次世代制空機NGADの製造開始は「pretty fast」と
バーチャル設計と最新製造技術の組み合わせ
単一機種長年使用から、短サイクル機種転換可能性追求か
14日、米空軍調達開発担当次官補Will Roper氏が、検討は行われているが先送り状態とご紹介してきた「次期制空機:NGAD:Next Generation Air Dominance」について、最新のバーチャル設計開発技術と最新製造技術を駆使し、要求性能設定から1年足らずで既にデモ機の初飛行を終えているとDefense-Newsに明らかにし、15日の講演でも大々的にアピールしました
Roper氏は、初飛行の時期やデモ機の特徴、何機デモ機を製造したかや関与した企業の有無、有人機か無人運用可能か、ステルス性や航続距離や搭載兵器等々の具体的事項への質問に一切答えず、いつごろ本格生産可能かとの問いにも「pretty fast」とだけ答えています
しかし同氏は、この機体は同じくバーチャル設計技術を駆使しているT-7練習機のようなシンプルな機体ではなく、「我々がこれまで製造した中でもっとも複雑なシステムだ」と強調しつつ、デジタル上でのチェックをクリアーしただけでなく、わずかな時間で既にデモ機が飛行している点を強調しています
これは単に次期制空機NGADを秘密裏に開発していたとの衝撃に留まらず、以前からRoper氏が主張してきた「Digital Century Series acquisition model」方式により、1機種の戦闘機を大量購入して30年使用する従来の方式を抜本的に改め、約8年毎に最新技術を投入した新機種導入し、1機種を16年程度で退役させることで、開発費や機体製造費は高くなっても、真に経費がかかかる30年寿命後半の維持費や改修費用を半分以下にしてトータル経費を削減し、多くの軍需産業の生存と競争を確保しつつ、時世にあった最新機を使用できる方式への転換の可能性を示すものとして各方面に大衝撃を与えています
この方式への転換は米議会の理解が必要で、米議会からの逆風の中にいる米空軍とRoper氏にとっては、14日以降の「デモ機初飛行済」発表は2022年度予算に向けたアピールと理解されていますが、この方式への転換で既存のF-35やF-15EXへの影響は避けられないとも見られており、軍需産業界は大騒ぎのようです
また具体的な名前は出しませんでしたが、Roper氏はこの新たな開発製造方式により、SpaceXのElon Musk氏のような投資家が参入できる可能性が広がると示唆し、過去10社で争っていた軍事航空機産業界が、現在は3社程度の狭い世界となり、健全な競争体制にないことへの対応であることも軍需産業界を大いに揺さぶっています
更に戦略的な対中国の視点からRoper氏は、最新機を短いサイクルで投入することで、中国を受け身の位置に追いやり、米国が主導して相手に対応コスト負担を強いることにも有効だとアピールし、新方式への転換に幅広いい支持を得ようと工夫しています
15日付Defense-News記事によれば
「Digital Century Series acquisition」をRoper氏は
●これまで戦闘機など作戦機は、開発費や機体価格に焦点が当たってきたが、使用開始後15年後以降(つまり機体寿命後半)に維持費が毎年3-7%毎年上昇することや、15年以上使用することによる近代化改修費が大きく、トータルのコストが莫大なものになっていることが無視されがちだった
●今年8月に米空軍の先進航空機計画室がまとめた「Digital Century Series model」分析によれば、1機種を大量調達して30年使用する従来方式と比較し、8年毎に新機種を導入し、その機種を飛行時間が3500時間を超えない約16年使用する前提で、毎年50-80機を継続調達していくことで、
●開発費は25%増、機体製造費も18%の増となるが、長期間1機種を使用することで必要となる寿命後半での近代化改修費が79%削減でき、期待維持費も50%削減可能となることから、トータルで従来と比較して10%の費用削減につながることが明らかになった
●このようにも短いサイクルで新しい戦闘機を設計し続ければ、複数の企業に開発を競わせて最もよいものを選択でき、結果的に複数の企業が生き残って健全な軍需産業基盤の維持につながる
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Defense-News記事は今後の展開について、軍需産業調整を事前に完了し、2022年度予算で米空軍がこの新方式をどこまで具体化して予算案として打ち出し、米議会を説得して実現するかにかかっている、と分析しています
新しいBrown空軍参謀総長が「今変化しなければ勝てない」と訴え、エスパー長官も大統領選挙の結果に左右される前の年末までに米軍再編や新たなな戦い方をまとめようとしているこのタイミングでこの打ち出しです。
F-35を大量に購入することにした日本をはじめとする世界の国々は、Will Roper氏の発言を必死でフォローする必要がありましょう
Roper氏が新調達方式を語った過去記事
「次世代航空機はギャンブル」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-05
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「戦闘機族ボス:中国正面で戦闘機のニーズは?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-28
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「連接重視で航空アセット削減へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-28
「次期制空機検討は急がない、急げない」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-19
「米空軍が次期戦闘機検討でギャンブル」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-05
「戦闘機族のボスがNGAD予算を危惧」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-21
「PCA価格はF-35の3倍?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-12-15
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「脅威の変化を語らせて下さい」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
「中国軍事脅威の本質を考えよう」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2012-12-30
「A Balanced Strategyを振り返る」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2011-11-27