エンジン整備負担軽減で兵站支援減、音も静かに
前線での充電をどうするかが大課題
化石燃料依存体質の見直し
22日付Military.comが、米陸軍Army Futures Commandが配下の将来戦闘車両検討部署に対し、電動モーター使用の戦闘車両導入について検討するよう指示したと報じています
電気自動車は民間部門で技術開発が進みつつありますが、米軍地上部隊の車両にもその技術を応用して導入が可能かや、どのような課題があるかのをきちんと検討整理しようとの指示だと理解しています(to find out what it would take to outfit the service’s tactical and combat vehicles with electric engines)
背景には地球環境問題への配慮から化石燃料への依存を減らそうとの考えもあるようですが、内燃エンジン維持コストの増大不安や、エンジンのシンプル化による整備負担軽減、更に静粛化による作戦面のでのプラスもあるようです
記事の見出しを見た際は、「米陸軍も環境問題に付き合わされて可哀そうに・・・」と思ったのですが、前線での充電をどうする問題は大きいとしても、最近の民間での技術開発を背景に、導入のメリットもあるような雰囲気であり、今回の公にしての検討指示となったようでもあり、ご紹介しておきます
22日付Military.com記事によれば
●米陸軍のArmy Futures Commandは、配下のMCDID(Maneuver Capabilities Development and Integration Directorate)の中の、「Maneuver Requirements Division」に対し、戦術戦闘車両の電動推進化に関する要求文書(requirements document for Tactical and Combat Vehicle Electrification)取りまとめを指示した、とニュースリリースした
●同ニュースリリースは、「自動車産業界を中心として、車両の電動化がすさまじい勢いで進んでいることを我々は目にしているが、米陸軍の立場から、戦術&作戦面での利点については十分に明らかになっていない」、「我々が追及している能力と最新技術がマッチしている面もあり、今が電動化を検討するタイミングだと信じている」と表現して検討の重要性を訴えている
●今年4月にArmy Futures CommandのEric Wesley副司令官(中将)は、戦闘車両のデザイナーは既に、民間車両の電動モーター技術を軽戦闘車両(Joint Light Tactical Vehicle)にスケールアップして応用可能だと証明していると語っている
●検討を命ぜられたMCDID関係者は、10月20日にwebで開催予定の「virtual Electrification Industry Day」において、検討の基本的方向性を紹介したいと考えており、米陸軍も「CALSTART」との非営利団体と協力体制を構築して検討姿勢を強化している
●同副司令官は同じく4月に、長年続いてきた内燃エンジン中心の世界が存在する中、自動車業界は電動化への移行の動きを見せており、結果として、電動化による内燃エンジン部品製造企業の減少と部品コストの上昇につながるとの見方を示している
●また、電動エンジンは戦術面から静かなことが利点で、シンプルな構造で構成部品が少ないことから、維持修理も簡単との長所がある、とも言及している
●更に、車両の移動可能距離を伸ばせる可能性もあるが、一つの大きな問題は、辺鄙な前線エリアで確実に如何に車両に充電するかである、と同副司令官は語っていた
●同副司令官は、ブラッドレー戦闘車両の後継である「Next Generation Combat Vehicle」のような重量車両に電動技術を搭載するには、まだ時間が必要だろうとも述べている
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「充電」問題解決は容易ではないと思いますが、検討の背景に、電気自動車増加→自動車部品メーカーの淘汰減少→内燃エンジン部品価格の上昇→維持整備費の高騰・・・との観点があるとは知りませんでした。
また電動モーターを動力にすることによる軽量化も、「車両の移動可能距離を伸ばせる可能性」を秘めているとの視点も新鮮でした
「充電」問題には、もしかしたら、サイバー攻撃を受けた際の停電対処の記事でご紹介した「輸送可能な小型原子炉発電」も、検討対象かもしれません
関連のありそうな過去記事
「やり直し歩兵戦闘車ブラッドレー後継選定」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-19
「サイバー停電に備えミニ原発開発」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-07