「Healy」が火災で、「Polar Star」は南極準備で修理中
北極圏に派遣可能な砕氷艦ゼロの惨状
8月25日付Military.comは、同18日に北極圏に向け出港したばかりの中型砕氷艦「Healy」で同日火災が発生し、推進モーターや回転を伝えるシャフトが損傷して北極への進出が不可能になり、シアトルに修理のため向かっていると報じました
北極海の氷減少に伴い、中国までもが北極圏での活動を強化するため大型砕氷艦2隻体制に昨年増強し、ロシアが原子力推進6隻を含む10隻程度の外洋航行砕氷船(合計では50隻との統計も)を、プーチンの大号令の下、20隻体制に増強を進める一方で、米国は建造から40年以上経過した老朽の大型砕氷船「Polar Star」と、艦齢20歳の中型の科学調査用砕氷船「Healy」しか保有がない状況にありました
それが今回の「Healy」推進機関付近での火災により、艦齢40歳を超えて維持&修理に時間が掛かり、年間6か月間の稼働が精いっぱいのなさけない状態の「Polar Star」のみが、米国の保有する極圏で使用可能な砕氷艦となりました
さすがのトランプ政権も特に北極圏の覇権争い激化を懸念し、2029年完成を目指した「砕氷艦3隻体制」構築に向け予算措置を始め、計画の増強を視野に入れた見直しも大統領が指示しているところですが、新体制完成はまだまだ先の話であり、今後10年間は米国の北極(南極も)プレゼンスは期待できない見通しです
ちなみに、老朽砕氷艦「Polar Star」は今秋まで予定の修理終了後、米国観測隊支援のため南極へ向かう事になっており、火災の「Healy」を埋め合わせる砕氷艦はありません
8月25日付Military.com記事によれば
●8月18日にアラスカのSewardを出港した「Healy」全長約130mは、同日午後9時30分に2つある推進機関の一つが火災に見舞われた。幸い火災は26分間で鎮火でき負傷者もなかったが、左側の推進モーターとモーター回転をスクリューに伝えるシャフトを破損し、砕氷艦として運行できなくなったと沿岸警備隊の報道官は説明した
●艦齢20歳の「Healy」は火災当時、米本土から60マイル沖合を航行していたが、乗り組んでいた海軍科学者や沿岸警備隊の訓練を受けたクルーなど28名と共に、10月まで予定していた北極圏での活動をキャンセルしてシアトルに向かった
●沿岸警備隊の太平洋エリア司令官Linda Fagan中将は、「火災を早期に鎮火させたクルーの働きを多とするが、同砕氷艦が修理を終えるまで、国家の極地安全保障活動を支える砕氷艦能力が著しく限定されることとなった」と苦しいコメントを発表している
●この「Healy」の火災は、7月に発生したF-35搭載改修終了まじかの強襲揚陸艦Bonhomme Richardの大火災、小規模ながらその後に強襲揚陸艦Kearsargeと建造中の空母John F. Kennedyで連続発生した米海軍艦艇火災に続くものとして、海洋安全保障関係者に衝撃を与えている。
●砕氷艦態勢立て直しのために「3隻体制」を目指しての取り組みは、1隻目が現在設計段階で、2021年初頭に建造が始まり2024年進水の予定である。2隻目はトランプ政権として約600億円を2021年度予算案に計上しているが、上院が審議中で予断を許さない状況にある
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「傷口に塩」を擦り込むような話が連続して発生しているのが米海軍と沿岸警備隊です。
もともと「Healy」は中型の科学調査用砕氷船ですから、米国のプレゼンスと言っても限定的な力しかありませんが、それでも情けない話です・・・
「Healy」火災の被害がどの程度で、修理にどれくらいの期間が必要なのか記事は触れていませんが、軽ければ早々にメディアに情報が出るはずですので、相当の被害だと考えてよいでしょう。18日の火災ですから・・・
中国の砕氷艦について(海自幹部学校)
→ https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-122.html
北極に関する話題
「グリーランドに中国企業」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-09-08-4
「北極航路ブームは幻想?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-13
北極圏:米国防省と米軍の動き
「大統領が米砕氷艦計画の再評価指示」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-15
「米空軍2トップの寄稿;北極圏と米空軍」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-01-13
「トランプ:空母削って砕氷艦?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-19
「米国砕氷船実質1隻の惨状」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-16-1
「米軍北極部隊削減と米露の戦力差」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-02
「米軍C-17が極地能力強化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-02
「北極海での通信とMUOS」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-25-1
「米国防省の北極戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-23-1
「米海軍が北極対応を検討中」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-20
ロシアの北極圏活動
「ロシアが北極圏の新しい軍基地公開」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-30
「露軍が北極に部隊増強」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-04-1
「露が北極基地建設を加速」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-09
「ロシア軍が北方領土に地対艦ミサイル配備へ」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-26
同艦艇の再使用困難か
完成直前の虎の子F-35B搭載可能艦艇喪失は大打撃
「強襲揚陸艦Bonhomme Richard火災の衝撃」
→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-15