機を大量に配備使用する形と、より大型のタンカーを運用する形態が試された。結果についてHinote中将は、今後の検討の資を得られたが、様々な条件で結果は異なり、単純に結論は得られないと語った
両軍の損耗について
●2018年のWar Game時より米軍の損害は抑えられ、中国軍はより大きな損害を受けたが、それでも依然として大国との戦いは「破滅的:catastrophic」な被害を両サイドにもたらす
●中国の野望に対して軍事力で立ち向かうということは、その損耗を受け入れる覚悟を必要とする。今回のWar Gameには両院軍事委員会のメンバーが招待され、戦いの想定される様相や教訓共有の場となったが、これが今後の予算説明円滑化に資することが期待されている
//////////////////////////////////////////////////////
対中国を想定し、米陸軍や海兵隊が長射程兵器の導入を中核に据える部隊改編に注力する中、米空軍はWar Gameやシミュレーション等の結果を踏まえてそれらの動きに強く反対する姿勢を示してきましたが、このWar Gameもその主張を支える一つでしょう
両院の軍事委員会メンバー議員を招待するのも大事なことでしょうが、統合参謀本部も含め、陸海海兵隊との意思疎通にも努力してほしいところです。
Davidoson太平洋軍司令官が3月に議会軍事委員会で、「6年以内に中国は台湾支配に動く」と発言して以降、富に注目を集めている台湾シナリオですが、日本の役割をどの程度期待し、どの程度の損害が日本に出ているのかとっても気になります
遠方攻撃を巡り米軍内に不協和音
「空軍大将が陸軍を痛烈批判」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-04-03
「米陸軍トップが長射程攻撃やSEADに意欲満々」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-12
「海兵隊は2つの長射程対艦ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06
「米空軍トップがWar Game結果を踏まえ地上部隊批判」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-02
輸送機からの兵器投下検討
「輸送機から長射程ミサイル投下を本格検証へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-01
「ミッチェル研究所は輸送機からの兵器投下に反対」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-19-1
「MC-130からパレタイズ兵器投下試験」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-01
XQ-58A Valkyrie関連
「小型ドローン投下試験」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-04-06
「米空軍の無人ウイングマン構想」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-27
NGADとF-15EXと5世代マイナス機関連
「F-15EX初号機」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-15
「5世代マイナス機検討」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-02-19
「NGAD関連」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-02-27-1
台湾軍事関連
「台湾軍の対中国体制に危機感」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-02
「次の太平洋軍司令官候補が台湾に切迫する危機に警鐘」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-25
「台湾の巨大な中国監視レーダー」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2013-11-28
CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶ
まとめ→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-08
その1:総論→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
その2:各論:海軍と空軍へ→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
その3:各論:陸軍と新分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-2